第27話
「おいおい、最初の勢いはどうした」
颯爽と現れ、泥とゲッキの間に割り込んできたのは、両腕に盾を装備した盾殴りのナゲキスだった。
彼女は両の盾を近づけて隙間をなくす。それ用に盾は改良済みだった。
盾殴りのナゲキスがガードしているところに、【マッドブレス】はぶつかっていく。しかし、彼女たちにダメージを与えることはなかった。
少しナゲキスを後ろへと押したのと、彼女の盾を泥まみれにしたぐらいだ。
「っうわ、最悪。あの気持ち悪いの、カエル……じゃないよね」
自分の盾を汚した犯人に目をやるナゲキス。大ガエルかと思いきや、あまり見たことのない形をしていることに気がつく。
すぐにオオサンショウウオということは分からなかったが、明らかにカエルとは質感や顔の形が違うことは理解できた。
「っあ、別のチームのっ! まじ助かった!」
炎使いのゲッキは、姿勢を直し、自分を助けてくれた頼もしい背中に目をやる。
名前は覚えてなかったが、顔は記憶していた。
魔法使いにとって盾となってくれる存在は救世主のような者であり、ナゲキスが天使のようなヒーローに思えてきた。
「赤坊主、もしかして、あいつが今回のカエル繁殖の犯人??」
盾殴りのナゲキスは、別の場所で泥のついたカエルの死体を目撃していた。その頃から、ただの繁殖期ではないかと、軽く予想していた。
そしてその原因が、分かりやすく目の前に現れたのだ。
「った、たぶん。……ってか、なんであんたたちがここに? 持ち場違うだろ」
「ぶん殴んなきゃいけない相手がいてさ、そいつを探しに来たんだけど。これはこれで放っておけないか」
盾殴りのナゲキスは悩んでいた。自分がこの後どう行動するべきかを。咄嗟にゲッキを助けてしまったが、少し後悔していた。
何故なら、この件を無視して、魔人ハライノスたちを追いかけることも出来たからだ。今回は緊急事態だし、デイダイオウの討伐はクエストの範疇外ともいえる。冒険者としてはなんら違反行為ではない。
そんな悩みをすぐに解決してくれた者が現れた。
そいつは、迫りくる【マッドブレス】に自らツッコんでいった。
細長い槍を構えており、助走をつけて、それを前方に突き放つ。
すると、その槍に眩く光る雷が帯び始める。これにより、槍の威力と攻撃範囲が格段に向上する。
「【稲妻の一閃】!」
腰を使って放つ槍による雷撃。その矛先は、丸型の泥塊に突き刺さる。
泥は槍による衝撃に耐えきれず、形を崩してドロドロと下へ落ちていく。
デイダイオウのスキルを粉砕できたわけだが、このスキルを放った本人は不満げだった。
「あれ、もっと爆発するイメージだったんだけど。泥、めっちゃついてるし」
紫髪の青年・雷心デュペル。雷系統と槍系統のスキルを扱う戦士だ。
彼の予定では、泥は派手に爆散するはずだった。見た目が柔らかく見えたからだろう。しかし、雷系統は泥系統に強いわけではなかった。水なので電気を通しそうだが、中にある砂利や土がそれを邪魔するのである。これが水100%であれば、はじけ飛ぶか雷が水を通り抜ける。
「デュペル、あいつと戦う気?」
盾殴りのナゲキスは、チームAの臨時リーダーであるデュペルに尋ねる。彼が一番、失った風心クインクウィを取り戻したいはずだ。
デイダイオウと戦えば、魔人ハライノスたちはどんどん遠ざかっていくかもしれない。
「仕方ないだろ。あいつならそう言うさ。まずは目の前の仕事をこなすだけさ、って」
雷心デュペルは、迷いのない顔をしていた。確かに相棒を失ったショックは大きい。けれど、自分の中に眠る彼女が、自分に語り掛けている気がしてならなかったのだ。
「……言いそうだけど、デュペルの口から言われると、盾で殴りたくなってくる」
「こ、怖いよっ!
……アシトンも、それでいい??」
長年の相方を失ったのは、彼だけではない。精霊使いのアシトンも、爆発精霊マノワルを召喚できなくなってしまった。
彼女は泥が当たらないであろう距離まで下がっており、ちょこんと立っていた。
「問題ないです。でも、今の私じゃ……なにもできませんけど……」
精霊使いアシトンの戦闘力は、かなりマノワルに依存している。マノワルを操り攻撃するのが彼女の戦闘スタイルだからである。
「……そっか。じゃあ、どうやってあいつに近づくか。あの泥、一発でも喰らったら終わりだよ、たぶん」
雷心デュペルは、自分の槍についた泥を、乾いた地面にこすりつけて拭おうとする。泥が付着したことにより、槍の重さはさっきよりも増加していた。
微量ではあるが、武器使いにとっては通常時と少しでも変動するだけで違和感が凄いものだ。
これを全身で受けとめれば、身動きが全く取れなくなる危険性もある。
デイダイオウの泥爆撃に対しての策を皆が練っていると、すぐに名乗りを上げたのは水虎使いのシヲヌだった。
「わらの虎ちゃんに任せて」
シヲヌはその場で右腕を前に出して、脇を締めて少しだけ左腕を垂らす。右手の力も抜いて、腰をかがませる。何かしらの拳法を繰り出すかのような独特の姿勢をしはじめる。
だが、彼女は魔法使い。これは魔法のイメージがしやすくなる彼女なりのルーティンというやつである。
「【水虎魔繰撃】」
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