135.いろいろ敏感なニワトリスたちと、わけがわからない俺

 高級ホテルに泊まって三日目の朝である。

 今のところの予定では明後日の朝にはこのホテルを引き払うことになっている。モールもまとめて駆除できたから、よっぽどのことがなければ明後日にはキタニシ町を離れてもいいかなと思う。もちろんシュワイさんに相談してからだけど。

 キタニシ町の次は南下してもいいかも。それとも更に西に向かう?

 俺は首を傾げた。


「オトカ、どうかしたのか?」


 朝食を終えてお茶を飲みながら首を傾げた俺に、シュワイさんが声をかけた。


「あ、すみません。このホテル、四泊の予定でしたよね。明後日以降はどうします?」

「そうだな。ギルドで依頼を見てから考えようか」

「そうしますかー」


 面白い依頼があったら、それをこなしてからこの町を出ればいいんだもんな。ふと視線を感じてそちらを見ればイハウスさんがじっと俺たちを見ていた。表情は動いてないんだけど、何か言いたげに見えた。なんだろう?


「……ん?」


 そういえば外のざわめきみたいなのが近づいてきているような気がする?


「確認して参ります」

「気を付けてな」


 イハウスさんがサッと居間の扉を開け、部屋を出て行った。


「何かあったんですかね?」

「……あったかもしれないな」


 シュワイさんはため息を吐くとソファから立ち上がった。


「羅羅、オトカを背に乗せろ」

「うむ」

「えっ?」


 いつのまにかクロちゃんとシロちゃんが近づいてきていて、俺にぴとっとくっついた。なんだこのかわいいの。


「ノレー」

「オトカー」


 そのままぐいぐいと羅羅の方に押される。


「わかったよ、わかったから」


 シュワイさんの指示に従わなきゃいけないことが起きたってこと?

 居間の向こうはこの離れの玄関だ。玄関の向こうから、「……お客様のお部屋でございます……!」とかイハウスさんの厳しい声が聞こえてきた。俺は羅羅の上に乗る。シロちゃんクロちゃんもいつものように羅羅の上に乗り、ピーちゃんはシュワイさんの肩に停まった。

「出るぞ」

「はい」

 シュワイさんが先に部屋を出ると、すぐ目の前にイハウスさんがいてその向こうにいる人を止めるように両手を広げていた。


「なりません」

「イハウス、ご苦労だった。何用か?」


 シュワイさんの向こうにいるのがイハウスさんと他の人だっていうのはわかるけど、シュワイさんの背が高いからよく見えない。


「ジャイアントモールの肉を持っているのはその方どもだろう。残らず献上せよとこちらのお方がおっしゃっている。すみやかに出すがいい」


 イハウスさんの向こうにいた人の声だった。こちらのお方ってことは、なんか偉い人でもいんのかな。高級ホテルだからそういう人が泊まっててもおかしくはないけど、他の宿泊客に対して随分と居丈高だなぁ。これ言ってんのって、その偉い人に仕えてる奴だろ?

 ちょっとムッとした。

 それに、ジャイアントモールの肉なんて昨日全部こちらのホテルに提供したけど?


「……その肉なら昨日全て出した。どうしても食べたいなら自分たちで狩ってくればいい」


 シュワイさんがさらりと答える。


「ジャイアントモールの肉があれっぽっちだというのか!?」


 あれっぽっちって……確か俺たちの分を抜かしても2kgぐらいは余裕が出たんじゃないのかな? つーか、俺的には料理長さんとか従業員の方々で全部食べてもらってもよかったんだけどなー。だって提供した分だし。


「こちらは肉は提供したが、どのぐらい出すかはホテルの裁量だろう。我々に文句を言われても困る」


 シュワイさんが冷静に伝える。


「なんだと!? こちらのお方をどなたと心得る!」


 その流れは先の副将軍、水戸光〇公とかかな? 水戸〇門好きだったなー。(現実逃避)


「他のお客様に迷惑をかけるのはご遠慮ください」


 威張ってる人の向こうから、別の人の声がした。


「何を言う! 貴重な肉は全て我が主人に捧げるべきであろう!」


 もう何言ってるんだかわからないよー。


「昨夜のジャイアントモールの肉はお客様のご厚意で提供していただいたものです。その大事なお客様に迷惑をおかけするのであれば、出て行っていただきます」

「貴様ぁっ……!」


 俺からは見えなかったけど、きっと毅然と対応していたのはここの支配人なんじゃないかなと思った。


「よせ」

「あっ……いっ……!?」


 シュワイさんが流れるように動き、激高した人を取り押さえた。それでやっと誰がどこにいるのかが見えた。俺たちを守るように立っているイハウスさんの向こうで、一昨日見た恰幅のいいおっさんとその兵士だか従者が二人いる。そのうちの一人をシュワイさんが抑え、その向こうにホテルの支配人であるキスイダネカさんがいた。

 ここは離れと本館をつなぐ通路で、狭くはないはずなんだがこれだけ人がいると多いなという印象だった。


「……支配人よ、このリバクツウゴを追い出すと……そう申したか?」


 それまで黙っていた恰幅のいいおっさんが低い声を発した。

 それを聞いて、え? と思った。

 今日もサルを紐に繋いで連れている。

 このいかにも悪役然としたおっさんが、俺が住んでた村を治めてる領主ってこと?

 思わず叫びそうになった口を、俺はクロちゃんを抱きしめることで閉じることができたのだった。


次の更新は、21日(月)です。よろしくー

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