第15話 - 処罰

二日目が始まり、下月はリエンの叫び声で再び起こされた。


「起きろ! 全員!」前夜の悪夢はまだ頭を離れず、胸には重い塊が残る。


周囲の囚人たちは一斉に寝台から転げ落ち、ためらう者は一人もいない。リエンは無表情で列を見回し、特に誰にも言葉をかけずに踵を返した。また地獄が始まる。


通路へ出ようとした瞬間、下月の腕がそっと引かれた。振り向くと、痩せぎすの少年が埃まみれの顔で微笑んでいる。


「オレはレンジ。新入りだよな?」


どこか弓月を思わせる、年若い光を宿した瞳。


「こんなところにいるには若すぎる」と下月が呟くと、少年はかすかに肩をすくめた。


「母親に売られたんだ。父さんが死んでから、あの人は変わっちまった。いや、本性だったのかもな。」


「家事も全部オレがやってたんだけどね」とレンジは苦笑する。


下月は拳を握った。不公平さに怒りが滲むが、少年の中に灯るかすかな希望をも感じ取った。


「さあ、リエンが戻る前に行こうぜ」二人は作業坑へと合流する。


ピッケルが岩を打つ乾いた衝撃、粉塵、息苦しい熱気採石場の日常が再び始まった。リエンの冷たい視線が常に背中に刺さる。


作業の合間、下月は低声でレンジに尋ねた。


「リエンという女は何者だ?」


「元・軍人らしい。脱走兵でここに流れ着いたとか。詳しくは知らないけど……処刑された囚人を見て泣いたことがあるって噂だ。」


「……あの女が泣く? 信じられん。」


「ほら、あそこにいる筋肉の塊。あいつが目撃者だってさ」


下月が視線を送ると、鍛え抜かれた大男が重機を操りながら、蛇に噛まれたリンゴの刺青を露わにしていた。リエンに人間味があるなら、それは脱出への鍵になるかもしれない。そう考えた刹那、甲高い破砕音が響く。


レンジの前で岩壁が裂け、青白い魔力が奔るように漏れ出した。少年は呆然と立ち尽くす。


「何をやった!」烈火のごとく駆け寄るリエン。兵士が剣を抜き放ち、「処刑だ!」と叫ぶ。


下月は咄嗟にレンジの前に飛び出した。


「俺のせいだ! 俺が注意を逸らした!」そのとき、彩り豊かな長衣をまとった長身の男が悠然と現れる。


「おやおや、面白い騒ぎだね」バイ・ロン。全身に豪奢さを纏い、口元に余裕の笑み。


「リエン、何事かな?」


「バイ・ロン様。囚人が魔力を散逸させました」


「ほう、処刑するかね?」兵士がうなずくが、バイ・ロンは首を振る。


「働き手を殺すのは資源の無駄だ。鞭二十五回で十分だろう」レンジの顔色が失われる。


それでも彼は声を上げない。

リエンは下月に冷笑を向けながら囁いた。


「英雄気取りは無意味だ。よく見ておけ」レンジは柱に縛り付けられ、むち打ちが始まる。


ビシッ血しぶきが舞い、洞窟に雷のような音が木霊する。二十、二十一……少年は歯を食いしばり、一度も悲鳴を漏らさなかった。労働者たちは沈黙し、助けは来ないことを悟っている。


バイ・ロンは鼻歌まじりに立ち去り、リエンも背を向けた。


「終わりだ。連れて行け」兵士が鞭を拭いながら下月を指差す。


「おい、不具者。そいつを独房まで運べ。終わったら即戻れ」レンジは意識を失い、か細い呼吸をしている。


下月はその身体を背負い、長い坑道を引き返す。独房に辿り着き、うつ伏せに横たえると、そっと手を握った。必ず償わせる。この地獄の主たちに。

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