第48話 クラス替え

 修学旅行の翌週、俺が塾に行くと上村圭吾は休みだった。ひょっとして、時期的に上村圭吾も修学旅行に行ったのかもしれない。二週間も会えなくて、俺はがっかりした。

 さらにその一週間後、裏口の階段に上村圭吾はいなかった。しかし、教室に入ると前回と同じような場所に座っていた。――階段から鼻歌を歌いながら登って来るの、ルーティーンじゃなかったのかよ?俺はまたがっかりした。

 それにまた、同じ学校のやつらに捕まって、隣に座れなかった。三度目のがっかり。三度目の正直、って嘘だな。このままじゃ四度目もありそうな気がする。俺は嫌な予感がしていた。

 嫌な予感は的中した。来週、テストがあり、それでクラス分けがあると発表されたのだ。俺は中途半端な時期から入ったからすぐにクラス分け?と思ったけど、いつもこの時期、三ヶ月に一回変更になるらしい。

 上村圭吾の制服はどうやらここから少し遠い、中高一貫教育の私立学校のものだ。高校受験をしないからのんびりしていて、勉強はあまりやる気がないのかもしれない。上村圭吾はこのままEクラスなのか、上のクラスにいくのか…どちらなんだろう?俺は一生懸命勉強して臨んだ方がいいのか、自然体の方がいいのか迷った。俺は念の為、少し勉強してテストに挑む事にした。当日上村圭吾の様子を見て調整しようという計画で。

 テストの日、上村圭吾はいつもの席に座っていた。俺はまた同じ学校の奴らに捕まったが、上村圭吾の様子が伺いやすい斜め後ろの席に座った。テストは一時間。普段授業を聞いていない上村圭吾も流石にちゃんと問題を解いているようだった。

 俺は前日までの勉強が身を結び、想像よりも手応えを感じた。上村圭吾をチラリとみると、なにやら書いたり消したりを繰り返している。どうやら苦戦しているようだ。さては全然勉強しなかったな?何なんだよ、お前…本当に中学受験したのかよ?

 俺は仕方なく、選択問題をわざと間違える事にした。

 でもそれが良くなかった。だいたい、「出来た!」って思った時は出来てないもんなんだ。なぜなら、出来てないところが分かっていないんだから…。だから俺ははずしたつもりが正解してしまい、一つクラスが上がってしまった。


 クラスが変わってしまったら、階段を登らなくなった上村圭吾を見掛けることがほぼ無くなった。

 ごくごく稀に、廊下を歩いているのを一瞬見る程度。お前、ドラクエのメタルスライム…いやはぐれメタル並みにレアキャラだな?でも、はぐれメタルは経験値を沢山持っている。倒せないけど、見かけると、嬉しくなって捕まえたくなる。けど全然捕まえられない…どころか遭遇できない。遭遇率を上げるにはどうしたらいいんだろう?まったくきっかけが思いつかなかった。


 あの歌も謎のままだった。

 解けない謎は胸の中を渦巻いていて、つい、俺は無意識にその歌を歌っていた。

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