3話

 10分ほどの話し合いの末、定義がまとまった。

 男女で子供を作るための神聖な行いがまぐわいである。

 女同士で快楽を求めるのは、単なる遊びである。

 そのような定義であなたはダイアとイミテルを丸め込んだ。


「では、あなたの求める報酬は、トイネの民の女、そのすべてと自由に遊ぶ権利……そのような素朴なものでよいのですか?」


「絶対に違う……違うけど、たしかにそうとしか言えない……許せ、トイネの女たちよ……我が武はあまりにも無力だ……」


 嘆くイミテルがメチャメチャ面白い。

 まぁ、そんな権利もらわなくてもあなたはナンパに精を出す。

 そしてもちろん抱くし、食べるし、可愛がるだろう。

 そう言う意味では、被害者は大差ないとも言える。

 そもそもトイネにあなたを招いた時点で一巻の終わりということだ。


 だが、女犯許可証を持った女になれれば、貴族にも手を出せる。

 なくても出せるが、あれば責任を王家にぶん投げることが可能だ。

 自分のシモ事情を他人に尻ぬぐいさせる。最高に最悪である。


「さて……報酬も纏まったことです。依頼は請けていただけるということでよろしいでしょうか」


 あれ? そう言えば断るために吹っ掛けたんじゃなかったっけ?

 あなたはようやくそんな根本的問題を思い出した。

 このままでは依頼を請けることになってしまう。

 あなたは向こうから断らせるべく、もう国際問題だろうが国辱だろうが構うものかとぶちまけた。

 つまり、ダイアとイミテルもトイネの女だが、自由に遊んでもよいのか? と。


「貴様ァ!」


 イミテルが激高し、固く握りしめた拳を振りかぶった。

 身のこなしからわかっていたことだが、イミテルは武僧の技術を会得している。

 それで殴られれば痛いだろうが、やむを得ないだろうとあなたは歯を食いしばる。


「おやめなさいッッ!!」


「ぐわっ!」


 ダイアの鋭い叱責の声と同時、激しい打撃音。

 イミテルが空中を1回転しながら飛んで行き、壁に叩きつけられた。

 ダイアが髪の毛を逆立てるほどの力強さで激怒すると、力任せの一打を叩き込んだのだ。

 ダイアの細身の肢体から放たれたとは思えない一撃だった。


「イミテルッ! 適正な報酬を求めた彼女の行動に如何なる非があったというのですか! 彼女の言に非がなくば、あなたはただ貴種の強権を己が欲望のために振るわんとしたことになるのですよ!」


「ひ、姫様……さ、さすが、お強い……」


 イミテルはグロッキー状態だ。

 ダイアの一撃がよほど堪えたと見える。

 まぁ、あれだけ強く殴られたらグロッキーにもなる。下手したら死ぬし。

 しかし、意外なことにダイアも戦闘技能の持ち合わせがあるらしい。

 身体能力の高さもあってか、割と強いようにも感じる。


「我が配下の無礼をお許しください……あなたの求めには何も問題がないことをわたくしが保障いたしましょう」


「えっ!? 問題ないのですか!?」


 問題ないの!?

 あなたとイミテルはまったく同じ驚きを抱いた。


「どのような問題があるのですか? ただ遊ぶだけなのでしょう?」


「し、し、しかしですね、姫様。こやつの言う遊ぶというのは普通の遊びではなく……!」


「ええ、そうでしたね。男女のまぐわいではなく、女同士のまぐわいをするのでしたね。やったことがないので楽しみです」


「そうです! そのようないかがわしい淫売がごとき真似を姫様がなさるなど……!」


「イミテル! 淫売などと言ってはなりません! いかなる生業せいぎょうにも貴賤などなく、ただ役割の違いがあるだけなのです! それは王家であろうと、貴族であろうと変わりません!」


