第76話「Believe my change!」


【駆side】

 

 俺は女の子が好きだ。理由は可愛いから。見てて癒されるし声だってお淑やかな声だったり喋り方だったりそれぞれ違いがあってみんな魅力的だなって思う。

 幼少期の頃からその節はあったみたいで色んな女の子と話したり接してみたりしたくて人見知りなりにちっちゃい頃は仲良くしようと必死こいてた気がする。

 その頑張りが実って幼稚園の時少しの間だけだけど両思いになった事があった。短い間だったけど人の温もりに触れてるような気がして、暖かい気持ちになって心が通じ合ってるような気がした。

 他人への心の壁が薄くなっていってる気がした。人と関わる事への恐怖や億劫さがどんどん無くなっていってるような気もしてた。

 でもその子が親の都合で急遽関西まで引っ越す事になっちゃって。その事を知った俺は毎朝現実を受け入れられなくて泣きじゃくり駄々をこねまくった。毎日自分を慰めながら過ごして行ってる内に日常からその子の存在は薄れていった。

 

 少しずつ心の傷も癒えて小学校に入ってからの6年間は人並みの学生生活を送って勉強、遊び、恋愛……色々経験したと思う。

 男女の友達も決して多くはないけれどどの思い出も忘れ難くて充実した6年間だった。

 中学に入って人間関係がほとんどリセットされた。知り合いも数人しかいなくて中学一年目に関しては全員別クラスになった。

 最初は凄く心細かったけど嫌わないように何とか向き合おうとしてて、少しずつクラスの人達とも打ち解けて行ってた気がしてた。


「駆君今日も格好いいね!いかしてるぅー!」


「えへへ……ありがとう」


 色んな人との交流があって楽しい1年間だった。でも少しずつ日を重ねる毎に違和感を感じ始める。

 前の席の女の子が消しゴムを落とした。こっちへ転がってきたから拾って渡してあげたら怪訝な顔をされて奪い取られた。


 (何か嫌われるような事しちゃったかな……)


 それからも違和感は続いた。その子からだけじゃなく同じクラスの女子。はたまた別クラスの女子からも似たような扱いを受け始めた。

 ハッキリと大胆に貶されたり傷つけられたりするわけじゃない。どことなく仲間の輪に入れてもらえてない感覚や明確にあなたと関わる気はありませんと言わんばかりの距離感の取られ方に気苦労が重なる日々が続いて俺は昼休憩時に小学校からの友達である男友達の町井哲也に相談する事にした。


「女子から避けられてる?」


「うん。絶対避けられてる。確実に避けられてる。てかなんなら嫌われてる」


「何か思い当たる節あるか?」


「ない。マジでない」

 

「じゃあイメチェンだな」


「い、イメチェン?」


 言動や態度は簡単には変えられないけど見た目ならすぐにでも変化をつけられるとの事で哲也からヘアセットの仕方なりファッションの事を少しずつ教えてもらって勉強していった。

 少しずつ寝癖がついたままじゃないかとか体臭は匂わないかとか今まで以上に見た目にも気を配るようになった。でもそれでも敵意と蔑みの目は収まらなかった。

 寄り添おうとする手には一切目を向けられる事はなく胸が張り裂けそうな日々が続いた。

 でも町井を始めとした男友達のおかげで苦しいだけの日々ではなかった。


 そして結局距離はろくに縮まる事はなくあっという間に時は過ぎ気付けば3年生になった。

 2学期が始まり本格的に志望校を決めないといけない。いくつかオープンキャンパスや説明会には行ったけどこれといった候補がなく決めあぐねていた。

 そんな中学3年生の2学期。ふとした何気ないグループワークの授業。近くの5,6人が席をくっつけあって議題について相談し合う中で時間を持て余して軽い雑談をしあっていた時。俺の根幹を変える出来事が起こる。

 流行りの男アイドルの話題にの時に軽く話題を振られて俺が謙遜の言葉を投げた時一人のクラスメイトの女子が驚きながらこう言い放った。

 

