32話
カイラの家で情報を売り捌いた大金を抱え、あなたは街中をぶらつくのに戻った。
ふらっとケント氏の店に立ち寄って、軽く昼食。
それからまたふらっと歩いて、セリナの自宅を訪ねてみた。
セリナは自宅の庭先で剣を片手に佇んでいた。
なにをしているのだろう? あなたはそっと気配を消して近寄ってみた。
なんの飾り気も無い普段着姿のセリナは目を閉じて佇んでいる。
手にした剣はだらりと下げられつつも、適度な力加減で握られている。
近くに立ち、あなたはセリナを眺める。
いつもは鋭く怜悧な気配を纏っているが、今はただ静かだ。
酷く穏やかで、まるで樹木がそこに1本立っているかのような。
元々、ひどくしなやかなであると感じさせられる人だった。
それがより一層先鋭化……あるいは鈍化したと言うべきか?
あなたはセリナの立ち姿に、武の探求とはこういうものかと頷いた。
たぶん、なにかの修練で、なにかの精神修練なのだろう。
あなたは佇むセリナをじっくりと眺め、その姿に見入った。
まったく、実にいい乳をしている。あなたは力強く頷いた。
やはり、体を鍛えていると、迫力が違う。
こう、揉みごたえもあって最高と言うか……。
「ん? なにをしている? なんだその卑猥な手の動きは?」
セリナの乳に想いを馳せていると、セリナに気付かれた。
あなたはサッと腕を常の位置に戻し、遊びに来たよ、とだけ告げた。
「ああ、そうか。まぁ、適当に座って待っていろ。茶でも淹れてやる」
そう言って家の中に入っていくセリナ。
突然訪ねてきたのに普通に歓迎してくれる上、お茶も出してくれるらしい。
なんというか、セリナのぶっきらぼうですらある素朴な優しさが暖かい。
あなたは近くにあったすのこ椅子に座ってしばらく待つ。
すると、しばらくしてセリナが茶器を乗せた盆を手に戻って来た。
茶菓子らしいものもあり、随分としっかりしたもてなしである。
「あまり洒落たものではないのだが……まぁ、味は悪くないと思うぞ」
そう言って用意されたものは、大きなパイのようなものだ。
切り分けて食べるもののようで、取り分け用と思しきナイフとフォークもある。
セリナが手早くそれを切り分け、あなたの前に供する。続けて茶も注いで、あなたの前へ。
「ま、遠慮せずに
その割にこんなに大きなパイを作ったのかとあなたは首を傾げた。
「8月15は、中秋と言ってな。このユエピンとか言う菓子を食べながら月を見るらしい。この分量の作り方しか知らんのだ」
どこかの地方の風習らしい。伝聞調なところを見るに、セリナの師匠から教わった風習だろうか。
菓子を見ながら月見とは、またなんとも雅と言うか、貴族的と言うか。
凄腕の武術家と言うところも踏まえると、セリナの師匠、スーニャンなる人物は富裕な人物だったのだろうか?
「農民と聞いた覚えがあるが……どうだかな」
言いつつ、セリナも自分の分のユエピンなる菓子を切り分け、フォークで刺して口に運ぶ。
あなたも切り分けて口に運んでみる。
断面から見えていた黒いものがなにかと思ったら、甘く味付けされた謎のペーストだ。
その中にたっぷりと各種のナッツが入っており、パキパキとした食感が楽しい。
それを食べて口の中が甘くなったところで、茶を口に運ぶ。
無発酵茶特有の渋みと苦味主体の味わいは甘い菓子の味をサッパリさせてくれる。
この茶と合わせてしまうと、甘い菓子が無限に食えてしまう。
「うん、うまい」
セリナもしみじみと茶を啜っている。
「ふぅ……なにか、近頃変わったことはあったか?」
つい先日、自宅に凄腕冒険者を複数名招いて、仲間たちの訓練に付き合ってもらった。
そう言えば、その中に含まれるモモロウとメアリはセリナの知己である。
いまさらであるが、セリナも呼んでやればよかっただろうか。
「うーむ……いや、うーむ……あやつらと別れて3年は経つと思うと懐かしい気持ちもあるが……」
あるが?