「そのようなきれいごとを本気で信じておられたのですか!?」


 あなたはきれいごとなどではないと強い口調で断じた。

 たしかに娼婦とは汚い職業だろう。尊厳を切り売りする仕事だ。

 だが、その職業がなければ生きていけなかった者、死んでいた者だっているのだ。

 そうした存在を忘れて、ただ汚いと見下すことは傲慢なだけだ。


 あなたは娼婦である自身の誇りにかけて、そして娼婦を誰よりも愛する者として。

 ただ淫売と見下し、いかがわしい下賤と見下す者を許せなかった。


「イミテル、あなたは彼女の生業を侮辱したのですよ! 謝罪なさい!」


「ええっ!?」


「でなくば、ここで切って捨てます!」


 ダイアが腰に穿いていた剣を手にかける。

 刺突向きのレイピアだが、防具を着用していない武僧のイミテルならば切り捨てることは可能だろう。


「うっ……も、申し訳、ありません……あなたの生業を侮辱したこと、ここに謝罪させていただきます……」


 イミテルが謝罪する。意外なことに、ちゃんと謝っている。

 彼女としては、娼婦をそれほど見下しているわけでもないのだろう。

 咄嗟のことなので強い言葉が出てしまったとか、その辺りだろう。


「主として、私からも謝罪を……」


 ダイアがしなやかなうなじを晒して頭を深々と下げる。

 あなたは慌てて頭を上げるように言った。

 さすがに王族に頭を下げさせるのはまずい。


「ありがとうございます……では、失礼ながら話を戻させていただきます。反乱軍の征伐ですが……」


 あれ? なんか請けること前提で話が進んでいないか?

 そう思ったが、あなたは口を挟むことはしなかった。

 どうも依頼を達成したら、ダイアともヤれるらしい。

 まさかまさかのロイヤルな秘め事が楽しめるとは……!


 実のところエルグランドの王家も、王妃とは致したことがある。

 だが、その王国には姫はいなかったのだ。

 楽しめそうだ……! あなたは依頼に乗り気になって来た。

 そのためには依頼をなんとしても成功させなくては。

 あなたは依頼の成功率を上げるため、真剣に話を聞くことにした。


「現在、反乱軍はトイネ王宮エゼル・オストを占拠し、現王クラウ2世も敵の手に落ちています」


 落城寸前どころか既に落城した上で、現王も捉えられている。

 ここからどうやって挽回しろと? あなたは首を傾げた。

 まぁ、反乱軍と言うからには王権の正当性みたいなものはないのだろう。

 そこからすると、王宮さえ奪還できればなんとかなるのかもしれない。

 こちらには正当な王家の人間であるダイアもいるわけだし。


「反乱軍首魁である長兄クローナ王子は王位継承のため、戴冠式を執り行うことを目論んでいます」


 それってもうほとんどゲームセットでは?

 王の長男が王位を継承して何が悪いと言うのか。

 そんな状態ではもはや反乱軍が全滅しても、戴冠した時点で勝ちだろう。

 

「ですが、戴冠式のためには聖エゼル王冠と宝剣アノアラングが必要です。そして、アノアラングはこちらに」


 そう言ってダイアが指差したのは、身に着けているレイピアだった。

 国宝級の宝剣を帯剣した上で、配下を切るのに使おうとしていたらしい。


「トイネに安寧をもたらし、安らけき太平の世を生むべく、私は立たねばなりません」


 そのあたりの事情は分かった。まだゲームセットではないことも。

 同時になんでダイアが立って、クローナ王子とやらが反乱してるかは分からない。

 どちらに正当性があるのかもわからないが……。

 それに関してはどうでもいいことである。

 トイネが滅びようが栄えようが関係のないことだ。

 重要なのは、なにをしたら依頼の成功で、なにをされたら失敗なのかだ。

 あなたは報酬の方にしか興味がないのだ。


「そうですね。まず、王宮の奪還。そして、王都の反乱軍の討伐です」


 これはまぁ、当然の条件だろう。


「そして、反乱軍の首魁であるクローナ王子の殺害。可能であれば首も持ち帰っていただければ幸いです」


 これも当然の条件だろう。

 と言うか、敵の首魁が王子と言うのはどう言うことなのだろう?

