20話

 ブレウの出産のため、労を取ってくれたカイラ。

 そのカイラへの感謝のために、軽い食事会などを催した。

 とびきりの料理でもてなし、改めて謝礼金を渡し。

 それから賑やかに談笑しながらの食事を楽しんだ。


 和やかに食事会は終わった。

 そして、それから、夜。

 あなたは忍びでカイラの部屋を訪れていた。


 そっとノックをして、カイラに入室を促され。

 窓際に佇んで月光を浴びるカイラの姿に魅入る。

 艶やかな黒髪に月光が落ち、天使の輪のような輝きを宿す。

 夜の闇よりもなお深い黒の瞳があなたを見つめていた。


「待ってましたよ、私のあなた」


 きれいだ。夜の女神みたい……。

 あなたが思わずそう零すと、カイラが微笑んだ。

 そして、透け感のある薄絹の夜着を、指先でちょいとズラした。


 露わとなるまろやかな膨らみ。

 大き過ぎず、それでいて小さすぎない。

 美しい曲線が、その張りを示しているかのようだ。

 ツンと上向いた先端に思わず視線が吸い寄せられる。


「さぁ、早く吸って?」


 なんて積極的なのだろうか。

 あなたは距離を詰め、カイラを抱き締める。

 そして、啄むようにキスをして、首筋に、鎖骨にと、下へ下へとキスを落としていく。

 やがてあなたの唇が、硬くしこったその先端を捉えた。


 あなたはおっぱいが大好きだ。

 大きくても、小さくても、平等に愛している。

 大きいほどにいいけれど。

 小さければ1度に堪能できる。


 カイラの大きくないが、小さすぎない乳房。

 その、すべて一度に堪能できてしまえるサイズ。

 実に、いいサイズだ。あなたはカイラの胸に溺れる。


 舌先が味を確かめるように踊る。

 ほのかに甘いような、そんな気がした。


 カイラの腕があなたの頭をかき抱く。

 ぎゅうと胸の中に捉えるように。

 逃がさないと意思表明しているかのようだ。


「もっと、強く……」


 お望みとあらば。


 あなたはその先端を、乳房丸ごと含むかのように口に。

 そして、カイラの望むままに、赤子のように吸った。


「あっ……! ああぁ……私のおっぱい、たくさん飲んでくださいね……?」


 あなたに授乳することに対してモチベーションの高いカイラ。

 そのモチベーションはいまだ健在であるらしい。

 いや、それどころか、そのモチベーションは高まる一方のようだ。


 とくとくと溢れ出して来る甘い液体。

 それはあなたの口内を満たしていく。

 マジでミルクが出せるようになったらしい。

 頭おかしいんじゃあるまいか。


「ん、ふふ……おいしいですか? ブレウさんは、イロイちゃんにお乳をあげますけれど……私のは、私のあなたのためだけのミルクですよ……?」


 そう言われると、滾る。

 あなたは貪るようにカイラの乳房を吸った。

 あなたのためだけに出るようになった母乳。

 それを飲まされている。酷く倒錯的だ。


 だが、嫌いじゃない。むしろ、好きだ。

 カイラのすべてを独占しているような……そんな気分になる。

 あなたは空腹の赤子のように夢中でカイラの乳房を吸った……。




 甘く、溺れるような、背徳的な交合。

 赤子のためにあるべき母乳をあなたが飲む。

 なんてインモラルな……だからこそ興奮する。

 甘く、乳臭い逢瀬。嫌いじゃない、むしろ好きだった。


「うふふ……私のミルク、おいしかったですか?」


 おいしかった。毎日飲みたいくらいだ。

 しかし、それは些かインモラル過ぎか?

 やはり直飲みを毎日続けていると頭が狂ってしまう。

 あなたの母にカイラがインサートされる異常事態が発生する。

 ここはひとつ、カイラに搾っていただいて……。


「……本気で毎日飲もうとしている時点で結構手遅れだと思います」


 そうかな……そうかも……。


「でも、直飲みじゃないとだめですよ~。いつでもママがおっぱいあげまちゅからね~♪」


 くっ、脳が焼ける……!

