第27話
石造りの階段をゆっくりと降りていく。
カツンカツンと歩く度に音が鳴る。
「ずいぶんじめっとしているんですのね。」
下に降りれば降りるほど、空気がよどんでいくのがわかる。
「ああ。地下だからな。風通しが悪いんだ。」
「こんなところに閉じ込められるなんて、アンナライラ嬢は大丈夫なのかしら?」
「アマリア嬢は、アンナライラに酷い扱いをされたというのに、アンナライラのことを気遣うんだな。」
じめっとした居心地の悪い空間。
こんなところに一週間も閉じ込められているアンナライラ嬢の体調が気になるところだ。
アンナライラ嬢の体調のことを疑問視したら、ユースフェルト殿下にびっくりされてしまった。
「……私にしたことを謝ってほしいとは思っているわよ。でも、さすがに病気になれとか、死んでしまえばいいのに。とは思わないわ。罪は償って欲しいけれど。」
「……そうか。だが、アンナライラは、王族に対する侮辱罪と、王位を盗み取ろうとした反逆罪の嫌疑がかけられている。極刑は免れないだろう。」
「……そうなのね。」
ユースフェルト殿下はため息とともにアンナライラ嬢の刑罰について教えてくれた。
思った以上の罪状だった。
たしかにアンナライラ嬢は王族を侮辱したり、反逆罪ともとることができる言動をしていた。でも実際には未遂で終わっているし……。でも、未遂で終わったから無罪放免というわけにもいかないのはわかる。
「仕方の無いことなんだよ。」
ユースフェルト殿下は自分に言い聞かせるように呟いた。
「……っ!お母様っ!お母様、私を助けてくださいっ!!」
しばらく階段を降りていくと、アンナライラ嬢の声と思われる甲高い声が聞こえてきた。
必死に母親に命乞いをしているようだ。
アンナライラ嬢は自分のしたことが理解できたのだろうか。
それとも死にたくない一心で……?
でも、アンナライラ嬢のお母様は、確かナンクルナーイ男爵夫人よね?孤児院で育って、ナンクルナーイ男爵家の養子になったと聞いている。
男爵夫人に「助けて」と言ったところで刑が減軽されるわけではないはずだ。
「おだまりなさいっ!あなたは私の子ではありませんわ。あなたの所為で私の計画は破綻しました。」
アンナライラ嬢に「お母様」と呼ばれた人物は、アンナライラ嬢を冷たく突き放したようだ。
「お母様っ!なぜですかっ!私はお母様の娘のはずです!!」
「黙れと言っているのが聞こえないの?私はあなたの母親ではありませんわ。汚らわしい子ね。どうしてそんな勘違いをなさっているのかしら?」
「私には男爵家に引き取られる前にお母様と過ごした記憶があります!」
「あなたなんて知らないわ。」
「私はあなたの娘です。助けてください!」
「うるさいと言っているでしょう。そうね……確かにあなたを作ったのは私よ。それは認めるわ。でも、あなたには自我がないはずだったのよ。勝手に自我なんか芽生えて……。あなたの所為で計画が破綻したんだから。」
……漏れ聞こえてくる声は誰の物?
ナンクルナーイ男爵夫人ではないの?
アンナライラ嬢の本当の母親?それは、だぁれ?
アンナライラ嬢とそのお母様と思わしき人が会話をしているようだ。
このまま、降りていってら二人の邪魔をしそうだ。でも話の内容からするにあまり良い状況ではないような気もする。私は隣にいるユースフェルト殿下に少しこの場で様子を見ようと提案しようとしてユースフェルト殿下を見た。
「……ユースフェルト殿下?」
ユースフェルト殿下の顔色はなぜか真っ青だった。
身体も小刻みに震えており、今にもこの場に倒れそうなほどだ。
「ユースフェルト殿下?どうなさったのですか?」
私は、下に居るだろうアンナライラ嬢とそのお母様に気づかれないように小声でユースフェルト殿下に声をかける。だが、ユースフェルト殿下はアンナライラ嬢がいる方向を凝視したまま私の声には反応を示さなかった。
いったいどうしたというのだろうか。
「いや……まさか、そんなはずは……。」
ユースフェルト殿下の口から小さなつぶやきが漏れる。その声も震えている。
「ユースフェルト殿下。一度戻って休みましょう。今にも倒れてしまいそうですわ。」
そう促すがユースフェルト殿下の足は根が生えたようにその場から動かず、私が失礼を承知ながら腕を引いてみてもまったく動く気配がなかった。
どうしようかと思っていると、階段の下の方から「カツカツカツ」という音が聞こえてきた。どうやらアンナライラ嬢と会話をしていた人物が階段を上がってきたようだ。
「ユースフェルト殿下。下から誰かが上がって参ります。端に避けましょう。」
「……そんな……なんでっ……。」
「あら。ユースフェルトではないの。こんなところに何をしにきたのかしら?」
避ける間もなく、階段を上ってきた人と視線があった。
私はその人に見覚えがあった。
端に避けると私は深くお辞儀をする。
「……は……ははうえ……。」
アンナライラ嬢と会話をしていたのはユースフェルト殿下の実のお母様であり、この国の側妃であるユフェライラ様だったのだ。
「ああ、あの子に会いに来たのね。ユースフェルト。あなたは判断を誤りました。あの子と一緒にいたかったのであれば、あの子の手綱をしっかりと握っておくべきでしたね。」
ユフェライラ様はそう言って唇の端を引き上げた。
「……なぜ……なぜですかっ!?」
「あら?なにかあったの?」
「……アンナライラは……。母上が、アンナライラを作ったとは、どういうことなのでしょうか……。」
ユースフェルト殿下は両手の拳をぎゅっと握りしめ、下を向きながらユフェライラ様に質問をする。
「……聞いていたのね。あれはね、あの子の妄言よ。あの子はこの国の王妃になりたかった。それがあの子に幻をみせたのね。今、あなたが聞いたのは意味の無い言葉よ。忘れなさい。」
ユフェライラ様は笑みを浮かべたままそうユースフェルト殿下に言い聞かせる。
「母上っ!」
納得の出来ないユースフェルト殿下はユフェライラ様にもう一度問いかける。
「忘れなさい。」
だが、ユフェライラ様は笑みを深めてそう答えるのだった。
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