第5話 距離を置きたい
マリーがすぐに支度を済ませてくれて、ベッドに横になりながらどうやって婚約破棄を告げようかと思案していた。
突然婚約破棄の話をしたら、流石にどうしたと思われてしまうわよね……どのようにもっていけば自然かしら。
熱に浮かされている間に殿下の婚約者に相応しくないと気付きましたの……うーーん、不自然過ぎる。だってこの小説のオリビアは、それはそれは王太子殿下が大好きで、片時も離れたくない程に大好きオーラが溢れていたのですもの……親同士が決めた政略結婚ではあるけど、8歳の時に婚約の顔合わせをした時から聖女が現れるまで一途に思い続けたオリビア。
王太子妃候補としての厳しいお妃教育も王太子殿下の為ならって耐えられてしまう程に。
本来なら15歳になった貴族は教育機関であるトワイライト学園に通わなければならず、そこで様々な知識や教養を学び、18歳で卒業する。
それと同時に婚約者のいる者は結婚、という流れなのだけれど、未来の王太子妃としての教育を受けているオリビアは学園での教育は特別に免除されている。
それなのに授業に出ないにも関わらず、王太子に会いたいが為に学園にも足繁く通っていたのよね……自分がした事ではないにしても穴があったら入りたい。ちょっとしたストーカー………………しかも王太子に群がる女生徒は皆敵のように威嚇していたし、正直歓迎されている雰囲気は微塵もなかった。
「そんなオリビアが突然婚約解消したいだなんて、天変地異もいいところよね」
……………………………………そうよ、学園に通わなくていいのだから、それを逆手に取ればいいのでは?
しばらくの間、療養という名目で領地に行きます、と言って公爵家を離れ、領地で過ごす。その間に殿下の考えも変わるだろうし、聖女も現れてお役ご免になるんじゃないかしら…………ちょうど領地を見てみたいと思っていたし…………一石二鳥じゃない。
うん、そうしよう。それがいいわ。
そんな事を考えていると、自室の扉がノックされた。
――――コンコン――――――
どうぞ、と返事をすると扉が開きマリーが顔を出した。
「お嬢様、王太子殿下がいらっしゃいました」
マリーが私に伝えに来てくれたので、ベッドで横になっていた私は上体を起こし、布団を整えた。
そうして扉から入ってきた王太子殿下は、それはそれは眩しくて神々しい光を放っていた。
なにこれ、どんなエフェクトがかけられているの……絶対この世の人間じゃないわ…………漆黒の髪が艶を放っていて、少し斜めに流している前髪から覗く瞳はアイスブルーがかっている。襟足は少し長めだけど整えられていて、鍛え抜かれているとすぐに分かる体は胸板が厚く、腰はくびれ脚はスラリと長いというバランスのいい体形だ。おまけに顔はクールだが王太子としての物腰の柔らかさを感じさせる微笑みを絶やさない。
これでは世の女性はイチコロだ。
実際オリビアもイチコロだったわけだけど……今の私には中身が分からない不気味な笑みにしか見えない。これが王族ってやつね……こちらも微笑みを絶やさず対応しなければね。
「体調はどうだい?6日も意識が戻らなかったと聞く。少しづつ体力が回復してきたのではないかと顔を見に来たよ。」
「殿下におかれましては、わざわざご足労いただき感謝いたします。わざわざお越しになられなくとも回復しましたら、こちらからご挨拶に伺おうと思っておりましたのに……」
全く顔を見たいだなんて思っていなかったくせにそちらから来なくてもよくてよ。そんな意図を込めて言った言葉は全く違う意味に捉えられたようだった。
「そうだな…………君なら、自ら挨拶に来ただろうな……」
なんだか私の言葉が信じられないといった感じ。
………………オリビアがぐいぐい迫っていた事を思い出しながら、自分の発言は間違っていないと思う事にした。
「ゴホッゴホッ…………ずっと熱が下がらなかったものですから……お見苦しい姿をお見せして申し訳ありません。なかなか体力が回復しなくて……私、療養の為に領地に行こうかと思っているのです」
「…………領地に?」
流石にこの発言には驚いたようで、殿下は目を見開いてこちらの真意を伺っている。あなたに会いたくないのよ、とは言えないわよね……。
「はい、ここ王都では何かと落ち着いて過ごす事が出来ずにいましたので。領地の自然豊かな土地で、ゆったりと過ごすのもいいんじゃないかと考えましたの」
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