61.獲物と聞いて目を輝かせるニワトリスとげんなりする俺

 シュワイさんはチャムさんの家に泊まり続けている。

 家を見に行かなくていいのかと聞いたら、腐りそうなものはないから大丈夫だと言っていた。食材などは時間経過が止まるマジックバッグに入れているらしい。(時間経過のあるマジックバッグというのもあるそうだ)

 朝飯をシュワイさんに作ってもらい、チャムさんを送り出して今朝も俺はみんなと冒険者ギルドへ向かった。モール駆除の依頼があったら積極的に受けるつもりなので。


「よっ、オカイイ」

「おはようございます、オカイイ」

「おはよぉ~、オカイイ」


 ギルドへ行ったら、まだそんなに遅くはない時間だというのに魔法師の三人がいた。背の高いテーブルのところで朝早くから待っていたのか、青年はあくびをしている。


「……指名依頼は受けないと言っただろう」


 シュワイさんがため息をついた。


「どうしても北の山の魔物を捕まえたいんだよ。お前、北の山に入ったことあるんだろ?」


 青年に言われて、「ないこともないが」とシュワイさんが答える。

 それはないのかあるのかどっちなんだろう。言葉って難しいな。おそらくあるだろうけど。

 シュワイさんはため息をついた。


「……今ランクはいくつだ」

「Aだ」

「Bです」

「Aよぉ」


 それなりに彼らのレベルは高いみたいだ。Aなんてそう簡単になれるものではないと聞いている。


「モール駆除の依頼でしたら昨日から1件増えてます。町の西側の門の外の畑のところですね」

「じゃあそれ、受けたいです」


 俺はマイペースにモール駆除の依頼を請け負った。モールのおかげで作物が全滅なんてことは避けたいしな。


「……今日は無理だ」

「なんでだ」


 シュワイさんが彼らに断る。でも”今日”ってことは”明日”なら受けるのか?


「私はオトカと共に依頼を受けるつもりだからだ」

「ええっ? その、従魔に乗ってる子よね? Eランクじゃなかった?」


 人のランクを勝手にバラさないでほしい。そりゃあEランクなのは間違いないけどさ。


「私がオトカを守るから問題ない」


 それを聞いてクロちゃんがシュワイさんをつつこうとしたが、シュワイさんはスッと避けた。うんまぁ、基本的には避けてほしい。クロちゃんは何度もシュワイさんをつつこうとしては避けられている。Sランク、やっぱハンパないなー。

 俺はクロちゃんをぎゅっとして止めた。


「クロちゃん、だめだよつついちゃ」

「オトカー」


 ああもうかわいいなぁ。


「……オカイイ、ちょっと確認させてもらってもいい?」

「なにか?」

「貴方いつからショタコンになったのぉ? 全然彼女とか作らないと思ったら、もしかして最初から?」


 頭の悪そうな話し方をしている女性が、かなり頭の悪そうなことを言っている。頭が痛くなってきたのを感じた。


「……ショタコンではない」


 そうですよね。シュワイさんはもふもふ好きなだけですよね。頼むからそう答えてくれるかな?


「オトカ自身のランクは低いかもしれないが、従魔たちへの統率力は優れている。北の山は強い魔物が多いが、オトカと従魔たちがいればいい戦力になるはずだ」

「それならいいのだけど」


 女性たちはそう言って頷いた。

 つーかなんで勝手に俺も参加することになってるんだ?


「シュワイさん……僕、北の山なんて無理ですよ?」

「……北の山には珍しい魔物がいる。食べるとかなりおいしい魔物もいるのだが……」

「捕えよう」

「カルー」

「オトカー」

「マモルー」


 シュワイさんの伝え方が非常にずるい件について。おかげでうちの従魔たちが一瞬でやる気になってしまった。まだEランクなのにそんな怖いところへ連れて行こうとするとか勘弁してほしい。


「オトカ」


 シュワイさんに改めて声をかけられてはーっとため息をついた。


「……無理ですよ。北の山って雪を被ってるじゃないですか。僕、防寒具とか持っていませんし」

「それぐらいは貸そう。それに何日か待てば靴と皮鎧ができるはずだ。北の山へ行くのは問題ない」

「問題ありまくりですよ! 僕、Eランクなんですってば!」


 Eランクと自分で言うのがちょっと恥ずかしい。でもSランクと共に依頼を受けるEランクとかいていいはずがない。そんなことができたら高ランクの人と行動しまくってガンガンランク上げができるはずだ。

 って、もしかして?

 俺は期待に満ちた目でシュワイさんを見ている三人を眺めた。


「ではギルド長にかけあおう」

「そんな~」


 これはどうあっても俺を連れていくつもりだ。うちの従魔たちもふんふん頷いている。ピーちゃんも何故かやる気だ。


「……ギルド長に認められたとしても、こちらのお三方が本当にAとかBランクの実力がなかったら嫌ですよ。一緒に行って怖がって逃げられでもしたら困りますし」

「なんだと?」

「それなりにやってきたつもりだけど?」

「魔法、発動していーい?」


 睨まれて怖いと思ったけど、大事なことだと思った。だって俺が従魔のおかげでSランクと同行できるとするならば、この人たちもそういう人たちの後についていってランクを上げていないとも限らないからだった。(あくまで俺の想像だ)


「ふむ、確かにオトカの言うことも一理ある。どうだろう。これからオトカはモールの駆除へ向かうが、手伝ってみないか?」

「えええ」


 勘弁してほしいと思った。


「モール駆除か。やったことねえな」

「私もしたことはありませんが、面白そうですね?」

「モールかぁ。かわいいのかしら?」


 そして何故この三人もやる気なのかな?

 シュワイさんがとっととギルド長の許可を取ってきてしまい、俺は何故かシュワイさんだけでなく魔法師の三人も連れて畑へ向かうことになってしまったのだった。

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