 あなたは気が狂いそうなほどの興奮に包まれた。

 カイラの頭はおかしいと思うが、それはそれ。

 本来なら赤子のためのものを呑ませてもらえる。

 その特別すぎる対応は、なんとも言えない劣情を呼び起こす。


 人間、女性観や男性観と言うのは、親から培うものだ。

 であるがゆえに、やはり女性観の中には母性が含まれる。

 その母性の象徴と言ってもよいものは、母乳ではなかろうか。


 あなたはただでさえ女が大好きでたまらない異常者だ。

 さすがに性交にまでは至らないものの、母でも妹でも余裕で口説いた。

 そんなあなたであるから、母性の象徴と言える母乳もやはり……大好きなのだった。


「じゃあ、たっくさん飲んでいいんですよ~♪」


 そう言って嬉しそうに自分の胸を持ち上げるカイラ。

 あなたは喜んで乳房を吸わせてくれるカイラに涙した。

 いつでもおっぱいを吸わせてくれる……こんなにうれしいことはない。


 なにより、母乳が好きと言って引かれなかったのも嬉しい。

 さすがに特殊性癖が過ぎるとは自覚があるのだ。

 マザコンを拗らせた果ての母乳趣味は、たしかにちょっとやばい。


 でもサシャの常軌を逸したサディズムとか。

 クロモリの常軌を逸したマゾヒズムとか。

 あのあたりよりはマシだと思っている。

 あと、あなたの妹の子供好きとか。

 あれらはもう人間として、生物としておかしい。




 

 さて、夜が明けてからのこと。

 あなたはブレウとイロイに見送られ、帰途に就くことになった。

 イロイはミルクとおむつ以外はほとんど泣かない大人しい娘だ。

 冬のやわらかな日差しも相まって大人しくブレウに抱かれている。


「イロイ、お仕事に行くお父様に、いってらっしゃいって、ね?」


 ブレウがそう言って、腕に抱くイロイの手を取って軽く振る。

 ふにゃふにゃと揺れる手、半開きの口。とにかくかわいい。

 あなたはこのまま残りたくてしょうがなかった。

 イロイを健やかに育てる大事業に着手したかった。

 しかし、領地には帰らなければならない。

 イミテルがおなかの子と共に待っている。

 あなたは断腸の思いでイロイに手を振り、行って来るねと答える。


「ご主人様、お気をつけて」


 手を振るサシャ。サシャはこちらに残るつもりでいるらしい。

 あなたが作った図書館で、今までの冒険の記録を編纂するんだとか。

 そして、それを冒険記であり、小説として仕立てるまでこなす。

 カル=ロスの言及していた『ソーラス冒険記』の執筆に着手するのだ。


 特段、まだ冒険に出ようとは思っていないので構わないのだが。

 アレはどう見てもイロイを可愛がりたい思惑が4割くらいはある。

 ずるい。あなただってイロイのことを可愛がりたいのに……!

 おむつを替えて、ミルクをあげて、抱っこして、添い寝したいのに……!


「頑張って来てください、ご主人様。イロイの成長過程は私が丹念に記録をつけておいてあげますからね!」


 善意もあるけど、これ優越感を感じるためでもあるぞ!

