初級魔術の大賢者 -転生先は魔法至上主義のある国の落ちこぼれだった-
超あほう
第1話
「自分の罪を述べよ!罪人グラミー!」
「……罪?」
「そうだ!!これまでにお前の侵した罪だ!」
わしの目線の下には、数多くの人間、そして目の前にはこの国の王。
目は冷ややかでどこか憐れむようなものだ。
しかし、そんな目をされても仕方がない。
「…いい加減この鎖解いてはくれぬか」
ジャラリと、手についている大きな手錠と鎖を鳴らす。
横目で斧を持つ男を見る、下の民衆と同じく冷ややかだ。
「この期に及んでその態度、やはりお前は死ぬべきだ!」
「…ただの老人にそんな」
「ただの老人だと、貴様は私に殺されるのではない!世界に殺されるのだ!」
世界に殺される、妙に頭の中に残る言葉。
わしはただ魔法には自由でいてもらいたかっただけ。
しかし、それがこのような事件を起こしてしまった。
「…なぁ国王、わしと一つ賭けをせんか?」
「まだふざけるのか!?」
「もしわしが世界に殺されなかったら、その時わしの願いをなんでも叶えてもらうぞ」
国王の表情が固まる。
民衆も顔を歪めてヒソヒソと小言を話し始める。
結局は死ぬじゃないか、皆そう言いたげだ。
「いいじゃろぉ?最後の頼みじゃ」
「…それでお前は死ぬのか」
「あぁ、約束しよう」
国王はわしの目の前に魔法陣を作った。
「契約内容はわしが決める『もしワシが世界に殺されなかった場合、国王はなんでも願いを叶える』どうじゃ?」
言い終わると、魔法陣の片面が光る。
そしてしばらくしてもう片面も光り、明るい魔法陣が完成する。
「契約成立じゃ、ほれ…さっさとせんか」
隣にいる兵に向かって首を揺らす。
兵は一瞬たじろいだが、すぐに自分を立て直して斧を振り上げた。
そうして、国王が叫ぶ。
「罪人グラミー!!世界の法則に逆らったお前を世界は決して許さない!ここで処刑する!」
享年74歳、グラミー・ヴァンレット、処刑。
以後この処刑を目撃した者は、後にこう話している。
-処刑台に立たされてな飄々としていた-
-国王に無礼を働いていた-
など、罪人グラミーの余裕が伺えた。
しかしその中で、全員が全員口を揃えて言ったことがある。
-最後の最後に、彼はニヤリと笑って…まるで勝・っ・た・みたいだった-
何故罪人グラミーは笑ったのか。
その真意は、誰にも分からなかった。
♦︎
「……む」
倒れている体から視線だけを動かす。
普遍的な木で作られた椅子と机、そして地面に落ちた本。
普通の建物だが、とても懐かしい…これは俺の本だ。
「ぬぉぉ…おぉ…」
土で固められたように動かない体に鞭を打ち、全身をプルプル震わせながらなんとか体を起こして立ち上がる。
「……クク」
両手を天高く突き出す。
そして「ハッハッハー!」と声帯が壊れるぐらいの声で叫ぶ。
「世界は俺を殺さなかった!世界はまだ俺を求めていた!馬鹿の国王め!神の告げ曰く、本来世界に殺されるのはお前たちの方なのだ!…俺?」
少し、自分の事について違和感を覚える。
体の下半身が少し血濡れているが、それ以上に気になる事がある。
「俺…俺…わし…俺の方が今はしっくりくる、どうやら元あった主人格と俺の人格が融合して一つの人格となったわけか」
それでも、人格があるのに今の俺にこの人格の記憶がないのはなぜか、まぁ完全な魔法ではなかったようだし、今は俺が生き残ったことを素直に喜ぶか。
「仕方がない、さっさと外に出ようではないか」
ドアの方まで歩き、ドアノブに手を掛けて開ける。
目の前には、自分の身長の二倍ぐらいある赤い肌の魔物がすでに拳を振り下ろしていた。
「グゥゥ!」
瞬時に体に走る緊張、卓越した反応速度で力強い魔物の拳をさらに強い力で受け止めれば、周囲に風が吹き荒れる。
