その夢、見続けるか、見終えるか 二
一同、すぐには返答は出来ないだろう、と思っていたが。
「答えは、そばにある」
という言葉が聞こえたような気がした。老若男女、いずれの声にも感じられる、不思議な声であった。
「いまなんと? そばに?」
「今、そなたのそばにある者らが、答えだ」
その言葉が聞こえるや、香澄は素早い動きで七星剣を抜き放った。
そして、貴志に剣先を突き付ける。一同の間に緊張が走った。
もし穆蘭がいようものなら、怒髪天を衝く勢いで香澄に食って掛かったであろう。
源龍と羅彩女は咄嗟に得物を構え、臨戦態勢をとる。マリーは貴志の肩に手を触れたまま、氷のように固まってしまった。リオンとコヒョも、その足のそばにいつつ、同様に固まっていた。
「貴志、夢を終わらせたいのなら。……終わらせてあげる」
「夢……」
何を言ってるんだと思いつつ、貴志は香澄と目を合わせた。
「夢か、そうだな、僕は儚い夢を見ていたんだな」
言いながら、懐から筆の天下を取り出す。
「自惚れていたな。何か出来るんじゃないか、と。でも、何も出来なかった」
筆の天下をまじまじと見やりながら、貴志はつぶやく。剣先を突き付けたまま、香澄は静かにその言葉を聞いた。
「……」
七星剣の切っ先が素早く動き、貴志の鼻先を貫こうとする。しかし、すんででかわしながら、貴志は咄嗟にかがみこんで。前に転げながら香澄の脇を通り過ぎ。
香澄も小走りに少し走り、振り向いて、貴志と対峙した。
そばにいたマリーはあまりのことにへたりこんでしまい、リオンとコヒョはしっかりしてと声を掛ける。
「香澄のやつ……!」
源龍は眉をしかめる。殺気を感じなかった。彼女はただ手練れというのではない。何か人ならぬ何かを内に秘めている、謎の少女だったが。殺気を微塵も感じさせることもなく刺突を仕掛けてくるとは。
貴志もよくよけられたものだったと、そちらにも感心させられるが。
羅彩女も固唾を飲んで成り行きを見守る。
見れば貴志の右の頬に赤い細い線があり、そこから血が滴る。香澄は本気で差突を仕掛けたのだ。
香澄は何も言わない。第二撃をどう仕掛けようか思案しているようだった。
貴志も筆の天下を握り締め、香澄と対峙する。
「どうしてよけたの?」
「え?」
「よけなければ、夢を終わらせられたのに」
「……言われてみれば」
「納得すんなッ!」
すかさず貴志の納得に突っ込む源龍。
「ちょ、ちょっと……」
リオンとコヒョは間に入ろうと駆けだしそうな仕草を見せるが。マリーは止める。
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