「えっ!?駆君ってナルシストなんじゃなかったのぉ!?」


「……へ?」


 いきなり何を言い出すのかと思い俺は恐れながらも否定する。

 ナルシストって言うのは自分自身の容姿や行動に陶酔するような人間の事を言うんだろ?なら俺は対極にいる存在だ。余りに的外れじゃないか。


「違うよ。お、俺自分の事かっこいいとか1ミリも思ってないよ……!」


「えぇっ!?そうだったの!?ごめんごめん勘違いしてた笑」


「え!ひっどぉ。まみこが駆君はナルシストだーって言い回ったんじゃーん」


「だってぇかっこいいねって言ったらありがとうって言ってくるんだもん!そんなのナルシストだーって思っちゃうよぉ」


「まぁそう言うこともあるべ!気を取り直してこーや星空!」


 隣の席の男に力強く励ましとして肩を叩かれるがこの時の俺の感情は限りなく無に近かった。

 時が止まったのかと思った。衝撃の余り一切の思考を受け付けない。

 中学の初めの頃確かにそんなやりとりをした記憶が薄らある。それからも茶化されるようにそんな会話は度々あった。

 でも全くと言っていいほど気にも留めておらず軽くあしらう程度のやり取り。

 そんな些細でしょうもないやり取りを拡大解釈されて俺はいじめの対象にされてしまっていたらしい。

 その事実が余りにも自分のしてきた事やりたい事と隔離し過ぎてしまっていて吐きそうになった。

 余りの軽薄さ、呆気なさと残酷さに怒りを通り越してただひたすらに恐怖し虚無の時間を過ごした。それから時は過ぎて放課後。


「か、駆……」


 帰りの道中様子がおかしい挙動をしていた俺に町井が話しかけてくる。


「……俺ナルシストだと思われてたんだって。だから気持ち悪がられてたんだってさ。笑っちゃうよな。そんな事1ミリも思ってなかったのに」

 

「好かれようとしてやってた事も全部裏目に出ちゃってた。俺が思ってた以上に女心っていうのは難しいみたい。俺……なんかもうしんどいよ」


「お、俺明日先生に言うよ!この事!こんなのあんまりすぎるだろ!!」


「いいよ。また印象悪くなるし」


 言葉に詰まる町井。少しの静寂が訪れる。


「俺男子校に行く事にする。女の子は遠くから眺めてるだけでいい。親しくなったっていい事なんか何もないんだ」

 

 この日から俺は女性とは必ず一線を引いて接しようと心の底から決めた。好かれようとする事をやめた。必要最低限生きてい上で必要な関わりだけしていこうと決めたはずだった。

 中には良い人もいるって頭の片隅では理解してる。でもその事実を受け入れられるほどの余裕が俺にはなかった。


 ――――――――――

 それから時は過ぎ2023年。賢武高等学校っていう男子校に通い始めて3年目の春が始まる。

 周りに男しかいないと言うのは思っていたより気が楽で別段ストレスなく学生生活を満喫していた。

 いよいよ3年生にもなり大学への進路のことも視野に入れなければならないなとか思い始めた矢先、俺の人生は一人の女の子によって大きく強引に変えられる事となる。


『駆さーんっ!おっはようございまーす♪」


「はっ!?えっ!?どなた様でいらっしゃいますか!?!?てかどこ!!??」


『あっ!聞こえたっ?やっとお話しできますねっ駆さんっ!』


「だっから誰!!!!????」


 これが彼女との邂逅。何処からともなく聞こえてくる女の子の声の正体は異世界から憎愚退治のためにこの世界にやって来たアイドルだった。

 名前はわからない。でも俺の事は前から知っているらしく力を失っていた期間ずっと俺の中で力が戻るのを待っていたとの事。

 

 この日から俺の私生活はがらっと変わる事になる。色々あって憎愚って化物と戦わなきゃ命を賭けて戦わないといけなくてDelightって憎愚対策組織に所属する事になりそこの一番隊所属となった。

 後はアイドル因子について色々教わった。情報量が多すぎて訳わかんないけど要約すると俺の中に宿ってるこの子は『星の系譜』の正統後継者だからとんでもないポテンシャルを秘めててめちゃんこ強いから世界平和の為にはこの子を宿してる俺も戦わなきゃいけない運命って事らしい。


『心配しないで大丈夫ですよ!駆さんが戦わなくても私がぜーんぶやっつけちゃうんで!』


「いや、流石に女の子一人に任せる訳にはいかないよ」


『えーっ!駆さん優しい〜胸がキュンってしちゃった♪」


「そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、そっか」


 俺たちのあからさまに心が通じ合っていない関係性に先輩達が困惑しつつもそれからは学校と両立して猛特訓の日々が始まった。喧嘩とかもろくにした事はないし格闘技の経験だって無い。体力だってある方でもない俺は挫折しそうになりながらも死に物狂いで喰らいつき続ける生活が続きある日の特訓終わり。

 全身筋肉痛でくたくたになりながらも震える足腰に鞭を入れながら自宅へ向かう。

 途中唐突に実像化を覚えたての俺からショートヘア元気っ子ギャルが飛び出してくる。


「夜風が気持ちいい〜♪この夏になる直前の時期って暑すぎず寒すぎずって感じで良いですよね〜」


「それは概ね同意……って手!!なんで手握ってんの!?」


「そんなの握りたかったからに決まってるじゃ無いですか〜♪」


「俺は握りたく……っ!!」


「……ないですか?」


「……なくはない……けど」


「えへへっーじゃあ文句言わないで素直に繋がれててくださーい♪」


 そのまま彼女と強引に手と手を繋ぎあったまま夜道を歩く。夜中で人気も少ないとは道中と言えど妙にそわそわしてしまう。女の子と手を繋ぐなんて何年振りなんだって話よマジで。


