145.護衛するニワトリスたちと、ダンジョンに入る俺

「オトカー、ダメナコー!」

「えええええ?」


 ピーちゃんにつつかれまくりました。ごめんなさい。そんなに痛くはないけど、ごめんなさい。

 事実は時に相手をひどく傷つけるものなんですね。

 でも「ダメナコ」って何? けっこうひどくない?

 お詫びとしてピーちゃんには虹色の毒キノコを進呈した。もちろんクロちゃんとシロちゃんにも。羅羅にも「食べる?」と聞いたのだけどそっぽを向かれてしまった。

 けっこうこれ、おいしいんだけどなぁ。


「オトカ、ワイルドボアの肉をくれ」

「はーい」


 アイテムボックスを物色し、ワイルドボアの肉の塊をシュワイさんに渡した。俺は俺でブラックディアーの肉を出して従魔たちに切り分けてあげた。


「……ホント、贅沢だよなぁ」


 セマカさんが焼いたワイルドボアの肉にかぶりつきながら呟いた。

 ここはダンジョンの近くである。森を少し切り開いたところに洞穴が空いているのが見える、そんな場所だ。ダンジョンだというのに誰の姿もないから、なんでだろうと首を傾げた。


「オトカ、どうかしたのか?」


「ここってダンジョンなんですよね? 全然人がいないからなんでかなーって?」

「ああ、このダンジョンはあまり人気にんきがないからな。だからそこオトカを連れてくるのにいいと思ったんだ」


 シュワイさんが笑顔で教えてくれた。ごはんを食べ終えたクロちゃんがくっついてきたので嘴をふきふきした。それから浄化魔法をかける。


「……確かに、人気がない方が狩りとかにはいいかもしれませんね」

「従魔を連れているから、場所は少し考えた方がいいと思ったんだが……余計だったか?」

「いえ、ありがとうございます!」


 シュワイさんは冒険者として大先輩なんだし異論なんかあるわけがない。ただまぁ個人的に、ダンジョンの周りにお店とか屋台とかあったらいいななんて思っていただけだ。ラノベ脳で悪かったな! ダンジョンの側に街があるとか考えるだろ?


「うーんと、ってことは人気があるダンジョンて周りになんかあったりします?」


 諦めきれずに聞いてみた。クロちゃんは俺の胸にすりすりしている。ああもうかわいいなぁ! 抱きしめてなでなでした。


「人気があるダンジョンの周りか。大体歩きで二、三時間以内のところに村があったりするな」

「へー」

「行ってみたいというなら連れていくぞ」

「そのうちお願いします」


 とりあえず、まずはここのダンジョンだ。

 シュワイさんが連れてきてくれたキールダンジョンは二層だけだが一層一層がとても広い草原のようになっているらしい。とにかく広いので普通は野営用の道具を持ってこないといけないのだとか。それもあってそれほど人気はないのだという。


「あとは、広さのわりにあまり魔物がいない」


 俺は例によって羅羅ルオルオの上に乗せられた。移動に時間がかかってしまうからだそうだ。

 わかってるけど、自分の足でいいかげん進みたいです。


「今回は見学をしにきたと思え。今度じっくり来ればいい」


 とシュワイさんに言われてしまえば逆らえなかった。お世話になりっぱなしだしな、俺。

 俺とピーちゃんは羅羅の上だけど、シロちゃんとクロちゃんは降りて羅羅の前後にいる。

 洞窟みたいな入口を抜けたら草原って、感覚がちょっとバグりそうだなと思った。


「不思議ですね……」

「ダンジョンは不思議の塊よねぇ」


 リフさんが同意してくれた。


「ところで、依頼はなんなのぉ?」


 リフさんに聞かれて首を傾げた。


「いや、今回は依頼抜きで来た。オトカにダンジョンを見せたくてな。ついでに何か見つけたらギルドに持っていくぐらいだ」

「……そ。オカイイってば変わったわね」


 そういえばもうシュワイさんはリフさんたちと普通に話している。前は口を利くのも嫌そうだったけど、彼らも変わったことでシュワイさんの対応も変化しているのだろう。当のシュワイさんは落ち着いたセマカさんとリフさんの様子に不思議そうな顔をしているけど。

 なんか、悩めよ若者とかえらそうに言いたくなってくる。

 いかんいかん、俺は十歳の男子だ! ところどころで43歳のおっさんが出てくるのはどうかと思うんだ。

 先頭はシュワイさんとシロちゃん、羅羅を真ん中にしてセマカさん、リフさんが並び、殿にクロちゃんで草原の中を進んでいく。俺とピーちゃんはさっき言った通り羅羅の上だ。あまり景色に変化はないけど、そこここに木が生えていたりして、それだけ見るとただの草原にしか見えない。

 やっぱり不思議だなと思った。

 でも俺の前を進むシロちゃんの尾の動きがいつもと違うことから、ここはただの草原ではないのだということはわかった。

 俺も仕事しないとな。

 羅羅の上に乗ったまま感覚を研ぎ澄ませる。ダンジョンで使えるかどうかわからなかったけど、全然問題はなかったみたいだ。


「うわ……」


 前方10mぐらい先に、さっそく大物が草に隠れているのがわかって思わず声が出てしまった。


「……いるな」

「首をはねろ」

「了解」


 セマカさんが一歩前に出て、魔法を使ったみたいだった。

 シャアアアアアッッ!!

 クァアアアアーーーーッッ!!

 途端にシロちゃんが威嚇する。鎌首をもたげたそれが、ビクン、としたと思ったらバーンッ! そのまま倒れた。そこにまたセマカさんが魔法を使う。


「シロちゃん、ありがとよ」

「ガンバレー」


 セマカさんがシロちゃんに礼を言う。シロちゃんは威嚇を使ったんだな。


「きっつー……」


 セマカさんは苦笑した。

 倒れた獲物はでっかい蛇だった。黒かったからブラックサーペントかな?

 シロちゃんがトトトッと側に向かい、収納してしまった。満足そうな顔をしている。

「シロちゃん、後で獲物は山分けだからね」

 と注意したら、「エー」と不満そうに言われてしまったのだった。


次の更新は、25日(月)です。よろしくー

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