第2話 面接
「それでは面接を始める」
――という訳で私は早速アルバイトの面接に来ていた。
あれから――
とりあえず深く考える事もなく、天使のブラよりも軽~い気持ちでバイトを探そうとネットで適当に検索をかけてみたところ、いきなりトンでもない文字が私の目に映り込んだ。
『地球を征服しませんか?』
無論アルバイトの募集……つまり一緒に地球征服活動をするアルバイトを募集している文言な訳だが――
驚いたな。『世界を征服しませんか?』ではなく『地球を征服しませんか?』という言い方だとこの求人を出している人物は宇宙人である可能性が高い。次点で異世界から来てこの世界の事を地球呼ばわりしている奴。あとはまぁ、あって日本語をあまり良く理解していない埼玉県民といったところか……?
……と考えると非常に興味が湧いたので私は即座に天使のブラを着けて面接を受ける事にした。実際には5秒でブラは外したが。
――で、今に至る。とりあえず面接会場が私のアパートから電動アシストなし自転車で3分という驚異的な近さだったのは本当に驚きだった。
「それでは面接を始める」
そしてこの台詞は私の目の前にいる面接官のものだった。面接官は続ける。
「まあ、面接を始めるとは言ったが念のため最初に確認しておきたい。君はこの面接がなんの面接なのか、また我々の目的がなんなのかを理解した上で応募をしてきたのだな?」
私はゆっくりと丁寧に一つ頷き。
「無論だ。地球を征服するための人員募集をしているのだろう?」
すると面接官も一つ頷き。
「うむ、結構だ。ではまず最初に名前を訊きたいのだが苗字はなんという?」
「大根だ」
「ダイコンか。
「乱という」
「うむ。『大根 乱』か良い名だ。因みにまだ名乗っていなかったが、私は面接官でありこの組織のボスでもある『
都こんぶ? 美しい名だ。
と私が考えていると都は名だけではなく、その美しい声――譬えるなら小鳥のさえずり、或いは湖畔で歌う妖精の歌声、また或いは中途半端に良い匂いのする入浴剤でうがいをする天使の鼻声…………のような美しい声で続ける。
「そして見てわかるように私は人間ではない。この星を征服するためにやって来た宇宙人だ」
「なにっ?」
金髪、そして碧い瞳からして日本人ではない……いや、耳の尖り具合からして人間ではないと予想はしていたが宇宙人だったのか。しかしそれならばCGのように滑らかな肌質も、どこを切り取っても女性にしか見えない抜群のプロポーションも頷ける。
なので私は思った通りの事を口にする。
「正直なところエルフかと思っていたが、まさか宇宙人だとは思わなかった」
「そうか? ならば私の擬態も上手くいっているようだな? わかっていると思うがこれは私の本当の姿ではない。今は地球で生活していてもあまり不自然ではないように半魚人に擬態しているのだ」
ほぅ? 半魚人に擬態していたのか。最近の半魚人がここまでエルフっぽいとは魚類の進化には驚きだな。
――で。
「さてダイコン。正直なところウチは今人手不足でな。あの求人を見て応募してきた時点で君は採用と言っても過言ではない。つまりこの面接は面接と言うより説明会に近いと思ってくれ」
まあ、そうでないと困る。ネットには『地球を征服しませんか?』と、面接会場の場所しか書いておらず、時給すら書いてなかったからな。今ここで説明してもらわねば……
「そしてその説明を聞いてバイトをするかどうか……それは君自身で決めるのだ。君がその気になったのならば我々はいくらでも歓迎するし、その気がないのなら無理に誘う事もない。良いかな?」
合否の権利はこちらに委ねるという事か……ありがたい話だ。と私は無言で頷いた。
「ではまず時給だが380円になる」
やっす。法外だな。
「但し地球を征服した暁には出来高として埼玉県か群馬県……その辺りの支配権を贈与する」
「!」
俄然やる気が出てきた。時給380円なんて「クソ喰らえ!」英語で言えば「うんこ召し上がれ!」だ。だが浮かれるのはまだ早い。
「本当に……地球征服をしたら群馬の支配権をくれるのだな?」
私が確認のため都に問えば、都は頭に疑問符を浮かべ。
「……? どうした? 目の色が変わったな。群馬県に何かあるのか?」
私はゆっくり、深く頷く。
「……ある。実は私はつい最近会社をクビになったのだが、その会社の本社が群馬県にあるのだ」
「ほぅ?」
「私は理不尽な理由で私をクビにした会社に復讐がしたい。群馬を支配して良いのならば、群馬にある会社を好き勝手にしても構わんのだろう?」
私の怒気を孕んだ声に、何故か都は妖艶な笑みを浮かべ。
「素晴らしい。地球を征服しようとする者としてはそれくらいの気概がなくては困る。そしてもちろん好きにしてもらって構わない。君が勤めていた納豆の香りを販売する会社を頻尿に効く漢方薬の香りを販売する会社に変えるという嫌がらせも君の自由だ」
「いや、私が勤めていたのは納豆の香りを販売する会社ではなく、芳香剤の香りを販売する会社だったのだが……まあ今はそれはいい。ただ私もここでバイトをする決心がついた。是非働かせてくれ」
「本当か。こちらとしては願ったり叶ったり
「そうだ」
「謎の会社だな?」
「謎の組織に言われたくはない」
こうして私はこの会社? 組織? でアルバイトをする事になった。
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