第16話

「…此方はすでに内容は把握している。アンタの護衛だろ?」

「ああ…。そうだ。名前は言わん。今後バレると不利になるからな。」

「へっ…!既にアンタの名前くらい把握済みだっつーの。」

「…そうなると思ったよ。」

「しかし随分と礼儀がなってねーよ。…そりゃ裏社会との繋がりもデカい俺を恐れるのはわかるがよお…依頼主として名を名乗らねえってのはさあ…相手に動いてもらおうっつー意思表示が皆無じゃねーのか?」

彼の横に立っていた護衛たちがシャーロットの前に立ちはだかる。

「おっと…すまんな少々…殺気が漏れた。落ち着いてくれ…何かしようと言う訳でもねえのよ。」

「…良い。下がれ。」

護衛たちは恐る恐る元の立ち位置に戻った。

「しっかし嫌われてんなあ俺。」

「…今までの実績が実績だからな。…分かった名乗ろう。私はジャック.ルソー。…まあ知っている者は皆知っているだろう。」

「ギャング組織のトップ『ポーカー』のボスって訳か。」

沈黙を貫いていた覆面の男が突如口を開いた。

「ああそうだ。」

「俺からも質問良いか?…何故アンタは狙われてる?…ポーカーは抗争で消滅した筈だ。」

「…私はあの時逃亡した。その後遺産を狙った者に付け狙われていてな。…組織のメンバーも大半が向こう側だ。」

「…どこまで逃げるってんだい?」

「発展途上国にアテがある。…そこに妻と娘がいる。…そこで余生を過ごしたい。」

「はっ!世界の麻薬の30%はあんたらの組織のものだ。…それに何万人もの女子供が売られた。…そのくせして人並みの幸せが欲しいと?」

「貴様!」

護衛の1人が男に魔装銃を向ける。

「まあ待て。…そうだな。私は持つ資格などないのかもしれん。…だが私はいつだって幸福を掴むために生きてきた。今回もまたそうするだけだ。」

「…そうかい。理解はできたが…納得はできん。でもまあ別に言及はしないさ。」

「それ以上言うもんじゃないよハンゾウ。」

「お、俺の名前知ってたんだ。」

「割と有名だよ。ニンジャの末裔だとかなんだとかで暗殺だの襲撃だのなんでもするとか。」

「割と曖昧じゃねえか…なあデボラ。」

「…」

「そこは俺と同じ反応しろよ。」

「自分の知名度くらい理解してるっつーの。」

「へっ…全身魔装機関で出来てる女とは話すなと親父が言ってたが本当らしい。」

「嘘つくんじゃねえよ。」

「あの…質問いいですか?」

「なんだね?」

「…逃亡が目的だから目立たないように戦力を厳選したいのは分かります。…ただそれにしても人数が少なすぎる。……と言う事はつまり…」

「…ああそうだ。シャーロットを使う。…とは言っても最後の手段としてだ。君らも個々の戦闘力は非常に高い。滅多に使いはしないさ。」

「……彼女の攻撃は最低威力でも街に甚大な被害を被ると聞きました。…本当にやるんですか?」

「おかしいと言うのか?」

「……まあ人道的な観点で見れば。」

「君とて常人を語れるほどの人間ではあるまい。……そう言う目をしている。」

「……」

なるほど、慣れ親しんだ人間の勘とは馬鹿にならない。レドは関心さえ覚えた。

「…悪いがその要求は呑めんよ。」

シャーロットはため息混じりに言い放つ。

「…何故だ?」

「街の人間を巻き込めん事情がある。」

「……おいおい。それで失敗でもしたらあんたの評判ガタ落ちだよ?…そしたらまた立場がなくなって襲撃されるかもよ?」

デボラが彼女を挑発する。

「…アツい挑発をどうも。生憎どうしても無理なんだよ。」

「…まさか本当な訳?シャーロットが病気だって話。」

「ああそうさ。無関係の人間を巻き込もうものならフラッシュバックで動かなくなる。……安心しろ、自分の弱点晒したからって口封じはしない。」

