135.安心感のある彼女

 俺が風呂から出る頃に、羽彩が恥ずか死から復活した。


「着替えパパのなんだけど、きつくない?」

「ああ。ちょっと小さくは感じるが問題ないぞ」


 俺はガタイがいいからな。ちゃんと着られるだけでありがたいってもんだ。


「というか父親はまだ帰らないのか? あいさつくらいしておきたいんだが」

「あー……今日は帰らないっぽいかな。仕事が忙しい人なんだよねー」


 家に帰れないほどなのか。大変そうだが一家の大黒柱だもんな。きっと歯を食いしばって頑張っているに違いない。


「両親揃って仕事を頑張っているんだもんな。お母さんが言ってたぞ。羽彩が家事や十羽夏の面倒を見てくれるからありがたいってさ」

「うっ……ママ、変なこと言ってなかった?」

「羽彩って家族に俺のことよく話しているんだってな」

「わあああぁぁぁぁっ! もういい! 言わなくていいからっ!」


 羽彩は顔を真っ赤にしてブンブンと手を振る。

 そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。俺の弁当を作っている時は鼻歌を歌うほど上機嫌だったり、俺の良いところ自慢をニコニコしながら話しているなんて可愛らしいじゃねえか。


「つーか俺の寝る場所はどうすればいいんだ?」


 羽彩だけなら問題ないが、さすがに親がいるのに同衾はまずいだろう。

 どこか適当な部屋へ案内されるのかと思っていたのだが、羽彩は恥ずかしそうにぽしょぽしょと小さな声で言った。


「晃生の寝る場所……アタシの部屋なんだけど……」



  ◇ ◇ ◇



 羽彩は十羽夏と二人で一つの部屋を割り当てられていた。

 そんな姉妹の部屋に、こんな凶悪面の男が入っていいのかよ?


「いいのいいの。晃生ちゃんは羽彩の彼氏なんだから。それにうちは狭くってね。丁度いい客間がないのよー」


 と、羽彩の母親に言われてしまえば俺に断る理由はない。

 まさかの親公認にこっちがびっくりする。

 羽彩が風呂に入っている間に、俺は借りた布団を羽彩たちの部屋へと運ぶ。

 部屋には十羽夏がいた。どうやら勉強中だったらしい。

 俺よりも先に風呂に入っていた彼女の黒髪はしっとりとしていた。いろいろと大きいだけあって、年下なのに色っぽく感じる。


「晃生さんもここで寝るんだね。……ですね」

「無理に敬語なんか使わなくてもいいぞ。羽彩の妹は、俺の妹みたいなもんだからな」


 少なくともどこぞの赤髪ツインテールよりは可愛げがあるしな。


「ほんと? じゃあお兄ちゃんって呼んでもいいの?」


 十羽夏は期待のこもった目でそんなことを言い出した。

 羽彩の話題で仲良くなれたとは感じていたが、いきなり懐いてきやがったな。最初の警戒心はどこ行ったんだよ。

 でもまあ、いいか。いずれは「お義兄さん」と呼ばれるようになるだろうからな。


「別に構わねえよ。好きにしな」

「やった! あたし大きいお兄ちゃんが欲しかったんだー」


 十羽夏は喜びのまま椅子から立ち上がると、俺に抱きついてきやがった。


「おおっ! やっぱり晃生お兄ちゃんって身体おっきいよね。あたしが抱きついてもビクともしないんだもん」

「お、おお……」


 いきなりの衝撃に、危うく下半身が反応しそうになってしまった。

 十羽夏は無邪気な様子で俺に密着してくる。そうすれば自然と巨乳を超えた爆乳が押しつけられるわけで……。

 見ているだけで大きいとは思っていたが、その感触は迫力以上のものがあった。まさに柔らかさの暴力……って。


「おい十羽夏。今ブラジャーしてないだろ?」

「え、うん。だってお風呂から上がったら寝るだけだし」


 だよなぁ……。感触がダイレクトに伝わってくるんだもんよ。

 俺は理性を総動員させて、十羽夏の肩に手を置く。


「あのな十羽夏。いつもは家族だけだからいいかもしれないが、今日は俺がいるんだぞ。そんな無防備な格好で男に抱きつくんじゃありません」

「ぶー、お兄ちゃんあたしに説教するの?」

「説教もするだろ。男子に狙われたらどうすんだ」

「へへん、あたしは負けないよ。同級生の男子なんてチビばっかりだし。あたしよりも背の高い男子なんか数える程度しかいないよ」


 いくら中学生だからって、一七〇センチを超える男子が数える程度しかいないのか?