 あなたはサシャのいじめっこ気質の発露を垣間見た。

 悔しいが、あなたはこれを甘んじて受け入れるしかないのだ。


 あなたは泣きたくなりつつも『引き上げ』の魔法を起動する。

 同行するカイラの手を握って、『引き上げ』の同行者にする。

 『アルバトロス』チームも反対の手を握っている。

 あなたは居並ぶ見送りの者たちに、では行って来ると宣言した。


「お気をつけて」


「いってらっしゃいませ!」


「おかえりをおまちしています」


「ご主人様、最後におっぱいひと揉みさせてください!」


「私は尻をひとつかみ!」


「唇に一発むちゅーっと!」


「あなたたちっ!!!」


「すいませんメイド長!」


「ゆるしてつかぁさい!」


 使用人たちの送り出しの言葉に手を振る。

 『引き上げ』の魔法が発動し、あなたたちは次元の扉を開いた。





 魔法でびゅーんひょい。味気ないが早い。

 あなたたちはあっと言う間にアノール子爵領に到着していた。


「ここがあなたの領地……そう言えばトイネって初めてですね~」


 まぁ、おおよそ不毛の大地であるが、悪いところではない。

 『アルバトロス』チームが所望した射爆実験場も楽に作れたし。

 孤児たちを訓練するための訓練場も別途用意することができた。

 緑豊かな地帯であればそうもいかなかったろう。

 地面を均すだけでも一苦労だったはずだ。


「考え方次第ですかね~。さて、ではさっそく、往診ですね~。イミテルさんにはお会いしたことがないんですよね~」


 そう言えば、言われてみるとそうかもしれない。

 ダイアとは会ったことがあるはずだが……。




 屋敷に入ると使用人に出迎えられた。

 そしてイミテルの所在地を聞くと、私室にいるとのこと。

 向かってみると、イミテルの部屋の前で『アルバトロス』チームが屯っていた。

 あなたがいない間はイミテルの警護か、孤児たちの教育を頼んでいたのだ。


「クライアントって男でも女にして食う強者なせいで、どんどん男女比率が狂うんですよね」


「そのうちこの領地女余りで滅びますよ」


「クライアントは女だけど女を孕ませられるので……」


「まさか、村の存亡を盾に領民を抱きまくれる大義名分を……!?」


「屑が過ぎる……そもそも大義名分なんかなくても抱くでしょ、あの人」


「それはそう。しかし、性転換ですか……私たちが男になったらどうなるんでしょう?」


「声優が山ちゃんになる」


「たしかに12人いても演じ分けてくれそうではありますが……」


「んん! 使用弾薬は7.62×51mm弾以外ありえない!」


「5.56×45mm弾は装填数が多いだけのボーナスバレット、ボレットですぞ」


「迫撃砲の場合は人力での運搬を考慮すると、軽迫撃砲でも役割が持てますな。ぺやっ」


「頭にヤがついてるからって不名誉なレッテル貼るな」


 あいかわらずなんだかよく分からない話をしている。

 あなたは『アルバトロス』チームにただいまと声をかけた。

 近くによって分かったが、セクションCのチームのようだ。


「あ、おかえりなさい、クライアント」


「おみやげくーださい」


「しれっと雇い主にお土産を要求する雇われの屑」


「まぁ、友人の母親にお土産要求ならそこまで……」


 あなたは困ったなと首を傾げた。

 お土産なんて用意してない。

 あなたは少し考えて、クッキーを渡した。

 サシャも大好き、ラチの実入りのクッキーだ。


「おお、ナッツクッキー。おいしそうですね」


「これってなんのナッツでしょう?」


「これはアレですね、ラチの実です。とても栄養があるのよ」


「味はともかく長靴いっぱい食べられたらと思いますね」


 味もちゃんといいので安心して欲しい。

 さて、あなたはセクションBの『アルバトロス』チームを置いて、カイラと共に部屋に入る。

 イミテルの部屋でもあるが、あなたの私室でもある。

 ベッドルームではなく居室なので、私的な応接室も兼ねている。


 部屋ではイミテルが穏やかにくつろいでいた。

 手に本があるあたり、読書に耽っていたらしい。


「うん? なんだ、あなたか。帰ったのか」


 あなたは頷いて、イミテルに調子はどうかと尋ねた。

 見たところ、まだお腹もさっぱり目立った様子はない。

 トイネにおける一般的な服装は比較的薄着だ。

 冬と言うこともあって、それなりにちゃんと着ているが。


「なんともないな。月のモノはさっぱりだが、つわりとか言うのもさっぱりだ。本当にいるのか?」


 などと言いながらイミテルが自分の腹を撫でている。

 つわりはまったく無い人間も一定数いるので不自然なことではない。


「ほう、そう言うものか……そっちは?」


 イミテルがカイラの方を見やって訪ねてきた。

 なので、あなたはカイラを凄腕のお医者様だと紹介した。

 回復魔法も高位のものを使いこなす上、純粋な医術は世界屈指。

 イミテルの出産も完璧にサポートしてくれるだろう。


「ほう」


「カイラ=イシと言います~。どうぞよろしく~」


「ああ、よろしく頼む」


「では、奥様~? さっそく、診察からはじめさせていただいてよろしいでしょうか~?」


「任せる」


 とのことで、カイラがイミテルの診察をはじめた。

 基本的には触診が主のようで、イミテルの腹を撫でたり、喉を見たりなどしている。

 数十分ほどかけて診察をしながら、カイラがなにかを書きつけていく。


「なるほど~。たしかに妊娠していますね~。妊娠4か月と言ったところでしょうか~?」


「そこまでわかるものなのか」


「はい~。胎児の性別については、現状ではまだ判別不能ですね~」


「産まれなければわからんだろうが?」


「わかりますよ~。ただ、さすがに時期が早すぎますのでね~。あと1月ほどしたら、ハッキリわかるでしょうか~」


「そうか。出来得るならば、後継ぎたりうる男児がよいが……」


「そのあたりは授かりものですので~」


 ブレウの時はおよそ妊娠4カ月で断定していたように思うが。


「時と場合によって見え方が違いますので~。今日は上手く見えませんでした~」


 鬨と場合で見え方が違うとはどういう理屈なのだろう。

 そもそも、触診していたのに見え方とは……?