 王族同士で跡目を狙って争った結果であれば、反乱軍とは言うまい。


「クローナ王子は廃嫡されているのです。ですので、王位継承権はありません。それを不服として反乱を起こしたのです」


 そう言うことかあなたは頷いた。

 たしかにそれであれば反乱軍首魁と言うのも分かる。

 王位争いではなく、これは簒奪なわけだ。


「それからは私が国を平定するまで……と言うのは長過ぎますので、クローナ王子に従っている有力諸侯を討伐して終わりと言うことにいたしましょう」


 ふむ、とあなたは再び考え込む姿勢に入った。

 思っていたよりも悪くない条件だったからだ。


 王宮の奪還と、王都の反乱軍の征伐。

 王都の反乱軍を次々と殺せばある程度は逃げるだろう。

 奪還することさえ叶えば、あとは時間が解決するし。

 そして、その時間もさほどの時間ではなさそうだ。


 王子の殺害と諸侯の殺害。

 これは楽勝だ。1時間あればできる。

 まぁ、場所さえ分かればだが。

 とは言え、規模の大きい集団の位置の隠蔽はまず無理だ。

 有力諸侯ならば容易く始末できるだろう。


 すると、この依頼は割と短時間で達成できるかもしれない。

 1か月の拘束期間でトイネの女食べ放題の権利。

 1か月の依頼で町の女を食べ放題でもあなたは喜んで頷く。

 それが国レベルの規模となったら、あなたはもう大喜びである。


 あなたはダイアに力強く頷いた。

 そして、トイネの安寧と民たちの平穏のため、最大限努力すると誓った。


「あなたの献身に感謝を……」


 さて、依頼を請けることは決まったわけだが。

 さすがに準備期間くらいはもらえるのだろうか?