「あっ公園だ〜!懐かしい〜〜!ブランコ一緒に乗りましょー!」


「ちょっ!」


 少女に引っ張られる形で強引に公園へと踏み入れる。二つあるブランコの片方に腰掛けた横で少女は楽しげに夜風を感じながら天真爛漫な笑みを浮かべてブランコを漕ぐ。そんな彼女を見ていたらどうしても聞きたくなった。


「……なんで俺なんかを好いてくれるの?」


「だから何回も言ってるじゃ無いですかぁ。ずっと前から一緒だったんですって」


「でも俺全然覚えてないし……君の名前だって知らないし……性格だってこんなんだし。君みたいな女の子に好かれる要素ないって言うか」


「私細かい事気にしない性格なんです」


「えっ?」


「正直に言うと曖昧です。駆さんと何処でどんな事してたのか、思い出そうとすると頭がごちゃごちゃーってなっちゃって。だからふんわりとしか思い出せません。でも楽しかった思い出は私の中に確かにあって。考えたってわかんないしだったらそれで良いやーって思って!」


 そう言ってブランコを飛び降りてくるりと周り微笑む彼女と目と目が合う。


「私は私の中の好きって気持ちを信じます。曖昧にしか覚えてなくたってこの気持ちは本物だから……もっと仲良くなりたいです。それに名前だって呼んでほしいし、いっぱいデートだってしたいしっ……だから!ちょっとずつでいいから私の気持ちにちゃんと向き合ってくださいね!それに私ちょー諦め悪いですからっ!」


 そう言って彼女は再び手を差し伸べる。ここまで心の底から本音をぶつけてくれた相手の手を拒むなんて出来るだろうか。

 確かこの時の俺は強引に押し切られる形で渋々約束を交わした。彼女の気持ちに本気で向き合おうと、自分自身を本気で変えようなんては思ってなかった。


 ――――――――――

 想武島 中央区域 9:50分

 怒猿に無慈悲に蹴り続けられ血が飛び吐血する中で走馬灯としてこれまでの日々が鮮明にフラッシュバックした。

 辛かった事、悲しかった事、思い出したくもない事。でもそれ以上に湧き上がって来たのは彼女の存在だった。

 

 (君はずっとこんな俺に手を差し伸べ続けてくれた……俺が何度君の想いに目を背け続けてもめげずに、見捨てずに、いつか届くと信じて手を差し伸べ続けてた!健気にずっと俺を信じてくれていたんだ!!)


 バシッ!!


 蹂躙し続ける怒猿の足を力強く掴み取る。


「ぬっ?」


「誰かに好きになってもらいたくてがむしゃらにでも想いを伝え続ける。その気持ちが踏み躙られる辛さはわかっていたはずなのに……!」


「何を訳のわからんことを……お前はここでま俺に殺されるんだよ!!あのバカな女諸共な!!」

 


 怒猿の渾身の力を込めた踵落としが駆へ向けて放たれる。

 


 (知りたい。君の事をもっと。俺なんかを少しでも求めてくれるならその気持ちに応えてあげたい。君が今ここで死んで良いわけがない!!)



 ――――――――――

 刹那の一瞬。内に宿るアイドル因子と交わり対話することのできる心情空間へと意識が飛ぶ。やるべき事は明白だ。

 目の前の彼女とハッキリと目と目を合わせながら告げる。


「弱い俺でごめん。ずっと傷つけ続けてごめん。今までの弱い俺は捨てていく。もう弱音なんて吐かないから。

 これからは俺が君に手を差し伸べてあげられるような強い男になるから……だから改めて教えてほしい。君の名前を」


「……あはっ……わかりました。もう絶対忘れちゃダメなんですからねっ!」



「私の名前は――」



 ――――――――――

「死ねえええぇぇぇ!!!」


 ドゴォォォ!!!


 怒猿の踵落としが振り下ろされ地面に地響きが走る。


「へっへっ……顔面まるごと粉砕しちまったかな?……あら?」


 すぐ真下にいたはずの駆の姿が見当たらない。何が起こったのか理解が追いつかない怒猿だがその直後背後から飛び回し蹴りをくらいその衝撃と共に蹴り飛ばされる。


「ってぇ……!!なんだぁ?……!!」


 怒猿の目先に写っていたのは鬼神の如く敵意を剥き出しにして一人の戦士として佇む星空駆であった。その外観は先程までとは異なり髪の一部を眩い恒星の如く輝く金髪へ変化しておりちょこんと両サイドにはねっ毛を加えその見た目は正にアイドル因子の力を宿した聖なる姿へと進化していた。


「その姿……土壇場でアイドルの名を知ったか。だが所詮スタートラインに立ったに過ぎんぞ。お前は俺に殺されておしまいだ」


「俺は死なない。こんな所で俺の人生も琴音ちゃんの人生も終わらせない。俺の全力を持って、お前を倒す!!」


 ―――― to be continued ――――


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