137.かわいく自己主張するニワトリスたちと、気になったことを尋ねる俺

 今日はこれから冒険者ギルドへ行こうかと思っていたのだけど、例のおっさんがホテルを出ていく準備をしているはずなので午前中はここでまったり過ごすことにした。

 かちあったらやだし。

 支配人はかっちりと腰を斜め45°まで曲げてお辞儀をし、戻っていった。イハウスさんは居間の隅に控え、ティーカップからお茶がなくなると淹れてくれるし、そのまま手を付けずに冷めてしまった頃も温かいものと替えてくれたりする。

 こんな贅沢に慣れたらいけないと改めて思った。

 さすが一泊大銀貨4枚というだけのことはある。なんか王様にでもなった気分だ。

 とりあえず、シュワイさんにさっき覚えた違和感について聞いてみることにした。


「シュワイさん、僕この国の制度とかってよく知らないんですけど……さっきの話だと、領主は貴族ではないんですか? あと、領主と貴族の違いってなんでしょう?」

「ああ、そうか……普通は知らないものなのだな」


 シュワイさんは俺の問いに、今気づいたような顔をした。

 俺的に領主=貴族だったんだけど、どうもさっきの話だと違うみたいだ。キタキタ町にいた時からちょっと違和感はあったんだけどさ。


「では説明するが、わからなければその都度聞いてくれ」

「はい」


 ということでシュワイ先生の講義が始まった。

 曰く、領主というのは国王が任命するもので、貴族というのは国に属しているだけで元々土地や財産を持っている者たちのことをいうらしい。


「ん? そうなると領主と貴族の権限は違うってことですか?」

「よくわかったな。そういうことだ」


 領主も貴族も毎年国に一定の税金は納めないといけないが、まずその税率が違うらしい。

 国より任命されて領主になると、その土地を治め税金を集めた際、その半分は国に納める義務がある。残りの半分で領内の整備や雇っている者に給料を払うという形だ(領主含む)。そしてもし領内で対処できないことがあった場合は国に助けを求めたりすることもできる。基本的によほどのことがない限りは領主が替わることはなく、平和な現在は任命された領主が世襲制でそのまま領地を納めているそうだ。

 貴族は自分たちの土地や財産は国に属しているが、税率は自由に設定ができ、国にはその二割を納めればいいらしい。

 貴族の土地なので基本は治外法権だが、他国から攻めてこられたり、魔物が溢れたりというどうしてもそこで対処できない問題が発生した時は国が軍を動かして助けるということもあるようだ。だが基本、貴族の土地では貴族が全て対処するらしい。

 貴族というのは王族の次に権限があるので、もし理不尽なことを言われると厄介な相手ではあるという。


「そういえば……セマカさんやリフさんて貴族の出なんでしたっけ?」

「ああ、一応貴族の血は引いているな。跡取りではないからそれほどの権限はないが」

「そうなんですか」

「跡取りが家を継ぎ、その子どもが生まれれば貴族籍からは抜けるだろう」

「……なんかたいへんそうですね」

「そうでもないぞ」


 シュワイさんは楽しそうに笑んだ。

 うん、すんごく整った顔の青年が笑むだけでこの破壊力はなんだろうか。俺が女性なら一発で恋に落ちるに違いない。だって俺から見てもめちゃくちゃ顔がいいんだもん。(もんってなんだ)


「……そうでもないって?」

「私も貴族の末席にいるからな。今はまだ」

「あー……」


 そりゃそうだよな。セマカさんとリフさんが貴族だったらシュワイさんもそういうことなんだろう。


「とはいえ、一番上の兄が跡を継ぐのは時間の問題だ。オトカはいつも通りで頼む」

「……まぁ、僕には違いとかわからないんで……」

 この国には身分制度があって、王族と貴族には庶民は逆らえないってことだけわかっていればいいみたいだ。領主にはそこまでの権限はないらしい。じゃあなんであのおっさんはあんなにえらそうにしてたんだよ? あ、なんか腹が立ってきた。

 俺の隣でもふっとしているクロちゃんが俺にすりすりする。もういいかなと俺はクロちゃんを膝に乗せて抱きしめた。


「オトカー」


 クロちゃんがとても嬉しそうに声を上げる。ううう、この癒しがたまらん。腹が立ってもその怒りが溶けていくようだ。


「あ、そうだ。もしさっきのおっさんが貴族だったらどう対応するのが正解なんですか?」


 例がないとやっぱわかりづらい。

 イハウスさんはそっと顔を背けた。俺なんかおかしなこと言ったかな? まぁいいや。


「先ほどの客が貴族であったとしても、ここが貴族の治める土地でなければさほど気にする必要はない。ただ、貴族が治めている土地ならばその貴族が法になる」

「ええええ……」


 この国の貴族って昔でいう地方豪族みたいな身分なのかもしれない。そういう人たちって一部おかしな人はいるかもしれないけど基本は悠然としているものだよな。さっきのおっさんみたいに理不尽なことは言わなそう。


「あとは、従事する職業にもよるかもしれん。もしその貴族の土地で商売をしている者であれば貴族におもねる必要はあるかもしれない。オトカは私と一緒にいるのだから何も心配することはないぞ」

「まぁ、そうですね……」


 Sランク冒険者って名指しで依頼をされたとしても拒否ることができるんだもんな。


「シュワイさんて、貴族から依頼があっても断ることできるんですか?」

「もちろんだ」


 それなら確かに安心だ。


「どちらにせよ、オトカに命令できる者がいるとは思えんがな」

「?」

「オトカにはとても強い味方がいるだろう」

「シロチャン、ツヨイー!」

「オトカー」


 羅羅の上に乗ってもっふりしているシロちゃんと、俺がだっこしているクロちゃんが自己主張をする。確かにニワトリスは最強かも。

 まずつつかれたら動けなくなるし。


「我も主を守るぞ」

「ピーチャン、ガンバルー!」

「みんな、ありがと」


 そうだよな。うちの従魔たちはみんな最強だった。

 嬉しいけど、ちょっと照れてしまった俺だった。


次の更新は、28日(月)です。よろしくー

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