砦の騎士団(その2)

 女騎士は咳ばらいを一つすると、気を取り直して質問を続けた。


「それより、お二人は何故このような場所に? 裂け目は物見遊山で降りてくる所ではないというに」


 その言葉に、老騎士は隣りにいる連れの女性をじろりと見やる。

 女性の方は、そんな騎士の態度を迷惑そうに感じた風でありながらも、うっそりと口を開いた。


「私はジュディ。故あってこのように旅の身の上。こちらは友人のベルナール卿。以後、お見知りおきを」


 そう手短に名乗って、彼女は軽く会釈した。


「下へ行きたい。どうにかしてここを通していただくわけにはいかないかしら?」

「下へ」

「そう。この砦よりも、もっと下層へ」

「行って、どうするのです?」

「探したいものがある」


 ジュディと名乗った旅人の言葉は、実に簡潔だった。手短すぎて何の説明にもなっておらず、城門を守護するリディアとしては脳裏にいくつも疑問符が浮かんで止まない。

 リディアはその疑問の答えを目で探るかのように、立ち尽くす二人の旅人をじろじろと眺めまわした。


「……念のため確認するが、お二人は王国側からふもとのカイエス砦を経てここへとやってきたのであろうか。それとも、西回りに自由都市側から荒野を越えてやってきたのであろうか」


 この質問には、老騎士の方がべつだん渋る事もなくさらりと答えた。


「先ほどこちらの少年にも話したが、我らは西から来た」

「では、ギルドの紹介で来られた、という事でよろしいか?」

「ギルド……?」


 不思議そうにつぶやいたのはジュディの方だった。そのまま旅人同士で首を傾げながら互いを見合わせたので、それを見た女騎士リディアの方が怪訝な表情になる。


「この裂け目に砦があると知る者は少ない。武芸者の多くは自由都市側の商人ギルドから請け負って魔物討伐の任に就くために、ギルドの隊商に同行してやってくるか、推薦もしくは紹介という形をとって当地を訪れる場合が大半だ」

「その、商人ギルドというのはどうしてここに砦があることを把握しているのかしら。自由都市側の、という話であれば、あちらから見れば他国の事であるのに」

「……そういった事情に通じておられないという事は、やはりギルドとは無関係でいらっしゃる、という事だな?」

「そうね。関係はないわね」


 そのように素直に認めるジュディの言に、リディアは深々とため息をついた。


 その時だった。その女騎士の背後から、別の男が様子を見にその場に現れた。


「いったい何事だ?」

「ああ、レイモンド少尉」


 リディアは声をかけてきた相手をちらりと振り仰ぐ。すらりと鼻筋の通った美男子ではあったが年の頃で言えば三十近く、リディアよりは年長に見えた。所々に補修の跡はあるものの丁寧に磨き上げられた立派な胸当ての甲冑姿で、その人物もまた同じく騎士であろうことが見て取れた。

 リディアはもう一度ため息をつくと、ここまでのやり取りをかいつまんで彼に説明するのだった。

 レイモンドと呼ばれたその男もまた、ギルドの紹介を得ずにここを訪れたという二人の旅人には怪訝な眼差しを向けるのだった。

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