第78話「襲来!獄熱のマグマとギャルおっさん」


 突如として想武島に現れた複数の地下アイドル。彼らは合同合宿中の奏者達に容赦無く牙を向け襲いかかる。

 各地で戦闘が勃発する中隼人の前に立ちはだかったのはかつて共に地下アイドルとして同じステージに立っていたかつての仲間。溺愛魔虞無できあいまぐなだった。


 ――――――――――

「久しいなぁ刹那ぁ。相変わらずいけすかねぇ顔は健在みてぇで何よりだ」

 

「どの面下げて俺の前に現れた……!」


「そうかっかすんなよ。俺だってもうお前には会う事はねぇと思ってた。だが俺達の目的を果たす為には虹霓こうげいの因子が必要なんだよ」


「虹霓……?」


 アイドル因子は計7つの世界からこちらの世界に魂体として転生してきている。隼人の中にいる灯野優菜が元いた世界が通称『虹霓の世界』に該当される。

 そしてアイドル因子は同一の世界のアイドルが身近にいればいるほど従来の力を発揮出来るようになり力が引き出される。最近の一斉覚醒によって眠っていた虹霓の因子のほとんどが覚醒に至った。


「俺達は虹霓の力を現時点で8つ保有している。主な虹霓因子の半数を網羅してると言って良い。

 後はお前を含んでここにいる虹霓因子持ちの三人。そいつらを俺たちの仲間に引き入れて俺達の計画は次の段階へと移る」


「俺が素直にお前の言う事を聞くと思うか?」


「思わねぇよ。だから無理やり沈める。てめぇの中のくだらねぇ善性と正義感を」


 魔虞無が右手をかざすとそこには宿幻輪が装着されていた。そして優菜は久しい感触を味わう事となる。確かに感じるかつて悪と戦っていた戦友の力。

 優菜の悪寒を他所に魔虞無は宿幻輪の力を引き出させ両腕に轟轟しく燃え盛るマグマが宿る。


「お前らは確か火を使うんだったか?残念だったなぁ……俺は全てを飲み込み無に帰す太陽が如き獄熱を帯びた……マグマだ!!」


 魔虞無の好戦的な態度を見るに戦闘は避けられないと判断。隼人は傷つく身体に無理やり鞭を打ち再び幻身する。


『大丈夫ですか!?隼人さん!まだ傷が癒えて……』


「なんとかする……しなきゃならねぇ」


 朦朧とした意識の中で朧げな炎を刃に宿し魔虞無へ剣先を向ける。

 

「立ち向かってくるなら問答無用だぁ。手負いだったから負けた……なんて思う余地がねぇぐらい完膚なきまでに叩きのめしてやるよ」


 ――――――――――

 憎愚の力を持った地下アイドルの襲来という緊急事態。

 本州の巳早達とも連絡がとれないことから隊長達は二分化し本州帰還組と侵入者撃退組とで別れ行動を開始する。

 突如出現した地下アイドル達の撃退及び身柄の拘束へ向かった撃退組の最愛恋達は想武島中央区域に張り巡らされたアンチメタフィールドの影響で中に入れずにいた。

 一方で成分の分析をしていた十番隊隊長。鳴瀬博也は成分の解析に成功し恋達に無線で回線を飛ばす。


『成分の解析に成功した。この結界は数咫姫あまたき世界のアイドルに対して拒絶反応を示す結界だ。他の衝撃に対しては脆いが無作為にこちらからは動けないな。無理やり破壊しようとすれば中の奴らの身の安全は保証できない』


 現隊長達に宿るアイドル因子は全て通称数咫姫の世界から来たアイドルである。

 そしてアンチメタフィールドは事前に何に対して弱体化、デバフをかけるかの対象をチューンナップする必要がある。

 故にこれらは前持った事前準備とDelight側の戦力状況を把握していないとできない芸当である。


「気味が悪ぃな。こっちの状況は全部把握してますよとでも言いたげじゃねぇか」


 一海は怪訝な顔つきで苛立ちながら不満をこぼす。


「なんにせよこのまま何もしないってのも癪だよね。そこら中でおっ始めてるみたいだし大事になる前に処理しないと」


『この結界は俺達を中に入らせない事だけに特化しすぎてるが故にそれ以外の出入りに関しては脆いはずだ。数咫姫以外のアイドル因子持ちに結界外に出てもらえさえすれば外側から破壊できる』


