酒
羽弦トリス
第1話最近の飲み会の掛け声
名古屋市のある会社の飲み会の物語。
有友大輔(44)は、ビールをこよなく愛する中年の管理職。
同期の山崎誠(44)に朝、飲み屋に誘った。山崎は後輩に声を掛けてみると言った。
「君、今夜、空いてる?」
「何ですか、山崎先輩」
「いや、課長と飲みに行かないかい?」
「それって、強制ですか」
「べ、別に強制的じゃないよ」
「じゃ、僕は遠慮します」
『今の奴らは、すぐにパワハラとか言うしな』
山崎は女の子に声を掛けた。
「柴川さん(23)、今夜、空いてる?」
「今夜は空いてますが、何か」
「いや、課長と飲みに行こうと思ってね。もちろん、奢りだよ」
「やった〜。ななみちゃん(25)にも声かけておきます」
「じゃ、定時にエントランスホールで」
「は〜い」
山崎はもう1人若い男の子に声を掛けた。
「兼古君(27)。今夜、飲み会に行ける?課長の奢りだよ」
「えっ、行きます」
「じゃ、定時にエントランスホールで」
「了解しました」
「山崎君、首尾はどうだい?」
「課長さん、ぬかりはございやせん」
キーンコーンカーンコーン
17時30分。定時。
エントランスホールに5人が集まり、居酒屋に向かった。
12月。温かい食べ物をツマミにしたい。
20分ほど歩いてたどり着いた居酒屋は、おでんの「大番」。
有友、山崎は生ビール、柴川、小沢はコーン茶割り、兼古はハイボールで乾杯した。
今の御時世、取り敢えず生ではないのだ。
この20年で、飲み会のあり方も変わってきた。
断った若い子のように、会社の飲み会は煩わしいと考える者も多い。
有友、山崎世代は先輩から飲みに誘われたら諸手を上げて喜んだものだが、ノミュニケーションは大昔の遺物だ。
だが、今でも少なからず奢りの酒なら喜ぶ若い子もいる。
酒を飲みながら、会社の愚痴やウワサ話などは労働者のあるべき姿。
だが、有友は飲み会であまり会社の話しをするのは嫌いだ。
日頃の疲れを癒やす為に酒を飲んでいるのに、飲み会でも仕事の話しになると閉口してしまう。
40代になると、炭酸がキツくなる。かと、言って一軒目で濃い酒を飲むわけにいかず、山崎と2人で赤ワインをフルボトル注文した。
赤ワインフルボトル、1本860円の高級ワインだ。
「大将、ここのワイン、酷いよね。少し飲んだら足腰やられちゃうよね」
と、有友が言うと、
「うちの、高級ワインは効きますよ。でも、有友さんこの前3本飲んでましたよ」
「えっ、3本?」
「はい」
「課長、いつも、おでんでワイン飲んでるんスカ?」
「兼古、何が言いたい?」
「いや、課長はホッピーのイメージが」
「たわけ!赤ワインが似合わないような事を言われるとこっちも言いたいことがある」
「何スカ?」
「おでんにウイスキーってのは」
「美味いっすよ」
2時間ほど滞在して、6300円。安い。このグループは次なる店に向かった。
若い女の子たちは、何やら笑いながら喋っていた。
たどり着いたのは、モツ鍋の「鍋秀」。
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