 疑問に思っていたら、十羽夏の学習机が目に入った。

 視線が向いたのは、机に置いてある教科書だった。


「十羽夏……。お前中学何年生なんだ?」

「え? 中一だけど?」

「中一!?」


 この大きさで中学生ってだけでも驚いていたってのに、中学一年生!? もしかしたらまだまだ成長の余地があるってのか?

 中一なら同級生の男子がチビに見えるだろうよ。小学校を卒業してからまだ半年くらいしか経ってねえじゃねえか。


「……わかったわかった。俺は気にしないけどよ、他の男にこんな無防備なこと簡単にするんじゃねえぞ」

「はーい♪」


 甘えん坊気質なのだろう。喜んでいる様子の彼女の頭を撫でてやれば笑顔になっていた。

 喜びついでに、さらに俺に身体を押しつけてくる十羽夏。

 すると沈み込むような柔らかさが襲ってきた。ま、まだこれ以上の深みがあるってのか!?

 で、でけぇ……っ! あまりの大きな柔らかさに、手のひらで味わいたい衝動に見舞われる。


「晃生ー? 人の妹となーにしてんのかなぁ?」

「はっ!? 羽彩いつの間に!?」


 気づけば背後に羽彩が立っていた。しっとりと濡れた金髪が真っ直ぐ背に流れている。サイドテールもいいが、結ばずにいるのもいいよな。

 この後滅茶苦茶ドライヤーで羽彩の髪を乾かした。気分はお嬢様に尽くす執事のようである。ご機嫌取りをしただけともいう。



  ◇ ◇ ◇



 敷布団を敷いて、三人で川の字で寝た。

 羽彩を真ん中にして、俺と十羽夏が挟む形だ。

 早くも十羽夏の寝息が聞こえてきた。寝る子だからよく育ったのだろう。男がいるのに寝つきが良すぎるのもどうかと思うが。


「晃生……まだ起きてる?」

「起きてるぞ」


 羽彩がこっちを向いて、小さな声で話しかけてきた。


「今日は大変だったけど……アタシらがいるから。絶対に大丈夫だからね」


 優しい声。心から信頼できる力が、羽彩の言葉にはあった。


「ああ。頼りにしているぜ」


 俺も、心からの信頼を寄せる。

 これからどうなるかわからない。

 アパートの火事の原因が後継者争いに関係しているのかもしれない。だとすれば、あれ以上の危険な目に遭う可能性だってある。

 そんな疑念によって郷田晃生の凶暴性が表に出ようとするが、羽彩のおかげで心が落ち着いてくる。

 いや、羽彩だけじゃないな。俺の女たち全員が、俺のためにと行動してくれる。

 その信頼があるからこそ、今夜は安心して眠れそうだった。


「あのね、晃生……」

「ん?」


 気づけば羽彩が俺の耳元にまで顔を近づけていた。

 熱っぽい吐息が俺の耳をくすぐる。

 羽彩の温もりが、俺の腕に当たるほど接近する……。


「今夜は家族がいるから無理だけど……我慢させた分、明日はスッキリさせてあげるからね♡」


 羽彩はそれだけ言って、恥ずかしさからか自分の布団へと潜り込んでしまった。


「……」


 いつもは恥ずかしがって、自分からそんなことを言わなかったくせに……。

 言わせるのもいいが、こうして恥ずかしがりながらも俺の欲求に応えようとしてくれる羽彩が可愛い。


「~~っ」


 今夜は悶々としすぎて、なかなか眠れる気がしなかった。


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