「モモロウもセリナも……いや、ハンターズはどいつもこいつもセクハラ癖がな……それさえなければ、豪放で磊落な気持ちの良い連中なのだが……」
深々と溜息を吐くセリナ。
たしかに、豪快でさっぱりした雰囲気の彼女らは実に親しみやすい。
まぁ、それは表面的なもので、内面にはかなりドロドロしたものを抱えている気配もあるが。
何度やり直しても、トモとよりを戻し続けていたのは相当な情念を感じる。
ともあれ、表面的にはと言うか、トモ以外に対しては付き合い易い相手だ。
あなたはセクハラをされた経験がないので、特にそう思うのだろう。
そして、たしかに気持ちのいい連中だ。本当に最高である。
「そう言う意味の気持ちよさじゃないが、まぁいい。そう言うわけで、呼んでくれなくても構わん。まぁ、呼ばれれば行ったとは思うが、自発的に行きたいと思うほどでもない」
割と微妙な距離感だったらしい。
であれば、まぁ、よかったのだろうか。
あなたはユエピンを口に運び、また茶を飲む。うまい。
「ま、いずれでいいさ、いずれでな……そう言えば、訪ねてきた用事は本当に遊びに来ただけか?」
まぁ、一応は。なんとなくふらついていたら、近くに来たので。
深読みされても逆に困ってしまうくらい、あなたは理由を持ち合わせていなかった。
どうしても理由を持ち出すとするなら、事前連絡とかそのあたりだろうか。
そう、もうしばらくしたらソーラスを去るかもしれないという連絡だ。
「なに? なぜだ?」
あなたたち『EBTG』は随分と腕が上がった。
そのため、ソーラスの迷宮の9層の突破も視野に入ったのだ。
なんとなくだが、10層と言うのは区切りみたいなところがあるし。
もしかしたら10層で終わりなのかもしれない。
「ほう、9層……7層までしか到達している者がいないと聞いていたが、そこまでとはな……」
迷宮の攻略が終われば、ソーラスの町に用はない。
もちろん、女の子たちと再度遊ぶために再訪はするかもだが。
ここに腰を据えて、ソーラスの迷宮に挑むことはなくなるだろう。
だから、9層の完遂後、そのまま10層を攻略出来たとすれば、あと1月ほどでこの町を去ることになるだろう。
「まだ、皮算用だろうに」
たしかにそうだが、一応は伝えておく。
まぁ、べつに急いで町を出る理由もないので、攻略してからでもいいかもだが。
訪ねてきた理由もさしてないのだから、伝える理由だって大してなくても不自然ではない。
「ま、そんなものか……そうか、しばらくしたらいなくなる……のか」
そのしばらくというのが具体的にどれくらいかは不明ではある。
だが、そう遠くない先の話だろう。ソーラスの迷宮が20層とかまであるなら話はべつだが。
階層ごとの敵が強くなるペースを考えると、さすがにないと思われた。
「…………」
なぜかセリナが目を閉じて考え込み始めてしまった。
どうしたのだろう? なにか重要な連絡事項でもあるのだろうか?
「……おまえとは、以前に約束したな」
なにを?
「……房中術の、指導だ」
そう言えばそう言う約束もしていた。
あなたはその約束を履行してくれるのかと尋ねた。
「おまえが町を去るというならば、履行せねばならん。たとえそれが、私の死を招くことだとしても、侠たるもの吐いた言葉を飲むような真似はせん」
覚悟を決めた顔のセリナ。
そんなセリナに、あなたは優しく返事を返した。
無理やり気持ちを封じ込めてもいいことはない。
納得ゆくまで悩んで、それでもだめなら指導の約束も取り消していい。
無理強いはしたくないし、女の子を悲しませるようなこともしたくない。
セリナがどうしても嫌なら、やめてもいいんだよ。
そんな理解ある人格者みたいなセリフに、セリナが歯を食いしばる。
あなたの言ったことは、一応は本音ではある。
あなたは基本的には和合を尊ぶため、どうしても無理と言うなら泣く泣く諦める覚悟はある。
セリナは気功の師匠と言うこともあって、特にそう思いがちだ。
まぁ、今言ったのは、そう優しくされるとセリナはもっとつらいと分かってのことだが。
義理堅いがゆえに、約束を反故にしてもいいと言われれば意固地になる。
「いいや、ダメだ。やろう。房事の経験はなくとも、房中における気の扱いは知悉している。指導はする。そう決めた以上はやる」
なるほど、セリナがそう言うのならば、その意思を尊重しよう。
で、その指導、いつからはじめるのだろう?
「いま、ここで、これからだ。家に入るぞ」
なんと今すぐ始めてくれるらしい。
まさかの展開にあなたは狂喜した。
棚ぼた敵にセリナと初えっちが出来るとは!