「ええ、もちろんです。悠長にしていられるほどではありませんが、一刻の猶予も無いわけではありません」


 では、報酬を先にもらいたいのだが。もちろん全員とは言わない。

 今ここにいるトイネの民、つまりダイアとイミテルと遊びたい。


「そうですね。途方もない難業です。それを前に報酬の先払いは……」


「姫様ッッッ!」


「びっくりした! ど、どうしたのですか、イミテル?」


「姫様にそのようなことをさせるわけには……! 私が……! 私が、こやつと遊びます……!」


 イミテルが泣きそうな顔でそう叫ぶ。

 たぶんそうなるだろうなと思って持ち掛けたのだ。


 では、今晩一晩くらいは滞在していくといい。

 最大限のおもてなしをさせていただく。

 イミテルと遊ぶ件については今夜と言うことで。


「まぁ。では、楽しみにさせていただきます」


「姫様に無礼なことがなきよう、しかと饗応せよ」


「イミテル。もてなしとは様式や礼法、物質的豊かさではありません。その赤心せきしんを言うのです。ただ威丈高いたけだかに饗応を求めるのは下品なだけですよ」


「し、失礼いたしました!」


 この主従、見てるだけでかなり面白い。

 ダイアがかなり好感の持てる統治者と言うのもいい。

 これほどのまごころを持って人と接する人間と言う時点で珍しいが、それが王族出身というのも凄い。


 あなたはひとまず、2人を供応するために使用人に大急ぎで準備をさせることにした。

 トイネの姫であることは伏せているとは言え、無礼があったらまずい。

 たぶんダイア自身は気にしないか、不快を被っても顔に出さないだろうが。

 イミテルがキレ散らかしても困るので、できる限りのことはしよう。




 いくら金を使ってもいいので最高のおもてなしを。

 そうした意図の下、色んなもてなしをした。

 晩餐も叶う限り最高のものを手に入れ、あなたが調理した。

 あなた以上の料理人など早々いないのだから当然と言える。


「まぁ、とてもおいしい……あ、ほんとうにおいしい。なんですかこれ、すごくおいしい。おにくおいしい、おやさいおいしい、おみずおいしい、おさけおいしい」


 ダイアはよく食べ、よく飲んだ。

 メインディッシュのドラゴンステーキを3回おかわりしたくらいよく食べた。

 デザートのパフェなんか5回もおかわりしたくらいだ。

 給仕をしていたイミテルが頭痛を堪えるような仕草をしているのが印象的だった。


 晩餐後は入浴だ。さすがに改築はできないので浴場はそのまま使う。

 そして、入浴後にあなたの手によって最高のマッサージを施す。

 セリナから学んだ気功にはマッサージ技術もあるのだ。

 ダイアの極上の女体を手で堪能できるのであなたも楽しい。


「ほ、ほわぁぁ~……と、溶けます。私の体が溶けてしまいます……」


 全身とろとろにもみほぐしたら、湯船に漬ける。

 次にイミテルを施術台に寝かせてバキボキに分解する。


「ぐわっ! ま、待て! なんか私だけ毛色が違わないか! ぎゃっ! バキって言った! バキッって言ったぞ! うぎゃっ!」


 ダイアとイミテルでは必要な施術が違うからしょうがない。

 ほーらほら、リンパに効いてるリンパに効いてる。


「リンパってなんだ!」


 わからない。あなたは雰囲気でマッサージをやっている。


「雰囲気で!?」


 その後もあなたはイミテルを綺麗に分解し、組み立て直した。

 べつに痛めつけようとしていたわけではないのだ。

 武僧は体を虐め抜いて鍛えるので体に歪みがあったりするのだ。

 その歪みのバランスを治してやらないとケガの危険があり、荒っぽくなりがちなのだ。


「今までにないくらい体調が絶好調なのが逆に不気味だ……」


「私も体ぽかぽかでとても心地よいです。お上手なのですね」


 ダイアからもお褒めの言葉をいただけた。

 さて、あとは就寝するだけだ。

 もちろん客室は用意済みである。


「そうですね。失礼ながら、転移魔法も使いましたが、徒歩の旅もして来たので疲れていまして……」


 それはいけない。早く休んだ方がいい。

 あなたはダイアを客室に案内した。

 そして、ダイアが入室したのを見届けて、イミテルを自分の部屋に連れ込んだ。


「くっ……! この、下種め!」


 いいぞ! もっと言え!


「なぜ喜ぶか!」


 あなたは女の子から罵倒されても気持ちよくなれるからだ。

 どこぞの神の神使が実に口が悪く、あなたは罵倒されて悦びまくっていたものだ。

 しかし、そんな態度では明日にダイアに報告する必要があるだろう。

 あなたはイミテルと仲良くなりたくて、心地よく遊びたいのに……。


「卑劣な……!」


 砕けそうなほどに力強く歯を噛み締めるイミテル。

 こういう反抗的なのも実にいい。これをドロドロに蕩けさせると楽しいのだ。


 さて、まずはスカートを捲って下着を見せてもらおうではないか。

 あなたはランプの明かりに照らされるイミテルを辱めるべくそう命じた。


 薄明りの中、震えて佇むイミテルは実に可愛らしい。

 あなたより目線1つ分高い背丈は170センチほどだろうか。

 武僧として丹念に鍛え上げ、磨き上げられた肉体。

 エルフらしく、細く嫋やかな肢体。豊満ではないが、決して貧相ではない。

 短く切りそろえた金の髪が実に美しい。あなたとおそろいの髪色だ。


「くそっ……どうして……」


 泣きそうな顔でイミテルがスカートを持ち上げていく。

 露わになっていく白い太もも、やがて曝け出される純白の下着。

 あなたはいいぞ! ブラボー! と声援を送った。

 さて、これからイミテルはなにをくれるのだったっけ? あなたはそう言葉で嬲った。


「わ、私の……はじめてを、さ、さしあげ、ます……どうか、かわいがって、ください……」


 なんて可愛いおねだりの言葉なんだ!

 あなたは狂喜してイミテルをベッドに押し倒した。

 イミテルが涙を湛えた眼であなたを睨みつける。


「たとえ、この肉体をどれほど辱めようと……魂の尊厳までは汚せない……!」


 なるほど、たしかにそうだろう。魂の尊厳とは汚せぬものだ。

 しかし、あなたは魂はいらない。肉体の方が欲しい。

 なので、肉体さえ陥落してくれればそれでいいのだ。

 もっと可愛がって欲しいと積極的におねだりしてくるようになれば完璧だ。


「ふざけるな……貴様がどれほど凄かろうと……貴様の性技なんかには絶対に負けない!」


 まぁ、がんばってみるといい。

 あなたはイミテルを屈服させるべく、女たらしの手管を全開にした。

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