「そりゃどうも…」

デボラは若干動揺を見せつつ、口を閉じた。

「…分かった。これ以上時間をかける訳にもいかん。それで行こう。」

「で、どうすんのさ。何か作戦は?」

「…敵は複数で分かれてやってくる筈。そこをどうやって行くか…」

「あ、じゃあ僕からの提案なんですが…」

「…んだよガキ。くだらねえ提案だったら殴るぞ。」

ーーーーー

「……来たぞ。あれだ!」

「目立たない所から行って裏をかいたつもりか…しかもご丁寧に何組かに分かれてやがる…よし、行け!」

ビルから30人以上の魔導師が飛び降り、人気のない道路を走る車を追う。

「ははは…目立たない狭い通路を選んだと言う事は…逆に言うと逃げる幅が狭まるって事だ。…少しばかり認識が甘いんじゃあないか?」

魔導師の1人が車を覗き込んでそう言う。

「狭い通路って事は…俺の得意な領域って事だよ。認識が甘いのはそっちだ。」

ハンゾウは車の窓ごと魔導士の顔面に拳をぶつけ、即座に車から出ると、全方向に向けて手裏剣を飛ばす。とばされたえ手裏剣は魔導士の頭を貫き、壁に大量の血液が飛び散る。

「なっ…!こいつは…下がれ!広い場所に…」

「遅えよ!」

ハンゾウは素手から針を飛ばすと、自身の魔能力を発動した。巨大化した槍が魔導師の体を

貫く。彼は壁を蹴って移動し、残った者を追う。

「おい、小僧!早く来い!残りやるぞ!」

ハンゾウはレドにそう呼びかける。

「あ、はいわかってます。」

レドは淡とした表情で返す。

正面に回り込まれ、恐怖に引き攣った顔で魔導師は魔装銃を乱射する。

「あーもう…めんどくせーなー…ヨイショ…と。巨大風魔手裏剣…なんつって!」

ハンゾウは銃撃を交わすと、隙をついて巨大化した手裏剣を投げる。魔導師4人の体は、死を感じ取る隙もなく上下に引き裂かれた。

「物体の縮小化……」

「そ。ここに至るまで割と苦労したんだぜ?」


デボラは体の力を抜くと、体を変形させ、全身を魔装銃に変貌させた。

「多対1なら勝てると思った?残念、真逆だよ!」

銃口から発射される大量の銃撃が魔道士の体を貫通する。特攻しようと前のめりになった魔道士、銃を乱射した魔道士の脳、腕が地面に飛び散り、そして死体へと変わっていく。

「…こんなもんかね。」

「くっ…そ!」

「あ、まだ残ってたんだ。」

デボラ銃を構えた残党に、容赦なく銃撃を浴びせた


「くそっ…!なんでこんな事に…おい!ジャックは何処にいる!」

『それが…こっちにも居ません!』

「そっちは…」

『こっちにも居ませんよー』

「貴様…!誰だ!」

『ハンゾウって言うんスけどねー…まあ俺があんたと無線で会話してるっつー事はそう言う事なんで。』

「畜生…!奴らが潜伏していた場所も探したはずだ…!なのに何故…」

「さあね…あんたが知る必要は無いよ。」

デボラは銃を構え、男の額を撃ち抜いた。


「うん…いい感じに出られたね。」

街の大通りを抜けると、クレアはケインに話しかける。

「複数に分かれて敢えて最も目立った通路を走る事で、こちらに来る戦力を最低限にする…案外上手くいくもんだな。」

「ぼ、ボス…こいつらほんとに信頼できるんですか?」

「…大丈夫だ。信頼するしかあるまい。…シャーロットの方はどうだか分からないがな。」

「よし…。どうやらあそこは全滅らしい。」

ケインは無線機を腰に戻すとそう知らせた。

「此方はやはりそうも行かないらしいねえ…」

クレアは窓の外を指差して、ため息混じりに言った。彼女が指し示した方向に見えたのは、車の屋根に乗り上げた2人組が、此方を今にも攻撃しようとする所だった。

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