71.ごはんをいっぱい食べるニワトリスたちと、誘惑に負ける俺
「え? 帰った?」
セマカさんとリフさんは滞在している宿屋へマウさん(マウテアー)の様子を見に戻った。けれど宿屋に戻ったらマウさんの置手紙があったという。
それによると、シュワイさんは全く脈なしだから王都へ帰るというようなことが書かれていたそうだ。
まぁうん、脈はないだろうな。
マウさんはシュワイさんを口説くつもりでここまで来たみたいだった。目的がはっきりしていてかえって小気味いい。じゃあセマカさんとリフさんはどうなんだろう。
疑問が顔に出ていたのか、セマカさんに苦笑されてしまった。
「言ったと思うが、私は実績を求めて来た。北の山の魔物を狩れればギルドでのランクも上がるはずだ」
「私も実績がほしいかなぁって。もちろんオカイイも諦めてないわぁ」
セマカさんとリフさんは正直だった。リフさんの言葉に、シュワイさんがとても嫌そうな顔をした。それにリフさんがふふっと笑う。
口調はともかくリフさんは優秀だと俺は思う。それに美人だ。顔でいったらマウさんよりもリフさんの方が俺の好みだったりする。セクハラになりそうだから絶対に言わないけどな。
つんつんとクロちゃんとシロちゃんにつつかれてしまった。
口にすら出してないじゃないか!
「クロちゃん、シロちゃんなんでつつくんだよー、痛いよー」
おりゃっとクロちゃんを抱きしめる。シロちゃんも一緒に抱きこむことができなかったので、シロちゃんにはつつかれるがままだ。麻痺しなくてもつつかれれば痛いんだぞ。
「オトカー」
クロちゃんは俺に抱きしめられて嬉しそうだ。かわいい。でも痛い。
さすがにセマカさんとリフさんが慄いていた。ニワトリスにつつかれたら普通はただじゃすまないもんな。
「シロちゃん、もうつつかないでくれよー」
「ゴハンー」
「あ、そうだ。すみません、シュワイさん。先にうちの従魔たちに肉を出していただいてもいいですか?」
「ああ」
シロちゃんに肉を出してもらい、その中からシュワイさんが選んで切り分けてくれる。俺はクロちゃんをだっこしたまま庭へ向かった。
「オトカ君は気が付くといつもクロちゃんをだっこしてるね~」
仕事から帰ってきたチャムさんがにこにこしながら言う。
「ええ、かわいいんで」
さらりと返した。
実際だっこするとけっこう重いんだけど、短距離ならなんてこともない。ようは腰で持ち上げたりしなければいいだけだ。
庭に肉を置いてもらい、
「足りなかったら声かけてくれよ」
「あいわかった」
肉を噛みちぎり、羅羅が返事をしてくれた。うん、獣だなぁ。
家の中に戻り、シュワイさんが調理してくれた魔物の肉をみんなで食べた。
今日の肉はホワイトジャイアントボアだった。ジャイアントボアの白版? って思ってしまう。実際毛は白っぽくて、ジャイアントボアより一回り大きいのだそうだ。
「これはめったに獲れない」
とシュワイさんが言っていた。北の山寄りに生息する魔物なのだそうだ。
「おいしい……」
ステーキにしてもらったが、ほどよく霜降りでとてもおいしかった。
「北の山の魔物はもっとうまいぞ」
そんなことを言われたらよだれが止まらなくなるので止めてほしい。
「ああ……オトカ君がうちに滞在してくれるおかげで毎日おいしい肉が食べられる……」
チャムさんはもう目がイッちゃってるかんじだった。まぁうん、おいしいのはいいことだ。
「こんなにうまいメシを毎晩食ってるのか?」
「すっごい贅沢ねぇ」
二人の所作は上品だったけど、すごい勢いでステーキを平らげた。うんうん、すっごくうまかったもんな。
「主よ!」
「「オトカー!」」
庭から呼ばれたので、ごはんは途中だったけど庭へ向かう。
「どうしたの?」
「この肉はとてもうまい。もっとだ」
「オイシーイ!」
「オトカー!」
「オヤサイー」
はいはい、おかわりですね。
シュワイさんがまた用意してくれたのでそれを持って庭へ。従魔たちはとても嬉しそうに声を上げた。
「もう今夜はこれでおしまいだから、大事に食べてね」
そう言って家の中に戻ったら、何故かセマカさんとリフさんが自分の頭を撫でていた。
「? どうかしたんですか?」
チャムさんが笑っている。
「いやぁ、この二人がね~」
「チャム。肉を取り上げられたいか?」
「ごめん、言えない~」
「はぁ……」
まぁ俺には関係なさそうだからいいか。
いっぱいおいしい肉を食べられて幸せである。
食べ終えた従魔たちに浄化魔法をかけ、庭にも浄化魔法をかける。これで原状復帰はできたはずだ。
従魔たちはみな毛づくろいをしてから一緒に家に入った。そして俺の席の周りを囲むようにしてくつろぐ。
「結局みんなで北の山へ行くことになったのですか」
チャムさんに聞かれて頷く。
「でも僕、防寒具がないんですよね」
「私のをやろう」
「シュワイさんのじゃ大きすぎるんじゃないですかねー」
シュワイさん、身体は細身に見えるけど背はかなり高いしな。
「ハーフコートがある」
「あ、はい」
確かにシュワイさんのハーフコートならそれなりに長さもあるだろう。一応俺、十歳の身長としては標準なんだけどさ。
そんなことを話しながら、北の山に向かう準備を始めたのだった。
次の更新は3/7(木)です。よろしくー
セマカたちが何を言ったって? 前話と似たようなことですよーい
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