「じゃあそれを中のみんなに伝えないといけない訳だ」


「でもどうすんねん。こっちからの音は完全に遮断されてるみたいやぞ」

 

  八番隊の隊長。巽健吾が恋はと尋ねる。

 更に広報スピーカーも全て機能を停止させられており電子機器での情報伝達もままならない。

 だが上空から各場所での状況はおおよそ把握できるこの状況に恋は一つの案を閃く。


「音は無理でもこっちから中が見えてる以上逆もまた然りと見た。だったら一瞬でもこっちに意識を向けさせればどうとでもなる」


 恋はアンチメタフィールドの中央部まで移動し天高くに向けて片手から特大の火花を放つ。それは巨大なの花火のように打ち上がり眩い光と共に花開く。

 その閃光の眩しさに交戦中だった達樹と卓夫の手が止まる。


「眩しっ!な、なんだ!?」


「あそこにいるのは恋隊長ではないですか!?」


 恋は更にダメ押しとして想力を光のエネルギー体へと変え空中へ奏者達へ向けてメッセージを描く。


「あぁ……それに文字も描かれてる。『緊急事態、合宿中止。迅速に結界外に出て結界を破壊すべし』」


「拙者達戦いに夢中になりすぎるが故に気付きませんでしたがそこら中から憎力を感じますぞ!」


「あぁ。しかも憎力だけじゃなく想力も混じり合ってる。緊急事態ってのは間違いねぇみてぇだ」


 達樹と卓夫は戦闘を中断し中央区域を脱する為に動き出す。


「とりあえず外に向けて走ってるけど状況がさっぱりすぎる。どっかしらの加勢に入るべきか、恋さんの言う通り脱出をを優先するべきか」

 

「憎力の複数反応。敵襲なことに違いは無いと思います。そんな事態に隊長達の気配が一切無い事を考えるとそもそもこちらへ駆けつけられない状況と考えるのが妥当。

 文面的に拙者達を避難させるというよりもとっとと出てきて結界を壊せと言う意味合いの方が強いはず。恐らく隊長達に特化した何かしらの対策がされてるんだと思います」


「なら今誰とも出くわしてねぇ俺たちがこのまま外に出てぶっ壊すってのが一番手っ取り早そうだな」


 そうと決まればと一目散に中央区域からの脱出を試みる達樹達。

 定位置からのかなり離れて中央区域外が近づいてきた矢先謎の奇声が甲高い声でこだまする。


「ホォォォイ!!」


 ビュオッ!!


 奇声が発せられると共に達樹達へ向けて巨大な黒の固形物が勢いよく飛んでくるも二人は寸前で回避し身構える。


「二人してあーしのドキャワメイクキャノンを避けるとは中々やり手じゃないのぉん」


 出口目前で出くわしてしまった敵襲。致し方なしと達樹と卓夫は臨戦態勢を取る中土煙が晴れていく。


「あなた達を外には出させないわ!そうそれがあーしに任された超特大重要任務♪」

 

 共に徐々に明らかになっていく敵の姿。


「た、達樹殿……」


「こ、こいつは……」


 そして完全に顕になる。達樹達の前に立ち塞がる敵の姿はまず間違いなく男。第一に目に入って来たのはやり過ぎなまでのギャルメイク。ファンデーションが本来の肌色と全く合っておらず無理やり白味が強調された不気味さしかないギャルメイク。

 更に金髪ギャルを想起させるロングウィッグとギャル制服に身を包みだらしない腹回りの贅肉のせいでボタンが腹部周り締まりきっていなかった。更にルーズソックスからも並々ならぬ毛量のすね毛が見え隠れしている。

 その余りの衝撃的な姿に達樹達は見ているだけで嫌悪感に全身が支配される。


「まずは自己紹介♡あーしは今人気爆発中の令和を賑わす新時代の地下アイドルグループ『ギャランドゥー♡マインド』で活動する金髪おっさんギャル担当こと『馬場目黒・メバチコブッチ・ロロミィ』よん!ガチよろぴくー♡」


