第13話 現状確認

 異世界に夜が訪れた。

 フロア内の物資の整理を終えた俺達の部隊は、それぞれ分担して作業にあたっていた。

 バリケードの補強やフロア内の巡回、それに二階の状況確認だ。

 隊員によると、二階にゴブリンはいないらしい。

 一階の占領に専念しているようだった。


 夕方頃には上空に偵察ドローンを飛ばした。

 アパートを俯瞰させて構造の把握に成功する。


 これにより犯罪の巣が丸ごと異世界に飛ばされたことが判明した。

 草原の只中に、東西南北と中央のエリアが余さずそびえ立っている。


 破壊されても困るのでドローンはすぐに戻らせたが、他のエリアにギャング以外の人間を確認できた。

 物資も潤沢と考えていいだろう。

 現在のエリアに籠城せず、場合によっては移動することも視野に入れてよさそうだ。


 余談だが、偵察ドローンは敷地外に出ても平気だった。

 影響を受けるのは生物だけのようである。

 これも何気ない発見かもしれない。


(いよいよカオスな感じだな)


 三階の一室を占拠する俺は、現状を振り返って笑う。

 遠くから喧騒と銃声が聞こえてくるが、もはや慣れたものだ。

 どこかでギャングとゴブリンが戦っているのだろう。

 いや、ギャング同士かもしれない。


 こんなクソッタレな状況なのだ。

 仲間割れだって平然と起こる。


 俺達の部隊が破綻していないのは、極限状態でも平常心を保てるように訓練しているからだった。

 それでも異世界に飛ばされたのは予想外だが。

 隊員のメンタルが刻一刻と削られている。

 自由に飲み食いさせた効果もあってまだマシであるものの、いずれ限界が訪れる。


(殺し合いになると面倒だな)


 その時は隠れてやり過ごすしかない。

 下手に説得しにかかると命を落としかねなかった。

 このまま部隊の秩序を保ちながら元の世界に帰還できるのがベストだが、状況が分かれば分かるほど、それが極めて困難であることに気付く。


 アパートに閉じ込められた現在、自分の生存が最優先だった。

 部下の命を踏み台にしてでも生き残るつもりである。


(まあ、仲間なら別で作ればいい。そのうち候補が見えてくるだろう)


 この極限状態では既に淘汰が始まっている。

 自ずと生存者は絞られてくるし、弱い者から死んでいく。

 その中で使えそうな奴を探せばいい。


 犯罪の巣が丸ごと転移したのだ。

 様々な人間が巻き込まれているはずである。

 この環境を楽しめるようなタフガイがいれば、手を組んでいければと思う。


 酒をちびちびと飲みながら今後の計画を練っていると、近くで銃声と怒声が鳴った。

 おそらくこのフロアで起きた音だ。

 すぐさま部屋の扉が開いて部下の一人が現れる。


「隊長! 上階からギャングどもが……!」


「ほう、思ったより早いな。とち狂ったのか?」


 俺は苦笑交じりに立ち上がると、短機関銃を持って部屋を出る。

 ギャング達が何の用件で下りてきたのか知らないが、きっと碌なことではないだろう。

 これから夕食の時間なのだ。

 さっさと片付けてしまいたいものである。

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