第27話 夢咲結姫side I

♦︎♦︎♦︎


「あの……?」


「何でしょうか?」


 街中を歩いていると声をかけられた。


 こんなこと滅多にないかもしれないけど私の日常ではよくあること。


「いや、お姉さん可愛いなって思ってつい声かけちゃって」


「そうですか」


「……あ、あの!よければ連絡先交換しませんか?」


「……?なぜ私が見ず知らずのあなたと連絡先を交換しなければいけないのですか?」


「え…あ、その…」


 周りから見たら何もそこまでしなくても…という意見が大半だと思う。


 客観的に見たら…いや、客観的に見なくても私自身もこの返事は冷たいと思う。


 でもそうせざるを得ないの。


 そうしないと男を誑かしてるって学校で噂されていじめられちゃうから…


 つまりは自分の身を守るために他人に冷たくあたっている。


 でもそこまでやっていてもその関係が崩れてしまうことはある。


 今はまだ大丈夫だけど、もしその日が来るとしたらそれは一瞬のことだと思う。


 つくづく思う。


 人間って不格好で不完全な生き物だな、と。


 人間に与えられた発達した脳、それが人間を人間たらしめるものだと思われている。


 でもその人間たらしめるものが人という存在を堕としているように思える。


 だって実際私がそうだから。


 生きづらい世の中を黒い部分を必死に隠して精一杯生きている。


 聞く人からしたらそれは美談のように聞こえるのかもしれない。


 でもそれは決してそんなものではなくて、ただの私の自己中心的なわがまま。


 そんなわがままを全く知らない赤の他人にぶつけて…私って本当に子供だな。


 そんな思考がいつも頭をぐるぐると回る。


 あの時のような輝かしい気持ちも今は心には残っていない。


 あるいは記憶にも残っていないのかもしれない。


 あれはただの私の人生においての記録の一つに過ぎないのだから。


「ごめんなさい、私用事があるので失礼しますね」


 もちろん用事などというのは嘘だ。


 私の黒い部分を覆い隠すための嘘にすぎない。


 でも、もしも私の黒い部分を全て真っ白に変えてくれるような、私の人生を明るく前に向かせてくれる人がいるのならば…それはたった1人しかいないと、そう思っている。


「運命の人……私は逃しちゃったのかなぁ」


 少し湿った空気の中独り言つ。


 学校に行くのも、学校にいるのも、家に帰ってくるのも全て憂鬱だ。


 私の人生、どこに彩りが待っているのだろうか。


 あるいはもう過ぎてしまったのだろうか。


 どうなの…教えてよのあくん……。


♢♢♢


「おはようゆーひちゃん?」


「おはようございます、朱美さん」


「ねぇ、私話したいことあるんだけどさ、聞いてくれる?」


「もちろんです」


 次の日学校に行くといつもよくしてもらっている朱美さんに声をかけられた。


 それに私はいつも通りの満面の作り笑顔で応答した。


 でもそれに対して彼女の目に光は宿っていなかった。


 どうしよう…私何かやらかしちゃったのかな……、まずいことやってしまったのかな…………。


 そんな思考がぐるぐるぐるぐると頭の中を駆け巡る。


 だめだ、わからない……。


「昨日さ、高校生くらいの男の子に声かけられなかった?」


「かけられました…けど」


「その人さ、私の彼氏なの」


「……え?」


 彼氏?朱美さんの…‥彼氏?


 だって昨日はそんなそぶり一瞬も見せなかった。


 だって私のこと可愛いって言ってたし……。


 どうして、どうしてこうなったの。


「それでさぁ、私その場面たまたま目撃しちゃってさ」


 こわい、怖い怖い怖い。


 その後に続く言葉が怖い、今の関係が崩れるのが怖い。


「彼ってそんなことする人じゃないのさ、だからどうせあんたが誑かしたんだろうなぁって」


「いや、そんなことは…!」


「だってそうとしか考えられないじゃん、ねぇ?何でそんなことしたの?」


「だからそんなんじゃ…」


「彼のことだからきっと彼女がいることも言ってたと思うんだよね、なのにどうしてそんなことするの?」


 だめだ、今の朱美さんじゃ聞く耳も持たない…。


 どうすれば、どうすれば…!!


「だって、知らなくて……ごめんなさい」


「ふーん?謝ったってことは認めたってことだよね?」


「…え?」


「まぁいいわ、今は許してあげる」


「あ…ありがとうございます!」


 よかった、全て向こうに責任があるにしても流石に許してくれてよかった。


 その時は安心し切っていたがよく考えたら私がいじめられ始めたのはこの日からだっただろうか。


 下駄箱の靴を隠されたり、筆箱の修正テープを全て出されていたりなどの幼稚なものから、集団無視など精神的にくるものまであった。


 それらに耐えていく毎日はとても辛かった。


 でも、それでも心のどこかに彼の存在があったから何とかやってこれた。


 でもそれがいつ崩れてしまうのか、それは私自身にもわからなかった。


♢♢♢


「はぁ、今日も1人で掃除だったなぁ…」


 帰り道、そうため息を吐く。


 正直なところ掃除を全部1人でやれとかならまだ全然楽だ。


 電車の中はジメジメとしていた。


 湿気がすごく蒸し暑かった。


 人が乗ってくるたびに湿気が増していったので雨が降っているかもな、と思って改札を出ると案の定雨が降っていた。


 でもおそらく突発的なものだろう。


 それなら全然いいな、と私は思ってしまう。


 だって私の心にはずっと雨が降っている。


 その雨はあの人がいないと決して止むことはないだろう。


「雨、やまないかなぁ」


 今日はいろいろとしなければいけないことがあるから早く帰りたいんだけどなぁ。


 どうしよっかな。


「あの……」


 すると不意に声をかけられた。


 その声はどこかで聞いたことのあるような、柔らかくて、優しくて、懐かしい音だった。


 どこか弾む気持ちを抑えて振り向くと、見た目は変わっていてもすぐにわかった。


 そこにいたのは私がずっと待ち望んでいた大好きな男の子だった。












〜〜〜〜〜

3日も休んですみません。

言い訳はありません、すべては私の計画性の無さゆえです。

あと一応言っておくとめちゃめちゃ眠くなりながら書いてたのでおかしい部分が結構あるかもしれません。

それがあった場合報告いただけると嬉しいです!

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