〈R〉【祝・追放100回記念】自分を追放した奴らのスキルを全部使えるようになりました! ~失われたギフト~

高見南純平

#1  追放と再会

第1話 

「ララク、悪いけど、キミはこのパーティーから抜けてもらう」


「……そう、ですよね……」


 冒険者パーティー【風心雷心】のリーダー・クインクウィから、パーティーメンバーの少年ララク・ストリーンは、宿屋にて追放宣言をされた。


「あまり、驚いていないようだな」


 リーダーの女性戦士クインクウィは、目の前にいる小柄の少年がそれほど慌てた様子を見せないことに違和感を覚える。彼女は冗談で言っているわけではない。それをララクも理解していると思うからこそ、ショックを受けていない姿を変に感じている。


「えぇ、まぁ。足手まといだったですし。逆に、ここまでいさせてくれて、感謝しています。回復スキルが1つしかないボクだったのに」


 ララクは、仲間を回復する役割であるヒーラーという肩書きである。が、それに見合った仕事をしたことはほとんどない。


 これが現在のララクの持つスキルである。



 名前  ララク・ストリーン

 種族  人間

 レベル 22


 アクションスキル 一覧


 【ヒーリング】





 このように、生まれつき所持している【ヒーリング】というスキルしか持っていない。普通はレベルが上がることによって、いくつかスキルを所持するものである。


 その部分に触れてきたのは、パーティー【風心雷心】の別の女性メンバーであった。


「あんたのスキルが【ハイヒーリング】とかだったらねぇ~。あとは【回復力上昇】のパッシブスキルとか~。

 ララクさぁ、才能なさすぎ」


 辛辣で的確な分析をするのは、クインクウィの仲間である「盾殴りのナゲキス」だ。髪を後ろで結んだ女性戦士であり、両腕に盾を装備している。これでモンスターを殴るのが彼女の戦法だ。


 盾殴りのナゲキスが言った【ハイヒーリング】とは、体内に眠るエネルギー=魔力を消費して発動するスキルの1つである。それなりの魔力を消費する代わりに、重症の傷でもゆっくりとだが治すことが出来る。しかし、ララクが持っている【ヒーリング】は、低燃費の代わりに軽傷ぐらいしか治せない。

 ナゲキスがそのあと言った【回復力上昇】というのは、持っているだけで能力が上がるパッシブスキルの1つである。

 これがあれば、ただの【ヒーリング】でも戦闘中に使えるスキルになったことだろう。


 ナゲキスが言ったことは正当な評価なのだが、その言い方にはかなり棘がある。それに対し、注意をしたのがまた別の仲間であった。


「おいナゲキス、君にはデリカシーというものが欠如している。もっと言葉を選びたまえ。これで、ララクの心が折れてしまったらどうする」


 低い声でララクを心配しているのは、いぶし銀な老齢の顔と装備の上からでも分かる卓越した筋肉を持つ屈強な男だった。

 二つ名は、ねんごろのトーマガイ。

 若者と仲良くしたい、という思いから必要以上に気を遣っているタイプである。のだが、ナゲキスのような言葉の強い者には真っ向から矯正していく面倒くさい一面もある。それも親切の1つだと捉えているのだろう。


「大丈夫です、トーマガイさん。慣れていますから。追放には……」


 そう言うララクの目には光が失われていた。その理由は今回、追放宣言をされたからだけではない。彼の過去に関係している。


「ララクくん、君って過去にも追放されたことあるんだっけ?」


 そう質問してきたのは、少し髪が長く整った顔をした青年だった。剣を装備しており、二つ名は「氷刃のシェントルマ」。若い美男子なため、特定の界隈には有名である。

 彼の頭からは、二つの獣耳がちょこんと飛び出している。彼は純粋な人間ではない。犬の血が混じった犬人である。


「……はい。確か、今回のを含めて56回目です……」


「「……!?」」


 ララクから数字を聞かれた瞬間、この場にいた他のメンバーの表情が強張る。それも当然である。そもそも解散や脱退ではなく、戦力外通告で追放されることなどそこまで多い事ではない。

 それが50回も超えているのだから、異常と言わざるを得ない。


「それ、ほんと? あんた、諦め悪すぎ。もうさ、田舎に帰って農業でもしたら?」


 盾殴りのナゲキスが、またララクに辛いことを言う。田舎、というのは彼女がララクから感じるどんくささから連想したものである。実際、ララクは田舎育ちだ。


「だからやめなさい、そういうことを言うのは。確かに衝撃的ではあるが、その不屈の精神、俺は尊敬に値すると思うぞ」


 トーマガイは追放回数を聞いて一瞬だけ愕然としたが、その後は冷静な態度で彼のフォローに回った。しかしこれは上辺だけで、本当はナゲキスと同じ感想を抱いている可能性もある。


「うん、きっと君に合ったパーティーがいつか見つかるよ。ボク達とは縁がなかっただけだよ」


 屈託のない笑顔を向ける氷刃のシェントルマ。彼のこれはきっと、本心から出た言葉なのだろう。頭についた犬耳をまっすぐ立たせている。


 このシェントルマの言葉を聞いて、リーダーである女戦士クインクウィが、ララクに丁寧に説明し始める。


「縁、か。ララク、確かに君はヒーラーとして未熟すぎる。けれど、これからレベルが上がって他のスキルを得る可能性だって高い。大器晩成型のスキル構成なら、珍しくもないからな」


