無題 / なんようはぎぎょ 様

 作品名:無題

 作者名:なんようはぎぎょ

 URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330653273119436

 ジャンル:現代ドラマ

 コメント記入年月日:2024年2月19日


 以下、コメント全文。


 はじめまして。

 この度は『レビュー、もしくは感想を書きます』企画にご参加いただき、ありがとうございました。主催者の島流しにされた男爵イモです。


 作品の方を拝読致しました。

 理路整然とした文章に混ぜ込まれた、過激だけども素朴な人間性が印象的な短編だったかと思います。主人公——夕紗の思考は常識的に考えると異常にもかかわらず、そこには誰もが共感しうる感情が秘められていました。彼女を狂人とみるか、それとも孤独や不安との接し方を知らない一人の普通の人間とみるのか。その判断によって、物語の見え方は変わってくるのでしょう。牧子に関しても同様に、誰の立場からみるのかによって人物像は異なるものになるはずです。彼女は献身的な自分自身を愛するタイプかと最初のうちは思っていましたが、見方を変えればお節介な人というだけなのかもしれません。ただそのお節介さ、半端な善意が夕紗の神経を逆撫でしていたのは間違いない部分ですね。


 本作はおそらく「信頼できない語り手」を用いた作品だと私は考えています。つまり、夕紗は実際には汚物を持ち歩いていないのではと。彼女の目から語られる出来事や行為には、屈折した点が多くあるのではないでしょうか。作中では解釈が定められていなかったので、感想ついでに少し自分の解釈を記したいと思います。もしもこの感想を読んでから『無題』を楽しもうという読者の方がおられましたら、ネタバレになる恐れがあるのでご注意ください。それでは、まずは作品内での重要な描写に対する見解を述べます。


 汚物を投げる→負の感情の発露

 汚物のことを考える→拳銃(防衛本能)による武装

 ラブラの散歩でのエピソード→夕紗の勝手な解釈

 夕紗の心境の変化→先制攻撃(奇行)による自己防衛の学習


 これらのことから夕紗は動物園のゴリラと同じことをしているのではなく、そこにある感情を模倣していると読みました。夕紗からすれば他人に汚物を擦り付けた気でいても、実際は叩いたり押したりした程度なんじゃないかと。「精神的に不安定な人物の奇行」をミスリードとして利用し、本当は根底にある人間的な葛藤を描くことを狙った作品だったと思っています。そこに過激な表現を交えることによって、作品のパンチ力を高めた結果がこれなのだというのが拝読後の感想です。まとめると、本作は精神疾患による狂気ではなく、もっと素朴な人間の弱さを表現したものだったのではないかということです。これが単なる深読みのしすぎなら恥ずかしいだけですが、なにはともあれ考察の捗る作品だと感じたのは事実です。


 では、次は気になった点をまとめていきます。

 以下の二点になります。

 ➀垣間見える常識人らしさ

 ➁作品タイトルについて


 まずは➀、垣間見える常識人らしさ。

 これは物語の展開についてです。作中では過激な内容が扱われている一方で、それに対して大人しい展開になっていると思いました。物語の締め方や、汚物以外での夕紗の発作など。それらは序盤の爆発力と比べると理解しやすいもので、序盤での期待を上回るものではなかった印象です。端的に言えば作風を急進的な方向に振り切れていない、作者様の躊躇のようなものが窺えます。とりわけ本作はパンチ力で勝負している側面があるので、ここで遠慮すると内容は不完全燃焼気味になります。作中でみられる異常性。それをどう料理するのかはともかく、まずはもっと前面に押し出してもいいのではと思います。


 たとえば、モノも夕紗を嘲笑っている描写を足す。夕紗は他人からの見られ方を極度に意識する節があるので、その対象を観覧車付近のゴミ箱や自販機まで広げてみるのです。


「ゴミ箱の投入口が弧を描いている。自販機が異音をたてて、体を揺すっている。みんな私を嗤っているんだ、きっと。怖い、いい加減にして。気に入らない自販機。なけなしの小銭を詰めて黙らせてやる。全財産で尊厳を買う。受け取り口に溢れるボトルを横目に、今度は私がお前を嗤ってやる」という風に、夕紗が自分の世界に浸っている描写を足してみるのはどうでしょうか。他には話の最後に、広場の真ん中でジップロックの中身をぶちまける描写を入れるなど。これらはあくまでも一例ですが、こうした主人公の内面を曝け出した描写が増えると、展開に中毒性が生まれて作風がより際立つはずです。


 次に➁、作品タイトルについて。

 なにか考えがあってのことなら申し訳ないですが、タイトルには手抜き感があります。内容との関連性は肯けなくもないですが、作品の趣旨を十分に伝えられていない気もしました。私は抽象的なタイトルに惹かれて本作を読みましたが、その反対に中身を読まずにスルーされるリスクも現状では大きいと思います。中身はかなり尖っているので、その鋭さを是非ともアピールしていただきたい。今の作品タイトルに特別なこだわりがないのであれば、なにか作品と関連する、作者様が言いたいことを凝縮した単語で飾っていただければと思います。


 最後に一点、気になった文章をピックアップしておきます。


「ははじめは、その日に犬のラブラの散歩に行って、~~」→「は」の重複。または緊張してどもったことの表現でしょうか。であれば、読点を挟むとわかりやすいです。


 以上になります。

 作者様の創作活動のお役に立てたのなら幸いです。

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