 ロロミィは言い終わると同時にファンサービスと言わんばかりにウインク投げキッスを飛ばしてくるも達樹達は咄嗟に身を引いてしまう。


「こ、こんなのが人気絶頂中……?日本は終わっちまうのか?」


「適当言ってるだけでござろう。人気絶頂中ならこんなインパクトしかない見た目知らない方がおかしい」


「まぁ人気絶頂中は確かに言いすぎたかもしれないわん。でも近い未来あーし達の時代は必ず訪れる。おっさんギャルが日本を……いや、世界を覆い尽くすのよん!」


「お前らの目的はなんだ。憎愚の仲間なのか」


 目の前の不気味なおっさんギャルから隠そうにも隠しきれていない憎力を達樹達は確かに感じ取っていた。

 だがこれまで相対して来た憎愚とも異なる違和感も感じていた。


「ぞぐ?なにそれ。あーし知らないわ。ギャルは小難しい事はわからないの♪」


「あぁそうかい。てめぇらの事はボコった後に聞いた方が早そうだ」


 達樹は怒りのままに想力を身に纏い幻身する。髪型がサイドテールへと変わり髪の各所がピンクと黄緑の桜を連想させるセクションカラーが加わる。

 ロロミィはその特徴を見て動揺を隠しきれず目を大きく見開き達樹を凝視する。

 

「え、え、ちょっと待ってぇ?え、まじぃ!?」


「な、何がだよ」


「ピンク色と黄緑色がメッシュのように髪色として刻まれる……あなたの因子!桜の系譜じゃなぁい!?しかもかなり濃厚!!

 キマシタワこれはぁん!!こいつを連れかえればボスは大喜び!!『ギャランドゥー♡マインド』大躍進待った無しよぉ!!フォォォォン!!」


 いきなり雄叫びをあげたかと思いきや標的を刈り取る獣のように鋭い眼光を持って達樹へ拳を振るい殴りかかる。

 いきなりの奇襲だが達樹もなんとか反応しロロミィの両拳を掴み捕縛する。


「ぐっ……!!」


「あなた近くで見たら中々顔が良いわねんタイプよぉ。そんなあなたにご褒美あげちゃう♡」


 ロロミィが舌舐めずりをすると瞬く間にロロミィの唇が肥大化し達樹の顔面へと迫る。


「魅惑のギャルリンキッチュ!!」


 (で、でかっ!!避けきれっ!!)


 ドガァァ!!


「べぼらっ!!?!?」


 達樹へと唇が触れかけた間一髪のタイミングで卓夫の飛び蹴りがロロミィへ直撃し蹴り飛ばされる。


「感心しませんな。ターゲットを見つけるや否や拙者は眼中にないと言わんばかりのその態度。数少ないであろうファン人達にも気を向けられているとは到底思えません」


「な、ぬわんですってぇ……!!」


 卓夫の挑発にまんまと乗ったロロミィ。怒りを露わにし卓夫へ殺意の目を向ける。


「奴らの真意はわかりませんがあいつの狙いは達樹殿のようです。あいつは拙者が引き受けますので先へ行ってください」


「やれんのか」


「さっきの戦いで拙者の実力は粗方わかったでしょう。それにまだまだ実力は出しきれてません。だからこんな変態相手に遅れを取ったりはしません」


 卓夫の目に恐怖は映っていなかった。顕然と相対する敵に対して立ち向かおうとする強い意思が達樹へと伝わる。


「……わかった。頼むぜ卓夫」


 卓夫にこの場を任せ立ち去る達樹。待ちなさいと追おうとするロロミィの前に卓夫が立ちはだかる。


「あなた……そんなにあーしにかまって欲しいのねん。良いわぁんおっさんギャルの魅力でイチコロにしたげる!」


「そう簡単には行きませんぞ。幾度の修羅を味わった拙者の心を射止めるのは」


 生粋のドルオタ対令和のギャルおっさんによる戦いの火蓋がここに切って落とされる。

 一方その頃、魔虞無と抗戦し始めている隼人であったが案の定苦戦を強いられていた。

 

―――― to be continued ――――


あとがき

恋がやった光の文字はウルトラサイン的なあれです。タイラントが来てもうてますってゾフィーが他トラマンに知らせる為にやってたあれです。




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