第22話 全部乃亜くんのせいです
「おはよ、結姫」
会って早々放心状態の結姫に声をかけるも反応はない。
「どうしたのー?結姫?」
「あ、え……乃亜くん?」
「うん?乃亜だよ」
「あ、わわわわわ」
わかりやすく動揺するんだな。
まぁそこも可愛いんだけど。
「の、乃亜くん……髪……」
「うん、髪切ってみたさ」
「そ、それは分かりますけど……」
「もしかして似合ってない…?」
マジか…結姫に少しでもよく思ってもらえるように切ったのに……。
「いや、すっごく似合ってるんですけど…よかったのですか?バレちゃうかもしれないのですよ?」
「いやぁ、まぁね?それは俺も思ったんだけどさ、どうやらもうバレ始めてるらしいからどうせなら切っちゃって心新たにしよっかなぁと」
なんとなく奨吾のおかげでいい方向に何かが吹っ切れたような気がする。
「そうだったんですね…」
「そーそー、まぁ似合ってるならよかったか」
「はい!すっごくかっこいいですよ?」
「っ……!」
ほら、またそうやって結姫は簡単にそんなことを言う。
その言葉一つで胸が張り裂けそうになるほど痛くて、それで嬉しくて……。
でもそんなこっちの気も知らないで無邪気に笑う結姫はやっぱり世界一可愛い。
「あ…ありがとう」
素直にそう感謝を伝えると逆に結姫が嬉しそうな表情を浮かべた。
「あ、あれ食べたいです」
そう言って結姫が指さしたのはクレープの出店だった。
「あぁ、並ぶか」
そう言って人混みに足を踏み込んだ瞬間結姫が後ろではぐれそうになってしまった。
「結姫、手」
思い切り手を伸ばして結姫に手を掴むように促した。
届け……!!
よしっ!届いた。
俺は人混みをかけ分けながらゆっくりと再び結姫に近づく。
「先行っちゃってごめん」
「いえいえ、乃亜くんは悪くありませんよ」
「ここさえ抜ければ人混みもマシになるだろうからもう少しだけ我慢しよう」
それにしてもなんでこんなにここだけ混んでるんだろうな。
誰か有名人でもいるのか?
「なんか有名な女子バトミントン選手が来るだとか噂が立っていたのでそれかもしれませんね」
「そういうことなのか…」
「どうやらとても可愛い人らしいですよ?」
「ふーん?」
「あまり興味がなさそうですね」
「まぁな、俺は世界一可愛い女の子をこの目で見たことがあるからな」
現在進行形でね。
結姫がいる限りほかの女子が魅力的に見えることなどないだろうな。
「あぁ、例の昔一緒にいた女の子ですか?」
「ちがうよ」
「え?そしたら誰ですか?」
「気になるか?」
「はい!とっても!」
「残念、まだ秘密だよ」
えー、と不服そうに頬を膨らませる結姫の手を引いて人混みを抜ける。
少し人もまばらになってもう手を繋がなくても良くなった。
だけど離したくないなぁ…。
結姫の手は思ってたより冷たくてすぐに折れてしまいそうなほど細いんだな。
「じゃあクレープ並ぼっか」
さりげなく手を繋いだままそう言っても結姫は何も言わなかった。
これはそのままでもいいってことなのか?
まぁ、個人的にはそっちの方が嬉しいんだけどね。
「あ、あの……っ!」
後ろからそう声をかけられた時咄嗟に繋いでいた手を離してしまった。
「これ、落としましたよ」
と言って渡されたのはいつも使っていたお気に入りのハンカチだった。
「あぁ、ごめんありがとう」
「あの……」
「ん?」
「お名前だけ聞いてもいいですか?」
「え?なんで…」
「ダメです!乃亜くんは私のものなので」
「え、それ言っちゃってるじゃん」
名前言っちゃってるから元も子もない……って、そこじゃなくて!!
え、今私のものって言った?言ったよね!?
ちょっと待ってそれってどう言う……
「のあくん……あ、私はこれで……」
すると先ほど落とし物を渡してくれた女子は満足そうに帰って行った。
「何だったんだろうな」
もうさっきのことについては考えないようにした。
だってあれ以上考えたら変に空回りしそうで怖いんだもん。
「全部乃亜くんがかっこいいせいです」
……へ?今なんて?俺が…かっこいいって?気のせいか、気のせいだよな。
「ごめん聞き取れなかった」
「何でもないです。乃亜くんのばか……」
え、俺なんで今罵られたの?
しかも何でそれを少しでも可愛い、嬉しいと感じてしまったの?
末期なのかも……。
まぁ可愛いのは事実だからいいとして嬉しいと感じるのはだいぶやばいだろ。
「なんかごめん」
「じゃあ後で乃亜くんの分のクレープも一口ください、私のもあげるので」
それ意味なくない?結姫が得するように自分だけもらって俺にはあげないとかなら分かるけどけど…。
「俺にもくれるのか?」
「もちろんです、それで償ってもらいます」
「分かった、精一杯償わせてもらうよ」
本当にこんなんでいいのか、と思うけと結姫が良いならいいか。
「次の方どうぞー」
あ、やばい何にするか考えてなかった。
「結姫何にする?」
「私はいちごチョコクリームで、王道を行きます」
「じゃあ俺はその隣のクリームチョコバナナで行こっかな」
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「えっと、いちごチョコクリームとクリームチョコバナナを一つずつお願いします」
「かしこまりました、当店カップル割引ありますのでそちらを適用しましてお会計600円となります」
俺は財布から500円玉一枚と100円玉一枚を取り出して差し出した。
てか今カップル割引とか言わなかった?気のせいかな?気のせいだよな。
俺と結姫がカップルに見えるわけないもんな。
だって明らかに釣り合ってないもん。
「え、私の分は…」
「大丈夫大丈夫、これくらい払っとくから」
こんなところでいちいちケチってるようじゃ(結姫から)モテる男にはなれないからな。
「ありがとうございます…」
そこで少し待っていると出来上がったクレープを持ってきてくれた。
「お待たせしましたいちごチョコクリームとクリームチョコバナナです」
「ありがとうございます」
おぉ、これはなかなかすごいな。
「出店のレベルじゃないな」
「すごいですね、美味しそうです」
お互いクレープに一口噛み付く。
「ん、おいしい」
「ん!!ふごいおいひいです!!」
結姫が満足そうで何より。
実際結構美味しいしな。
「あ、乃亜くん一口あげるので一口ください」
「ああ、そうだったな」
「ほら、口開けてください」
「え?」
「あ〜ん!!」
え、一口あげるとかくださいとかってそう言うこと!?
それは流石にちょっとハードル高すぎないか…?
流石に俺の心臓が持たないって。
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