 まぁ、なんか秘密があるのだろう。追求してもしょうがない。


「ひとまず、差し迫った問題などは感じられませんね~」


「そうか。礼を言うぞ、カイラとやら」


「では、次に~。メディシンフォージドの設置ですが~」


 あなたは頷いて、ぜひとも頼みたいと申し出た。

 ブレウに物凄く献身的に世話をしてくれていたらしいし。

 やはり、休息不要の奉仕者と言うのは強い。

 しかし、記憶がたしかならカイル氏のメディシンフォージドは今もベランサの屋敷にいるはずだが……。


 そう言ったところ、カイラがひょいと『ポケット』からメディシンフォージドを取り出した。

 カイル氏とまったく同様の造形をしているが、やはり生命でないことが分かる。


「量産効きますからね~」


 なるほど、そう言うことならば納得である。


「じゃ、費用については後ほどマルマルウマウマと言うわけで」


 カクカクシカジカと言うわけだ。

 要するにあとで纏めようということだ。


「イミテルさん、コレはカイルと言って、私の弟子……を模したゴーレムみたいなものです~」


「人にしか見えないが……よくできたゴーレムだな」


「簡単な医術、ワンドやスクロールの起動ができるほか、おしゃべりもできますし、生活の介助も可能です~。ただ、あんまり頑丈ではないので~、殴らないようにだけお願いします~」


「案ぜずともそのようなことはせぬ」


「そうですか~、これはまた失礼いたしました~。これを置いて行きますので~、妊娠中の世話と、出産後のサポートをしてくれますよ~」


「ほう、それは助かるな」


「私はまた後ほど……出産の1月前にまた来ますので~」


「なにからなにまで世話になるようだな。よろしく頼むぞ、カイラ」


「いえいえ~。では、後は夫婦の時間と言うことで、失礼しますね~」


 ……なんと言うか、カイラのあまりにも医者として理想的な姿に、違和感がある。

 ブレウの時も思ったが、あなたの子を孕んだ女に嫉妬とかしそうなものだが……。

 ともあれ、あなたは部屋の外の『アルバトロス』チームに声をかけ、カイラの案内を頼んだ。

 適当に応接室にでも通して、茶とか酒でもてなしてやって欲しいと。


 そうして指示出しをして、あなたはイミテルの隣に腰掛ける。


「……あらためて、おかえり、あなた」


 ただいま。


「うん……あちらでは、あなたの子が産まれたのだそうだな」


 あなたは目を反らしながら、ハイ、と素直に答えた。


「複雑なものがないとは、言わんが……割り切れるつもりではいる。貴種とは、そう言うものだ。ここに、我が子がいて……アノール子爵領を継ぐ者が、この子だけであるのはたしかだ……」


 貴顕の血脈とはそう言うものかもしれない。

 だが、あなたに対してはもっとわがままを言ってもいい。

 それが、夫婦と言う形であり、夫役であるあなたの役目だ。

 少なくとも、ぶん殴られる覚悟くらいはして来た。


「そうか……」


 イミテルが懐からナックルダスターを取り出した。

 それを指に嵌めた。そしてあなたをぶん殴って来た。

 脳天までぶち抜いて来る凶悪な威力にあなたは思わず呻いた。超痛い。


「……これで勘弁してやる」


 甘んじて受け入れよう。

 あなたは殴られた頬をさすりながら、抱き着いてきたイミテルを抱きとめる。

 お腹の子に毒なので、肌を重ねることはできないが。

 少なくとも、こうして触れ合うことを厭いはしない。


 あなたはイミテルと抱き締め合って、不在の間の寂しさを埋めてやろうとした。

 それが届かぬ願いだとしても、そうすることに意味があると思ったから。

 決して、抱き締めていれば殴られはすまいとか、そう言う打算はない。

 でも、殴られたくないのは本当なので、まったく無いとは言わない……。



 そう言うわけで、あなたはアノール子爵領に帰って来た。

 また、領主として未来を育てる仕事がはじまる……。

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