家の中に誘われ、あなたは異国情緒あふれる内装に思わずきょろきょろとしてしまう。
そして、セリナの私室なのであろう、独特の箱型ベッドがある部屋に案内される。
木製の囲いと、それを覆うような天蓋がついており、ひどくエキゾチックだ。
しかし、このクソ暑い大陸で箱型ベッドは不向きでは……? あれは寒冷地で使うもののはずだ。
「いいか。房中術とはただ楽しむだけのセックスなどではない。それはあくまで修行法であり、身を慎む方法だ」
あれ? もしかして真面目な話?
あなたはまさかの展開に首を傾げた。
「そも、内功を鍛えたものは、同時に精命を鍛えるものだ。元々修行とは
そのあたりはよく分かった。
それで、房中術の修行と言うのはどうやるのだろう?
まさか、水に浸かったり、火で炙られながら訓練したりしないといけないのだろうか?
「いや、そうではない。つまり、正しい房事をすれば……気を正しくやり取りし、おたがいの気を循環させることができれば、より一層の高みに至れる。だからつまり……内気を練りながら、その、体を……か、重ねれば……」
つまり、いつものように呼吸を意識して内功を用いるべく、内気を練る。
そうして相手とドえっちなことをしながら、内気を循環させ合う。
そうすることによって正しい房中術になるということだろうか?
「い、一応、そうだ……」
なるほど、では、やってみよう。
やはり、武術とか技とか、なんかそう言うアレ。
要するに体を動かす類のものは、とりあえずやってみないと分からない。
「ま、任せておけ……任せておけ! 房事の知識くらいはある……! 問題ない!」
どうやらセリナがリードしてくれるらしい。
では、セリナに可愛がってもらうとしようではないか。
あなたはベッドに腰掛けると、さぁ、可愛がって? と腕を伸ばした。
「これは、修行だ……そう、あくまで、修行……修行なんだぞ。可愛がるとか、可愛がらないとかそう言うのではなく……」
しかし、気の循環とやらをする以外は普通に性行為なのでは?
「そう言われるとたしかにそうなのだが……だが、あくまでも、私たちは、そう、師として、弟子として、房中術を実地で学ぶために行為に及ぶのであり、快楽を求めるためではなく……」
また随分とお堅い。
普通に気持ちよさを求めてもいいだろうに。
まぁ、セリナがそうしたいというならそれでもいい。
あなたはあなたなりに快楽を追求するし。
セリナにもたっぷりと快楽を刷り込むつもりだ。
やはり、やる上では楽しみたいものである。
「で、では……参るぞ!」
決闘みたいな掛け声だなぁ。
そう思いつつも、あなたは気合十分すぎてから回っている勢いのセリナを優しく迎え入れた。
あなたはセリナと深い交合を味わった。
お互いが呼吸と共に天然自然より取り込み、自身の生命力と共に練り上げた気。
それを肌と肌の触れ合う交合の中で、優しく循環させ、融通し合う。
魔力を融通したり、生命力を分け合ったり、そう言う技術は存在する。
気の循環と言うのも、そう言う類の技術だろうと思っていたし、その通りだった。
だが、それに伴う体感というものは、想像していたよりずっといいものだった。
肌を肌で触れ合い、熱を分け合う行為を、より先に進めたような。
お互いの生命の律動、その吐息、そして脈打つ命の鼓動……それすらも感じ取れる。
筋繊維の1本1本を自身の随意とすることこそ、内功の基礎にして真髄である。
それとおなじように、おたがいの肉体、そのすべてを感じ取り、知り尽くせる。
そして、流れ込んで来る気と、流し込む気は、おたがいの生命を溶け合わせるかのようで。
肉体と体感、そして精神の溶けあう行為は、恐ろしいほどに気持ちよかった。
相手の魂を全部抱き締めて、そして自分の魂もまた抱き締められる。
たぶん世界で一番同性経験が多いあなたでも、それは依存性がありそうなくらいに気持ちよかった。
「……もっと、したい」
そして、経験のなかったセリナは1発で堕ちた。
なんかズルしたような気分だが、あなたは何回でもいいよ、と優しくセリナに応えた。
セリナがしたいだけ、たくさんしようではないか。
お互いの気を融通し合うがゆえに、体力は無尽蔵とすら言える。
あなたとセリナが元より肉体的に頑強なのもある。
どうやら、今夜は帰れそうにないようだ。
まぁ、それならそれで、目いっぱい楽しもうではないか。
今夜は眠れないな!
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