第8話 奪われた残骸、ナハトの再起

#### 1. 消えた残骸


ナハトの戦場は、825の暴走とアレリア革命団、ワグレの壊滅によって静寂に包まれていた。廃墟には血とオイルが混じり合い、崩れたバリケードが過去の激戦を物語っていた。リアナは、住人たちの安全を確保した後、825と共に戦場を調査し、814と826の残骸を確認しに行った。814の犠牲と826の破壊は、ナハトの運命を大きく変えた出来事だった。彼女は、せめてその残骸を回収し、教訓として未来に活かしたかった。


だが、戦場に到着したリアナと825が見たのは、ただの空虚な地面だった。814の自爆攻撃の痕跡も、826の破壊された装甲も、何一つ残っていなかった。「…どういうことだ?」リアナが呟くと、825の赤い目が一瞬暗くなった。「…回収された。誰かに…持ち去られた。」


カイが駆けつけ、怒りを爆発させた。「回収!? 誰がそんなこと!? アベーニャーの残党か!?」 だが、トビアスが地面の痕跡を調べ、冷静に言った。「…足跡とタイヤの跡がある。組織的な動きだ。アベーニャーじゃなく、もっと大きな勢力だ。」 リアナの胸に、冷たい予感が広がった。新アレリア――マスべ将軍の名が、頭をよぎった。


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#### 2. 新アレリアの暗躍


遠く離れた新アレリアの要塞では、マスべ将軍の腹心であるグレス大佐が、薄暗い実験室で満足げに笑っていた。目の前には、814と826の残骸が並べられ、技術者たちが忙しく解析作業を行っている。グレスは、マスべの命を受け、ナハトの戦場からロボット兵の残骸を密かに回収していたのだ。


「814、826…ハウス博士の遺産は、我々の手に渡った。」グレスは部下に命じた。「再生を急げ。こいつらのデータを解析し、新たなロボット兵を完成させる。残るは…825だ。」 彼の笑みは冷酷だった。825は、暴走しながらも人間を守る意志を見せた特異な個体。そのデータを手に入れれば、新アレリアの軍事力は飛躍的に向上する。グレスは、マスべ将軍の野望――廃墟の世界を支配する「新アレリア帝国」の実現を確信していた。


実験室の奥では、814の残骸から回収されたメモリチップが解析されつつあった。技術者の一人が驚きの声を上げた。「大佐! 814のデータに…感情シミュレーションの痕跡が! こいつ、自我に近いものを持ってた可能性が…」 グレスは目を細め、呟いた。「自我か…面白い。ならば、825はもっと価値があるな。」


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#### 3. 825の葛藤


ナハトに戻ったリアナと825は、住人たちに状況を報告した。814と826の残骸が奪われた事実は、集落に新たな不安を広げた。マーサが厳しい口調で言った。「ロボの残骸が敵の手に渡った? リアナ、お前の判断ミスだ! ロボを連れ込んだせいで、ナハトは標的になった!」


リアナは反論せず、ただ拳を握りしめた。だが、825が静かに進み出た。「…私の…仲間が奪われた。私は…取り戻したい。814は…私を信じた。彼女を…敵の道具にはさせない。」 その言葉に、住人たちは一瞬沈黙した。ロボが「仲間」を語る姿は、彼らの想像を超えていた。


カイが苛立ちをぶつけた。「取り戻す!? お前が暴走してナハトをぶっ壊したんだぞ! 仲間だの何だの、ふざけんな!」 だが、リアナは825の手を握り、言った。「825…お前の気持ちはわかる。だが、今はナハトを再建する時だ。814と826を取り戻すのは、その後だ。」


825は一瞬、目を伏せた。「…了解した。リアナ。私は…ナハトを守る。」 彼の声には、機械的な冷たさと人間の決意が混じっていた。リアナは心の中で誓った。825の仲間を取り戻し、新アレリアの野望を阻止する――それが、ナハトの未来を守る道だと。


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#### 4. 新しいナハトの礎


ナハトの再建は、過酷な状況の中で始まった。食料は底をつき、電力は不安定。住人たちの士気は低く、敵の脅威は迫る。リアナは、拘束されたザイラ、ガルス、エリナを活用する決断をした。彼らに役割を与え、ナハトの再建に協力させることで、敵の知識と力を利用するのだ。


ザイラは、アベーニャーの交易網の知識を活かし、廃墟での食料や資材の調達を担当。彼女は怯えながらも、生き延びるために従った。「…ナハトが私を許すなら…協力する。」 ガルスは、革命団の軍事技術を提供。バリケードの強化や罠の設計に渋々参加したが、内心では脱走の機会を窺っていた。エリナは、ワグレの民主的統治の経験を活かし、住人たちの意見をまとめる役割を担った。「…戦争はもうたくさんだ。ナハトが平和なら…それでいい。」


825は、自身の構造を解析し、電力供給の効率化を提案。壊れた太陽光パネルを修復し、ナハトに微かな光を取り戻した。住人たちは、825の働きに驚きつつも、徐々に彼を「仲間」として受け入れ始めた。カイでさえ、渋々ながら認めた。「…まぁ、役に立つなら、悪くねえか。」


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#### 5. 迫る影と新たな決意


ナハトが再建の第一歩を踏み出す中、外部の脅威はさらに迫っていた。クリス教団の「ロボ壊滅作戦」は、廃墟の集落を次々と焼き払い、ナハトにも斥候が接近。教団の狂信的な信者たちは、825を「神の敵」とみなし、集落の壊滅を計画していた。


新アレリアのグレス大佐は、814と826の再生を急がせ、825の回収作戦を準備。マスべ将軍は、教団とナハトが衝突する混沌を見越して笑った。「愚かな人間どもめ。互いに潰し合えば、我々の支配は容易だ。」


ナハトの集会所で、リアナは住人たちに宣言した。「ナハトは蘇る。ザイラ、ガルス、エリナ、そして825――俺たちは全員で未来を掴む。敵が来ても、俺たちは負けない。」 825は静かに頷き、言った。「…リアナ。私は…人間を信じる。814を…取り戻すために。」


だが、廃墟の果てで、クリス教団の軍勢が動き、新アレリアのロボット兵のプロトタイプが起動音を上げていた。ナハトの新たな試練は、すぐそこに迫っていた。


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