三.n回目の共同作業(3/3)

 ゴムに似た性質を持つバージェスの外皮は、電気をほとんど通さない。その一方、外皮に覆われた内部組織は脆い。

 つまり、外皮に裂け目クラックを作ってそこから通電すればイチコロというわけである。



「鉄火! いくわよ!」



 キルステンが合図すると同時に、最も俺に近い側にあるバージェスの触手を深く穿うがった。



 ギエエエエエエッ!



 バージェスの巨体がバランスを崩して貨物船から崩れ落ち、ド派手な音と波飛沫しぶきを立てて海面に落下する。



(今だ!)



 大量の波飛沫が降り注ぐ中、俺はバージェスの外皮にできた裂け目クラックを素早く識別すると、電撃三叉槍を振り上げて水上オートバイから飛び出し、全身全霊で裂け目クラックに突き刺した。



「――――!!」



 バージェスが全身をピクピクと痙攣させながら、声にならない断末魔の声を上げる。

 たっぷりと10秒は通電させたところで電源を切って三叉槍を引き抜くと、仰け反らせていた首から力が抜け、ザバンと海中に顔面を没した。



「……よし、討伐完了だな」


「鉄火!」


「ッ!?」



 キルステンの叫びに俺が後ろを振り向くのと、別のバージェスが海面から飛び出してくるのはほぼ同時だった。



(おいおい、そんなのアリかよ!)



 俺が心の中で突っ込みを入れている間にも、ヤツメウナギに似たバージェスの円形の口がガバッと大きく開かれる。

 円形に並んだ無数の鋭い牙と、喉の奥に見える咽頭額いんとうがくが俺を噛み千切ろうと迫ってくるのが、スローモーション映像のように克明に認識できてしまう。


 しかし、俺の冷静な理性は、これを危機ではなく好機チャンスと捉えた。



「うおおおおおっ!!」



 俺は腹の底から気合を発すると、三叉槍をバージェスの生臭い口の中に深々と突き刺した。



「――――――!」


 バージェスが、例によって口を開いたまま痙攣し始める。ウェットスーツを着た俺の背中で、食い込もうとしていたバージェスの牙がガタガタと震えるのを生々しく感じながら、俺は決死の思いで三叉槍を突き刺したまま通電を続ける。


 やがて、もう充分だろうと判断して三叉槍の電源を切ったところで、俺の腹に何かが巻き付いてバージェスの口の中から勢い良く引っ張り出された。



「うおっ!?」


「もう! 無茶しないでって言ったじゃないのよ!」



 俺の腹に巻き付いたのは、キルステンの尻尾だった。

 尻尾で俺の身体を海面から浮かせながら、怒ったような顔で俺を睨み付けている。



(そんな、少しくらい褒めてくれたって……)



 キルステンの空色の瞳が心なしか潤んでいるのを見て、この恋路がどんな航海よりも困難である事を改めて思い知らされたのだった。

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