「…危ないのぉ」
赤い魔物の手を握りながら周辺を見渡すと、だんだんと記憶が蘇ってきた。
確か、誰にもばれないように渓谷内の奥深くまで続く洞窟の最奥に小屋を作ったんじゃった。
「む、おぬしの剣…そういう事か」
俺がそう言うと同時に、目の前の魔物は俺の足を見て少しうなった。
魔物の持つ剣から、ぽたぽたと赤いしずくが滴っている。
状況から察するに、この主人格はこの魔物から逃げて最終的に俺の小屋にたどり着いたわけか。
確かに俺の小屋は魔物が入ってくれないように不可視の結界を張っている、だから魔物も奇襲じみた行動をとったわけだ。
「よくもやってくれたな魔物よ…」
グッと、魔物の手を持つ手に力を籠める。
離れようとする魔物は俺の力によって離れることが出来ず、さらに混乱した状態だった。
「力負けは初めてか?」
「グアァ!」
魔物は冷静を取り戻したか、剣を上から俺に振り下げる。
鋭い剣を受け止めるほどの俺の体を固くない、かといって避けようにも魔物が逆に俺の手を握って動けない。
このままでは俺の体は両断される、所謂絶体絶命と言う奴じゃ。
「-風-」
次の瞬間、魔物の腕が複数の輪切りになり剣があらぬ方向に吹っ飛ぶ。
魔物が痛みに悲鳴を上げようとしたその時には、すでに首は胴体は切り離されていた。
ドサっと、魔物の体は地面に叩きつけられる。
「ふぅん…もうすこし硬いと思っていたのだが、この渓谷自体強い魔物はいなかったような…ひとまずは出るか」
そうして、入口を目指しながら道なりに進んだ。
…はて、出口はどこじゃったか。
まぁ歩いていればいつか着くじゃろ。
♦︎
「……着かん」
ザシュ!ザシュ!
「こんな複雑なものだったか…随分時が立っているような」
ザシュ!ザシュ!
「ちょっとの変化は気にしないんじゃがな」
しかし、俺の記憶とは違うところに道があったり、一本道と記憶していた道で二つの道が現れるなど、もはや数年の時が経っているか。
「えぇい!!貴様ら学ばんか!死ぬぞ!いいのか!」
視線を巡らせれば、街の人気店かの如く俺の周りを取り囲む魔物が立ち塞がるように俺を見ている。
灯りの火と共に、体の周りに風を刃を絶え間なく張り詰めているため、近づけばすぐに切り刻まれ死ぬと言うのに。
この渓谷の魔物はとんだ大馬鹿者の集まりじゃ。
「……もうよい、-風-」
体に張り詰めた風の刃を消すと同時に魔物は俺に突進してくる。
しかし、そんな行動も無意味に終わる。
風で自分の体を浮かし、洞窟の空間の上ギリギリまで飛ぶ。
「ふいー、さっさとこの洞窟を抜けるかの…-土-」
右手を上に伸ばす。
すれば徐々に土が集約され、大きな円錐状の土の塊ができる。
そうしていくうちに、さっきまで近くにいた魔物たちが恐怖心から奥の方へ全員走り去ってしまった。
「む、ようやくどこかへ行ったか…さらばじゃ!」
自分の魔法を信じ、一気に上に飛ぶ。
円錐状の土の塊が急激な速度で回転し、洞窟の天井部分を抉るように削り、一直線に地上まで上がる。
ここは横に広い渓谷で縦はそれほど高くなかった。
よって、ものの数十秒で渓谷深部から地上まで削り上がり、その勢いで空高く舞い上がる。
木々は揺れ、飛んできた風で葉は木から剥がされるように落ちていく。
「ハッハッハ!!俺の魔法はまだまだ現役じゃ!一切の衰えを感じないぞ!」
空高くに舞い上がった風と土。
その中で一風変わった口調の少年、彼の今の名はグラミー・ヴァンレット。
世界で最初の-大賢者-の称号を授かった最強の魔法使い。
…そして、この世界の法則に逆らった-最悪の大賢者-として処刑された哀れな男だ。
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