第17話 レビュー
今日は私と都だけが会議室に居た。無論、いつものように私が都に呼び出された訳だがその内容は――
「ダイコンよ。考えたのだがそろそろ地球征服のための何かを始めても良い頃だと思うのだが? メンバーも増やし、動画も上げ、フロント企業も立ち上げ、世界の中心で愛を叫んだ漬け物……も漬けた。地盤は十分に固まったと思える。しかしそれに対し我々は肝心の地球征服に関してはまだ1歩も前に踏み出していない。なのでそろそろ具体的な何かを仕掛けてみても良いのでは……と思ってな。無論、大それた事でなくても良い。何かこう……在宅勤務の警備員のような小さな事でも良いからそろそろ始めてみないか?」
等と供述している都だが…………甘い。
「時期尚早だな」
「なにっ!?」
驚く都を眺めつつ私は両肩を竦め。
「まあ、メンバーは今のペースで増やしていっても問題ないだろうがその他はどうだ? 動画はまだ1本しか上げていなければ戦国坂四十六もデビューしただけで軌道に乗った訳でもない。そして世界の中心でHEYを叫んだ漬け物は漬けたばかりで食べられない。これは流石に盤石とは言えんだろう? そして言ってしまえば地球征服に乗り出すのは最後の最後……全ての準備が整ってからでも遅くはない。いや、寧ろ整えてから一気呵成に出た方がヒーロー達は対処し難いのではないか?」
これに都は両腕を組むと俯き加減になり。
「う~む……? 確かにその通りか……となればダイコン。君は先立っては何をするべきだと思う?」
「いや、現状は今のままで良いのではないか? 動画を上げ、戦国坂四十六を軌道に乗せる……。そして晴れてリキ、シコナの復讐を果たし――そこからアメリカと日本以外の世界各国のヒーローを秘密裏に始末していくのが恐らくベストだろう」
「なるほど。となると今我々がすべきはユーチューブにしろ戦国坂にしろ企画……売れるための企画が必要という訳か」
私は両腕を組み深く頷くと。
「その通りだ。そして現状において優先すべきはやはり動画だろうな? 戦国坂ははっきり言って彼女達自身の魅力や戦闘力、遠心力だけでもある程度は売れるだろうし、デビュー後の最初のイベントでいきなり49人が卒業を発表するというサプライズも控えている。まあ、難点なのは46人しかいないのにどうやって49人に卒業を発表させるかだがそれは上手く誤魔化すとして――。それに比べユーチューブの動画はまだ1本だけだからな?」
すると今度は都も頷き。
「わかった。では早速2本目の動画の企画に入ろう」
「さて、そうなるとまたユーチューブで人気の企画、ジャンルを考える事になるが――」
と私が呟いていると即座に都。
「レビュー動画なんかはどうだ?」
私はアゴに手を当てる。
「レビュー動画か……確かに良く見るな? しかしレビュー動画となると独自の視点と豊富な知識が必要になるぞ? 一体なんのレビューをするつもりなのだ?」
これに都はアゴに手を当て小首を傾げ。
「う~む。ゲームレビューはどうだろうか? 最近私がハマっているゲームで『転生してもスライムだった件』というゲームを知っているか?」
「ああ、それならば知っている。確か――ブラック企業に勤めていたスライムが会社帰りに横断歩道を渡っていたら、時速100キロで飛び出してきたゴーレムに轢かれて死んでしまう。そして次に気が付いた時は子供の頃に良く遊んでいたゲーム……ドラゴンクエストⅢの世界の中だった。しかし元々スライムだった主人公はドラクエの世界でもやっぱりスライムだった……のだが、勇者がたまたま初心者だったためルイーダの酒場には行っておらず仲間が居ない、おまけに武器も防具も装備していない。更には攻撃を悉くミスってくれたのでまさかの幸運で勇者を倒してしまった。……ので、勇者を倒した英雄として一気に大出世した主人公はスライムなのにボストロールやヤマタノオロチといった強力なモンスターを部下にし、最終的に魔王バラモスの右腕にまで出世した。までは良かったが――これに激怒したのが大魔王ゾーマ。ゾーマは勇者が早々に退場してしまったため出番がなくなり怒り狂う。そして怒りが頂点に達したゾーマは打倒バラモスを掲げ世界征服を目論む。なので主人公は弱小スライムのままだが知恵を絞って主人であるバラモスを護りつつ大魔王ゾーマを討つ……という野球ゲームだろう?」
「その通りだ。まあもっと厳密に言えば原作である学術書の『転生してもスライムだった件』をゲーム化した『
ああ、確か学術書の方は『生スライム』と略して、ゲームの方は『実況スライムナイン』と略して区別しているのだったな?
としていると都は続ける。
「フィールドのモンスターを倒して仲間にし、育成して試合に勝つ。中々に面白い野球ゲームだぞ? どうだダイコン。君もやってみないか? 育成したチーム同士で対戦も出来るのだぞ?」
「いや、やるのは構わないし貴様が詳しいのはわかったが、今はレビューの話だろう? 動画を作るとなると詳しい貴様頼みになるが、独自の視点や切り口はあるのか?」
すると都は不安気に首を捻ると。
「う〜む……改まって訊かれると自信はないな。まあ、レビュー動画は候補の1つとしてもう少し他も模索してみないか?」
まあ、それもそうか……と考えた私は無言で頷いた。
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