6 謝罪
翌日、土曜日の午前中。
私達三人は名簿の住所を頼りに、虹川さんの家へ向かった。
謝罪しに行くので、三人とも制服姿。私はミニ丈にしていたプリーツスカートを直し、フレグランスも控えた。
そうして着いた家は、とても大きくて立派なお屋敷だった。
気後れしながら、門で学校名と名前を名乗り、玄関まで歩いた。
広い玄関先で、家政婦の人にもう一度名乗った。学生証を見せてくれと言われたので、制服のポケットに入れていた学生証を、それぞれ提示した。
「お約束がないので、面会出来ないかもしれませんが……」
そう言われてしまったので、深く頭を下げてお願いした。
しばらく待っていると、取り次いでもらえたようで、これまた広い和室に通された。一応礼儀として下座で待っていると、虹川さんと、虹川さんのお父さんらしき人が現れた。
立ち上がって挨拶をする。やはり、虹川さんのお父さんだった。
お父さんが座りなさいと言ってくれたので、改めて座る。家政婦の人がお茶を出してくれた後、お父さんが話を切り出した。
「それで皆は瀬戸征士くんの級友と聞いているが、何の用事かね。こちらはもう瀬戸くんとは縁がないのだが」
まず、おずおずと深見くんが説明し始めた。
「はい、それは何となく知っています。ただ僕は瀬戸くんの友達として、虹川先輩と虹川先輩のお父さんに、今回のことでお話したくて来ました」
「今回のこととは何の話だ?」
「はい。虹川先輩と瀬戸くんが婚約解消した件で、ここにいる志野谷さんが嘘を言っていたことです」
それから三人で口々にいきさつを話した。私は途中で大泣きした。
山井さんが、瀬戸くんは虹川さんのことが好きだと言ったら、虹川さんは信じられないように驚いていた。
「ちょ、ちょっと待って。瀬戸くんは、私のことが好きなの?」
そんなの、当たり前に決まっている。婚約解消してからの、ひどい顔。私が仕出かしたことについて、あんなに激昂していた。授業放棄の大学通い。クラスに戻ってからは、いつも憎々しげに私を睨みつける。
「僕は、月乃さんのことが大好きなのに……!!」
あの悲痛な叫び声は、忘れられない。
虹川さんは実際会ってみると、写真よりもずっと綺麗な人だった。五歳年上なだけあって、大人っぽいと思った。
これでは絶対、私では敵わない。
ともかく虹川さんと瀬戸くんが会って、誤解を解いてくるという話の流れで、私達は帰ることになった。
帰り際、私はもう一度深く頭を下げてお詫びした。
「嘘ついて本当にすみませんでした。またあの優しい瀬戸くんに戻してください。虹川さんだけにしか、お願い出来ません」
心の底から謝罪して、お願いした。
虹川さんは優しく笑って、許してくれた。すごく、優しい人だ。
♦ ♦ ♦
日曜が過ぎ、月曜となった。
私が一時間目の授業の支度をしていると、穏やかな顔の瀬戸くんが登校してきた。
瀬戸くんはクラスへ入って私を見つけると、申し訳なさそうに近寄ってきた。
「志野谷。この間は引っぱたいてごめんね」
私はすごく、びっくりした。
「え……」
「また勉強も教えるし、クラスメイトとして仲良くしよう。怒ってごめん」
頭を下げられた。私はびっくりしたままだ。
「……何、で? 私、あんなこと、したのに……」
「虹川先輩に言われた。女の子を引っぱたいたり、優しく出来ない人は嫌いだってさ。生活態度や授業態度についても注意された。だから、ごめん」
虹川さん……優しい。
「私こそ……、ごめんなさい。もう二度と、あんなことしない」
「うん。また仲良くやろうな。……虹川先輩の、為だし」
「虹川先輩の、為?」
ん? そう言えば。
「『月乃さん』じゃないの? 何で『虹川先輩』?」
今まで瀬戸くんは、いつも『月乃さん』と呼んでいた。
『月乃さん』が大好きだと、叫んでた。
「ああ。虹川先輩が、婚約者じゃなくて『お友達』から、もう一度始めましょうって言ったんだ。『お友達』でも、女の子に優しく出来なかったり、生活態度や授業態度が悪い人は嫌だってさ。そういうのを改善したら、婚約者じゃなくても、彼氏くらいにはしてくれるって」
『お友達』だから名前呼び出来ないんだよ、と彼は苦笑いした。
「だから色々直して、いつかまた虹川先輩の婚約者になるのを目指すんだ」
「……そうなんだ。頑張って! 応援してる!」
私は瀬戸くんのことを、完全に諦められた。
これからは絶対、虹川さんと瀬戸くんの仲を応援しよう!
♦ ♦ ♦
また優しい瀬戸くんになったので、クラスメイトが次々に話しかけ、理由を訊いていた。瀬戸くんは話しかけてきた人全員に、笑顔で虹川さんと友達になったことを話していた。話の中で、皆に、虹川さんがすごく素敵だと語っていた。
クラス中が、虹川さんと瀬戸くんの間を応援することにした。
瀬戸くんは虹川さんに言われた通り、授業も真面目に受け、皆に優しくしていた。先生が、皆瀬戸くんのことを、見本にしろと言っていた。
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