第30話

 残されたのは木の上に乗っているゼマと、それを地上から見上げている女戦士マベラだ。


「おかしいな。君のそのスキルは【ディスキル】されたはずじゃ?」


 意表を突かれたマベラは、それがとても嬉しそうだった。怒っているというよりは、純粋にどういうことなのか気になっている様子だ。


「これさ、実はララクのスキルなんだよね~。【伸縮自在】と【スキル付与】。あんたの仲間が消したのは、最初にこのロッドにかけられたスキル。

 だからまた、【スキル付与】してもらっただけ。単純だけど、びっくりしたでしょ」


 【スキル付与】とは、他のスキル効果を物などに継続的に施すスキルだ。【伸縮自在】はゼマの持つスキルではない。が、【スキル付与】によりクリスタルロッドに追加することで、彼女の意志で伸縮させることが可能なのだ。


 この情報アドバンテージで、ニールダウンの分断を図ったのだ。ララクはゼマを魔人ハライノスに当てるのは危険だと考えていた。何故なら、彼女の持つスキルを全て封印されるリスクがあるからだ。


 膨大なスキルを持つララクにとって【ディスキル】は天敵だが、逆に【ディスキル】もララクがもっとも苦手な相手といえる。普通の冒険者ならいくつかスキルを使用不可にすれば何もできなくなるが、彼の場合は弱体化したとしてもまだスキルは大量に残っているからだ。


 なので、魔人ハライノスの追跡はララクが、そしてそれを守るマベラの相手はゼマが担当する戦略にしたのだ。


「なるほどね。あの子、あの状況でちゃんと頭が回っていたわけだ」


 一度ララクと対戦してその評価を下げたマベラだったが、冷静な状況判断能力は認めていく。


「私のリーダー、だからね」


「……けど私は、君のほうが気になっているよ。

 さぁ、こっちに来て遊ぼうじゃないか」


 女戦士マベラは裂けたように長い口で微笑む。彼女の戦闘ボルテージが急激に高まっていく。【伸縮自在】を得たことでゼマの戦闘力は格段に上がっているのだが、そのことがむしろ嬉しそうだ。


 彼女は長双剣を構えて、力強く振り払う。

 ゼマとの距離はかなりあるが、ここから攻撃を届かせる術がマベラにはある。


「【クロスエアスラッシュ】!」


 振り払われた双剣の切っ先から、半透明な半月型のオーラが放たれた。これは剣の斬撃を魔力で可視化、そして物質化させたものだ。

 これにより、双剣の斬撃を飛ばすことが可能になり、これで物を斬ることも出来る。


 斬撃の範囲や威力は、元々の剣の大きさによっても変わってくる。マベラの双剣は、両手持ちの剣と変わらないぐらいの長さをしているので、それに合わせて斬撃の範囲も広くなっている。

 それが2つ同時に、上方にいるゼマに向かっていく。


「やっばっ」


 ゼマは咄嗟に木の上から飛び降りる。攻撃をロッドで受けることも可能だったが、完璧にいなせるか分からなかったので回避を選択したのだ。

 マベラの斬撃は速度もあり、危険だと即座に判断したのだ。


 ゼマも地上に降り立ち、2人とも雑草生い茂る林の地へ足をつけることとなった。それでもゼマはしっかりとマベラとの距離をとっている。

 遠距離からでも攻撃が出来るので、安易に近づく必要はない。それは、マベラも一緒だが。


「さぁ、お楽しみの時間だ!」


 マベラは遠距離攻撃、そして接近戦、両方を選択した。

 まず先ほど放った【クロスエアスラッシュ】を再び放つ。


 そしてそのまま走り出したのだ。

 ゼマの目線からすると、斬撃とマベラが同時に襲い掛かってきているのだ。


「血気盛んだ事」


 ゼマは腰をかがませ両足を広げる。木の上では幅がないので、軸を安定させるのが難しかった。

 彼女はクリスタルロッドを振り回し、飛来する斬撃を振り払っていく。長双剣から放たれる【クロスエアスラッシュ】の威力はすさまじいが、これぐらいであればゼマのクリスタルロッドは砕けない。


 しっかりと受け止められれば、攻撃をはじき返すことはなんら問題ない。


 問題は、マベラ自身による接近攻撃だ。


「まずは力比べと行こうか!」


 マベラは頭上高くに長双剣を振り上げて、ゼマに向かって走り、飛び掛かりながら剣を振り下ろす。

 体重を乗せた攻撃を、ゼマはロッドを両手で横に持って受け止める。


 2人の距離はぐんっと近づき、お互いの視線がバッチリと合った。そこでゼマは再認識する。マベラの目が血走り、完全に戦いの事しか頭にないことを。


「馬鹿力じゃん!」


 ゼマは歯を食いしばり、踵を使ってふんばる。それでもかなり押されており、ロッドの位置がゼマの顔近くまで下がりつつある。長双剣の切っ先は長いので、今にでも彼女の顔を斬りつけそうだった。

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