閑話・別視点

深見くん&志野谷さん・征士くん視点・山井さん視点

● 深見くん&志野谷さん


 虹川征士の家へ遊びに行ったとき、偶然志野谷とかちあった。


「深見くん……」

「志野谷。お前、また失恋したんだろ。虹川の家に来るときは、大体男と別れた後だもんな」


 俺は志野谷の赤い目を見て、溜息をついた。

 こいつは昔から、美形に弱い。

 惚れて惚れて……いつも玉砕する。

 そうすると癒やしを求めて、虹川の子どものちーちゃんに会いに来るのだ。

 もういい加減俺達も社会人なんだし、美形に憧れるのはやめろよ、と言いたい。


「深見くんの言いたいことくらいわかるよ。いつまでも、夢見ているなってことでしょ」


 つんと横を向いた途端、露わになる首筋。

 俺は思わず、喉を鳴らした。

 ……昔から、容姿は可愛かった。

 以前ひどいことをしたけど、その後は素直に謝って、虹川達を応援した。

 根は悪い奴じゃない。

 俺より随分低い位置にあるボブカットを眺めながら、ふと言ってみた。


「なあ、志野谷。俺達付き合おうか?」


 志野谷は、ばっと俺を見上げた。


「え? はあ? 付き合う?」

「そうだよ。俺は美形じゃないけど。志野谷と、付き合ってみたい」


 まじまじと、志野谷は俺を見つめた。

 品定めされている気分だ。


「ま、まあ、……ちょっと付き合うくらいなら、いいかもね……」


 随分見つめた後、呟くように志野谷はそう答えた。

 目も赤いが、頬も赤くなっている。

 俺なら、絶対泣かせたりしない。


「そうだな。ちょっと付き合って……虹川達みたいになるのも悪くないんじゃないか」


 付き合って……そのうちこいつを、お姫様みたいな嫁にしてやる。

 虹川達みたいな、幸せな家庭にしてやる。

 だから……。もう、泣くな。


 ♦ ♦ ♦


● 征士くん視点


「月乃さん、月乃さん」

「何かしら? 征士くん」

「今度の日曜、部活休みなんです。遊びに行きませんか?」


 僕は部活休みなら、ずっと月乃さんと一緒にいたい。

 部活のときだって、月乃さんのことを考えてしまう。

 月乃さんは左手を頬に当てた。


「そうねえ……。観たい映画があるから、それ観に行かない?」

「いいですね、映画。是非行きましょう」


 日曜日になって、映画館へ行った。

 恋愛もの漫画や文学が好きな月乃さんだ。

 きっと女の子らしい恋愛映画が観たいのだろう。


「これが観たいの」


 月乃さんが指差したのは、時代劇ものだった……。

 忘れていた。月乃さんは歴史も好きなんだった。


「田沼意次の真実、ですか……」

「そう。とある時代小説の中で、田沼意次のファンなの」


 映画を観終わった後、月乃さんは滂沱の如く涙を流した。


「田沼意次頑張ったのに……蟄居だなんて」

「そうですね……」


 確かに、柳沢吉保や間部詮房より、ずっと厳しい結末だった。

 でも、恋愛映画を観て泣くのとは、ちょっと違う気がする。

 ハンカチを差し出しながら、次はどこに誘おうか考えた。

 デートっぽい場所……。遊園地、とか?


「月乃さん、今度は遊園地に行きませんか?」


 お化け屋敷で驚いて、抱きついてくれるかもしれない。

 次の休みは遊園地に行った。

 月乃さんは楽しそうだ。何でも喜んで乗る。

 ……まるで男友達と遊びに来たようだった。

 別にジェットコースターなどに怖がることもない。

 お化け屋敷も入ってみた。


「わあ、結構凝っているわね。面白ーい」


 面白がられて、抱きついてくる様子はなかった。

 楽しいお出かけだったけど、月乃さんは僕の意図とは違うというか。

 ……次はどこに誘ったら、デートっぽくなるかな。


 ♦ ♦ ♦


● 山井さん視点


 フルコンプ目前に、声をかけられた。


「終わった?」

「もうちょっと……。黙っていて」


 サブルートも埋められ、スチルを制覇した。


「終わった~! このゲーム良かった。えっと次は……」

「俺のお勧めはこれ」


 次のゲームに迷っていると、彼氏にゲームを渡された。


「これ? 移植版? 前にPC版でやったけれど……」

「PC版よりも、ずっと良くなっている。絶対次はこれ」


 彼氏のお勧めに、はずれはない。

 まさか私に、乙女ゲーム好きの彼氏が出来るとは思わなかった。

 乙女イベントも一緒に行くし、グッズの行列だってともに並ぶ。

 彼氏は男なのに、あまり周りの視線とか気にならないみたいだ。

 何だか彼氏というより、乙女ゲーム友達という方がしっくりくる感じ。

 移植版は面白かった。次は何をやろうかな。

 積みゲーに手を伸ばしたところで、彼氏に何かを握らされた。


「これ……この、指輪!」


 私が一番好きなゲームをモチーフにした指輪だった。

 ずっと欲しかったのに、数量限定で手に入らなかったやつだ。


「くれるの? 嬉しい、ありがとね!」

「それ、やるから……。そろそろ『山井』の苗字を変えない?」

「苗字を変える?」


 私はきょとんとした。

 その後、顔が熱くなった。


「随分安い、エンゲージリング……」

「でも、お前にとったら、そこいらの指輪より価値があるだろ?」


 その通りだ。私のことをわかっている。


「私、多分一生、ゲームから離れられないよ?」

「おう、俺もだ。気が合うな」


 乙女ゲーム友達&夫になった。

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