第10話- 裏切り - 第2部
工房の外では、下月がまだ息を切らしながらレンチを握りしめ、ブラックサンの面々と対峙していた。拳は痛みで痺れ、レンチはまるで重りのように感じる。だが相手は五人。まるで勝ち目はない。それでも下月の目からは闘志が消えなかった。
彼は思い切り踏み込んで、一人の胸をレンチで殴りつけた。男はうめきながら後退する。別の一人が背後から襲いかかるが、下月は身をひねってその膝を打ち抜き、悲鳴を上げさせた。
激しい殴打が交錯し、血の味が口に広がる。体じゅうの筋肉が軋んでも、下月は倒れない。絶妙なタイミングでジャケットの内ポケットから拳銃を取り出し、ブラックサンに向けて突きつける。「下がれ!」低く唸る声に、相手たちは動きを止めた。銃口を見れば誰しもが撃たれるリスクを恐れる。張り詰めた沈黙のなか、空気が凍るように重くなる。
そこへ、錆びたトラックの軋むエンジン音が近づき、工房の入口に停まった。車から降りてきたのは、ブラックサンの頭・ツムギ。唇を切り傷で汚しながらも、不敵に微笑んでいる。
「やるなあ、下月。なかなか面白いじゃないか。」ツムギはその場にいた全員を見回した後、トラックの奥に誰かを顎で示す。そこから姿を現したのは、工房責任者のシガ。怒りで顔を真っ赤にしている。
「ったく、話が違うぞ、ツムギ! こんなに工房をメチャクチャにしやがって、修理費は莫大だ!」シガが怒鳴り声を上げると、ツムギは呆れたように肩をすくめた。
「ちょっと壊れたぐらいで何を大袈裟な。もっと重要な話があるだろ?」
「何が重要だ? 下月にも教えてやれ。おまえが俺たちを呼んだんだろうが!」シガは腕を組んだままツムギを睨む。促されるように、彼はわざとらしく咳払いし、下月に向き直った。
「仕方ない……いいだろう。下月、お前にはもううんざりなんだ。余計な噂ばかり巻き起こすし 、トラブルメーカーだ。俺の工房に居座られては迷惑でな。だから切り捨てると決めたんだ。」
下月は歯を食いしばり、銃を握ったままシガを見やる。
「……つまり、おまえは評判を守るために、俺を売ったわけか?」シガは肥えた腹を揺らしながら卑劣な笑いを漏らす。
「評判? フッ、そんな甘いもんじゃねえ。俺の金はすべて、戦死した兵士の家族から巻き上げたもんだ。投資させるだけさせて、最終的には俺が全部かっさらう。そのために邪魔者は排除する……それが一番手っ取り早いんだよ。」
下月は乾いた笑いを漏らし、銃口をやや下げる。 「ようやく正体を現したな。要するに他人の不幸で金を稼ぐクズ野郎ってことか……」その言葉に激昂したシガは、下月へ殴りかかろうとする。しかしツムギがサッと手を伸ばしてそれを制した。
「おっと、シガ。こいつにはまだ使い道があるんだ。今殺されちゃ困るんでね。」シガはツムギを振り払うように睨む。 「じゃあどうするんだ、ツムギ! 修理費はどうしてくれる。こっちは大損害だぞ!」ツムギは鼻で笑い、肩をすくめるだけ。
「約束どおり報酬はもらう。工房がどうなろうと知ったこっちゃない。」
「くそっ……!」 シガが悔しそうに毒づくと、騒動で負傷した従業員たちが彼を取り囲んだ。彼らはお互い目配せをしながら、徐々にシガに詰め寄る。
「おいシガ、さっきから金の話ばっかじゃねえか。俺たちがさっき死ぬ気で工房を守ろうとしたのに、あんたは金と設備のことしか気にしていないのか?」シガはうんざりしたように吐き捨てる。
「おまえらなんてただの雇われだろうが。給料払ってるんだ、黙って働け。情けをかける義務なんかねえんだよ。」
その言葉が決定打となり、作業員たちの怒りが爆発する。何人もの拳がシガを殴り倒し、そのまま地面に伏せさせた。
ツムギはそれを横目に見ながら、下月の方に近づく。下月はまだ息を荒げていたが、銃を下ろしている。「さて、連れて行くぞ、ガキ。道のりは長いからな。」 ツムギの合図で、ブラックサンの手下たちが下月の腕をねじ上げ、頭から袋をかぶせる。下月は反抗しようとするが、数人がかりで押さえつけられ、トラックの荷台へ乱暴に放り込まれた。エンジンがうなり声を上げ、トラックは闇の中へと走り去っていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます