くもりのちはれ、ときどき死体

新代 ゆう(にいしろ ゆう)

プロローグ

今日の天気は晴れのち曇り

 血液が輝いて見えたのは初めてのことだった。


 放課後の教室はクッキーのような甘い香りと、制汗剤の透き通った匂いが混じり合っている。太陽が沈んだあとの空には僅かに明るさが残っていて、少しだけ、眩しい。


 窓の外へ視線を移すと、サッカー部の生徒がグラウンドを走り回っていた。奇妙なかけ声が窓から入り込んで、教室にこだましている。


「ねえ、今どんな気持ち?」


 頭の中にある言葉が自然と溢れるみたいに、背後の女子生徒が言う。隣に視線を移動させる。数秒前に「前からあまねが好きだった」と言った里緒りおは、今、薄く目を閉じている。


 首の、お星様みたいにキラキラした切り傷から、絶えずなまめかしい液体が流れ出していた。カッターナイフを持つ女子生徒は小山こやま有紀ゆきと名乗った。それが彼女との出会いだった。


 自分の存在意義がよくわからなくなったとき、僕はいつも彼女と出会った日のことを思い出す。

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