第5話 聖女
――で。それはそれとして渋谷や新宿のド真ん中にあるダンジョンにでも潜っているのであろうS級冒険者のパーティーにいたリキの役割とは?
リキは落ち着いた抑揚で始める。
「そうですね? 実際引く手数多なのかもしれません。けど、私の目標はあくまで復讐……私を追い出した『片翼の天使の尿意』のメンバーに『ざまぁ見ろ』『私を無意味に追い出した報いを受けろ』と言うためには、いっそ悪の秘密結社に身を置いた方がいいのでは? と思ったのでここでアルバイトをしようと決心しました。というより、今はここでアルバイトをする以外は考えていません!」
無駄なやる気や良し。今のところ好印象しかないぞリキ。
「それと私のパーティーでの役割がなんだったのかという話ですけど――役割は『聖女』。味方に超強力なバフ、エンチャントをかける事が出来る完全後方支援タイプのそば屋で、北大西洋ではカリスマそば屋と良く呼ばれていました」
ん? おいおい大丈夫か?
っという私の心配をよそに都が相槌を打つ。
「ほぅ? 所謂バッファー、エンチャンターか。しかしわざわざ自分で『超強力』と言うからには相当な底上げ、付与が出来たのだろうな?」
「はい。それはモチロン!」
と力強く頷くリキ。
「攻撃力や防御力を何倍にもするなんて朝飯前でしたし、武器に全属性魔法をかけて、攻撃時に敵の弱点属性のみを発動させるとか息をするように当たり前に出来ました。その他にも道に落ちているウンチが人間のウンチか犬のウンチかを瞬時に見分けられる能力付与とかも出来ます」
この言葉に都は満足そうに何度も頷き。
「それは素晴らしいな。つまりその能力が付与されれば人間のウンコと犬のウンコを踏み間違える事がなくなるのだな?」
まず踏み間違える事はないだろう。人間のウンコだろうと犬のウンコだろうと狙って踏めるはずだ。但し都が最初からウンコを踏む事を前提としている理由が私にはわからないが。
……という事を口には出さず傍観していた私だが、今のを聞いてウンコ以外にどうしても気になった事があるのでリキに質問してみる事にした。
「リキ。貴様が優秀なそば屋だという事は理解した。だがそうなると何故貴様はパーティーを追い出されたのだ? いくら戦闘向きじゃない職だとしても腐らない有用な能力。追い出される理由がないだろう?」
そう――これは誰もが考える当然の疑問。彼女はさっき「戦闘で役に立たない」と言われたと言っていたが、実際には物凄いステータスアップと能力付与をしている。これを追い出す理由が私にはわからないのだが――果たして?
リキはバツが悪そうに眉をハの字に曲げ。
「えっとですね。さっきも言いましたが私S級のそば屋になった頃から能力を発動するのが息をするように当たり前に出来る……つまり呪文の詠唱とか、何の動作もしなくても考えるだけで簡単にバフをかけれるようになっちゃったんです……それこそ朝ごはんを食べるより先にかけれちゃうくらいに。なのでいつの間にかみんな自分にバフがかかってるって意識が薄くなっちゃったみたいで、私が居なくても自分達の実力だけでやっていけるから何もしてないお前は抜けろって言われちゃったんです」
な、なんだとうぅっ! つまり文字通り朝飯前に、息をするように当たり前にバフをかけてしまう……。ま、まさに聖女ッ! まさにカリスマそば屋! 息をする朝飯!
って感心してる場合か。
「いや待ってくれ。いくらバフをかけられている意識が薄くなっていたとしても、貴様の能力は知っていた訳だし有用なのは明らかだ。なのに仲間は貴様を追い出したのか?」
「はい!」
気前よく返事をするなっ! そいつらはバカなのか? バカなのかそいつらは?
「し、しかし自分がバフをかけている……と説明くらいはしたのだろう? それでも追い出されたのか?」
「はい。どうもS級パーティーになって私以外の人達は増長していたみたいで……私のバフなんかなくても俺達はS級だ! みたいな感じで……」
バカだ。真性のバカだ。譬えS級であったとしてもバフは有用だろう? そんな事もわからないくらい頭の中がS級お花畑だったのかそいつらは? と皮肉を考えていたら。
「でもとりあえず私が抜けて彼等は今E級まで降格したそうです。なのでさすがに私のバフがなきゃS級ではなかったみたいですね。因みにE級の下はモチロンF級で、冒険者のランクはF級までしかありません。私はこの組織に与して彼等をF級まで落としたいですね!」
良い笑顔だリキ。皮肉ではなく知能に永久デバフがかかっているそんなボンクラ共はF級どころか地獄まで落ちた方が北大西洋のためだ。まさかここまで大丈夫じゃない奴等だとは思わなかったな……。
というところで都が大口を開けて笑う。
「はははっ! リキはまずその連中に頭が良くなるバフか、トイレットペーパーを5倍速く巻き取れるバフをかけてやるべきだったな? いや、まぁそれをしなかったおかげで我々は君という超優秀なバッファーを雇う事が出来るワケだから、結果としてかけないでいてくれて感謝だが。あっはっはっ!」
確かに都の笑いが止まらなくなる理由もわかる。それくらいにリキは優秀だ。仮にもしリキがトイレットペーパーを5倍も速く巻き取れるバフを使っていたら、脳みそがお花畑で戯れる力士の事で一杯の連中でも、ウンコをする度にリキの優秀さを実感していたはず。そうなっていれば流石に奴等もリキを手放さず、我々が雇う事は出来なかっただろう……。
という事で――。元S級冒険者の聖女。そば屋の長洲力は文句なしに我が社へと入社となった。
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