 モンスターなどを倒すことで生物は経験値を得ることが出来る。それが一定数を超えるとレベルアップし、身体能力が向上し新たな力、スキルを得ることが一般的だ。

 どのレベルでどのスキルを得るかは、個人によって違う。特に人種は、個人差が激しい。

 低レベル帯で多くのスキルを得るパターンもあれば、クインクウィが言ったようにあるスキルを得られるレベルがかなり遅い場合もある。


「だけど、これ以上君をこのパーティーに置いておくわけにはいかない。

 実はこれから、首都に行ってもっと高みを目指すつもりなんだ。

 そうなると、今まで以上に強力なモンスターと戦うことになる。

 その中で、君を守りながら戦うのは非常に厳しい。

 今回の判断は、君のためでもあるんだ」


 現在、彼らはこの国の主要な街で活動している。が、今後は上京して首都で活動を行う予定のようだ。

 首都には彼らのような冒険者が数多くおり、その分モンスター退治などのクエストが多く、強敵と相まみえる機会も増えることだろう。

 そんなところに、ろくに回復も出来ないヒーラーがいたのでは足手まといなのは明白だ。


「……わかりました。短い間でしたがありがとうございました」


 ララクは苦悶の表情を浮かべながら、丁寧に頭を下げた。クインクウィたちの言い分は、ララクが一番理解している事だった。遅かれ早かれこうなることは分かっていた。が、実際そうなるとやはり精神的にきついものがある。


 そんな姿を見ると、さすがに盾殴りのナゲキスも毒を吐く気にはならなかった。


「お互い、頑張ろう。それじゃあ、腕を出してくれ」


 リーダーであるクインクウィは、利き腕である右手拳をララクの方に向ける。その手の甲には、剣のような形をした青光りする紋章が刻み込まれている。

 これは彼女特有のものではない。


 ララクも同じく、右手を出す。彼のか弱き小さな手にも、同じような紋章が刻まれている。

 この紋章は、基本的に生物全般、そして鉱物や植物にもあるとされている。が、人種以外は体の内側にあったりする場合もあるので、外見からは分からないこともある。


「では、今をもって、ララク・ストリーンとのパーティー契約を解除する」


 クインクウィが宣言すると、彼女の右手にある紋章から一筋の光が出現する。それは直線を描きながら伸びていく。それと同時に、ララクの持つ紋章からも同じ現象が起きる。

 2つの糸のような光は交わる。これが現在、2人が運命共同体、つまりパーティー契約をしているということを表している。

 しかし、それはすぐに光の粒となってはじけ飛んでいく。


 蛍火のような美しさが宿屋の一室に広がっていく。が、これはクインクウィが言ったように、

 2人が交わしていたパーティー契約が解除されたということであった。


 クインクウィは他の仲間とまだ契約状態にあるが、ララクはこれにより無契約状態となった。つまり、ひとりぼっちである。


 これが俗にいう、追放である。クインクィは、脱退と捉えているだろうが、契約的には追放となっている。


「ララク、お互い頑張ろう」


 クインクウィは、そのまま右手を広げる。


「は、はい」


 ララクは戸惑いながら、その手をそっと握る。彼からすると、クインクウィのねぎらいが逆に辛かった。


「あんたさぁ、どうせ次のパーティーでもすぐ追放されるんじゃない? そんでさ、それがかさなって100回超えたりして。

 そうなったら、もう伝説じゃん」


 盾殴りのナゲキスはすらすらと言葉を吐き出していく。ララクを煽っているというよりは、そうなれば面白いだろうな、と考えての発言だった。それを胸にしまっておけばいいものの、彼女の口は蛇口が開けっ放しのような状態なので、こうやって流れ出てしまうのである。

 だから、毎度仲間のおじさん トーマガイに注意されるのである。


「はぁ、こいつはもうダメだな。ララク、俺は願っているよ。いつか君に合ったパーティーが見つかることを。君に、幸あれ」


 ナゲキスの事を矯正するのをほぼ諦めかけているトーマガイ。トーマガイはナゲキスの事は置いておき、ララクに少しほほ笑みながら、餞別の言葉を告げる。

 もう二度と合わない可能性もあるが、若者の思い出の中でもいいおじさんでありたいのである。


「っあ、もしさぁ、いい人いたら紹介してよ! 特に条件はないけど、強いていうなら料理が上手い人が良いかな」


 氷刃のシェントルマは、ララクの今後などあまり考えておらず、自分の未来の事を中心として喋っていた。彼は現在、婚活中である。まだ二十歳前後でそこまで焦る年齢でもないが、彼は常にいい出会いを求めている。冒険者はいつ死ぬか分からないので、子孫を残したいと強く考えているのかもしれない。


「っあ、はい。機会があれば」


 突拍子もないシェントルマの提案だったが、実はララク側からすると嫌な事でもなかった。シェントルマがどれくらい本気で捉えているかどうかは知らないが、さっきのセリフはまたララクに会う時の事を考えてのものだからである。


「それじゃあ、ここでお別れだ。宿代はこっちで払っておく。あまり金銭的余裕もないだろう?」


「っう、すいません、最後まで。

 色々とお世話になりました」


 クインクウィに指摘されたように、彼の財政事情はひっ迫している。冒険者は出来高制なので、役に立たないララクに払われる依頼料の分配金はかなり少ないからである。


 ララクは深く頭を下げて、彼らのいる部屋を後にした。

 こうして、ララクは冒険者パーティー「風心雷心」から追放された。


 部屋を出て、ララクは廊下で腰を低くしてげんなりとしていた。

 慣れているとはいえ、やはり脱退させられるのは辛いことだ。


「ふぅ、でもまだスキルが増えるかも知れないし。もう少し、もう少しだけ」


 ララクは右胸を強く叩いた。自分を鼓舞するように、言い聞かせるように。


 そして、彼はしばらく後に、ナゲキスが予想したように、本当に100回目の追放を迎えることになる。

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