第7話 やりたかったことそのに!
というわけで。
やりたかったことそのに!
「な~に~を買おうかな~♪」
作曲作詞私、な歌を歌いながら、旦那様からいただいた布袋の中を吟味(ぎんみ)する。
持っただけでもかなり重たかったその中身は、想像以上にたくさんのお金が入ってて。
なにより! 平民の生活では必須だと教わった銅貨が、ちゃんと準備されてた!
「私の手持ち、金貨しかないんだよねー」
換金するにしても、ドレスも宝飾品も全部高いだろうし。そうなると、結局は金貨しか手に入らない。
よくて銀貨数枚、かなぁ?
でも銀貨があっても、平民はあんまり使わないらしいし。
「とりあえずー、これからの生活のための服と靴と、あとは髪を縛るリボンー……」
は、手持ちのでいっか。
服はドレスばっかりだし、靴はヒールばっかりだから、そっちは新調しなきゃなんだけどね。リボンならいっぱいあるから。
「そうだ! 髪縛って出かけよう!」
出かける準備をするために、いったん部屋に戻ってリボンで髪を縛ってくる。
徒歩での移動の場合は、風とか人ごみとかを考慮して、髪を縛っておいたほうがいいみたいなんだよね。
「あとはー……あ、そうそう! 食材!」
手持ちの中から比較的地味な色合いの、幅広のリボンを選んで髪を縛っておいた。
うん。確かにこのほうが動きやすいかも。
「どうしよう。メモしていったほうがいいかな?」
個人的に一番欲しいのは、卵かトマトのどっちかなんだけど。どうだろう? 売ってるかな?
あとできればお砂糖も欲しいんだけどなー。あるかな?
「んー……。まぁ、いっか」
最初は色々見て回るのに忙しくて、きっとあんまり食材は買いこめないだろうし。
というかむしろ、なにが売ってるのかすら知らないから。
それに服と靴を買い揃えたら、そんなに持って帰れないだろうしね。
「よっし! じゃあ、行きますか!」
レッツ! はじめての一人でお買い物!
「んふふ~♪」
そういえば出ていくなって言う割には、玄関の扉は普通に開くんだなとふと思いつつ。嫁いでからはじめての外出に胸を躍らせながら、しっかりと家の鍵が閉まっていることを確認する。
こういうことすら全部が新鮮で、物凄く楽しい!
これよこれ! これなのよ! 私が求めてた自由っていうのは!
足取り軽く、金貨を抜いてだいぶ軽くなった硬貨の入ってる布袋だけをバッグに入れて、まずは服飾系のお店を目指す。
「うん。作っておいて正解」
シンプルな布製のバッグは、刺繍の練習用にと言って用意してもらった布を使って作った、お手製の物。
正直平民として生きる時に、どんなバッグなら浮かないのかなと考えてはみたけど、結局既製品ならどれでも同じなんじゃ? って思って自作してみた。
これが案外、イイ。
とりあえず賑やかなほうへと向かって歩いていても、誰一人私のバッグには注目してないし、周りの人たちも色々なバッグを手にしてたから。
(ただ時折ジロジロ見られてるのは、なんでなんだろう?)
服装もなるべく目立たないものにしてきたし、リボンも派手じゃないはずなのに。
これ一着しかないし、今まで特に着る機会にも恵まれなかったから、明らかに新品なのは一目見て分かるだろうけど……。
(そのせい? 全部が新品だから、そこで違和感を持たれてる?)
とはいえ実害もないし、今までだって見られるのは日常茶飯事だったから、別に物凄く気になるってほどじゃないんだけどね。
それよりも!
私にとって、はじめて護衛もつけずに一人でお買い物という、このシチュエーション!
もう最っ高なんだけど!
(うれしい~~!!)
これでようやく、一つ目の夢が叶った!
昔からずーっと憧れだったんだよねー。自由気ままに一人でお買い物。
無意識のうちに、口から満足気なため息が出てきて。
「あぁ……幸せ」
呟いた言葉は、誰にも聞こえないほどの声量だったけど。でも心の中は、叫び出したいほどの幸福に満たされてた。
だって本当に、小さいころからずっとずーっと、夢見てたから。こうやって、自由になる日を。
私は、そのために頑張ったんだから。
アルベルティーニ公爵家が王家との繋がりを持つための、道具としての日々を。
家族からも婚約者からも、欠片も愛を与えられない日々を。
マナーや知識を、ただ詰め込むだけの日々を。
耐えて耐えて、耐え忍んで。
ようやくこの日を迎えたの。
(それで喜ぶなっていうほうが、無理でしょ!)
こんなに晴れやかな気持ちで過ごせるのは、いつぶりだろう?
本当に、第一王子を引き取ってくれてありがとう!
つらい教育の日々を代わってくれてありがとう!
あの家から解放してくれて、本当に本当にありがとう!
今私、幸せです!!
(心の底から、応援してるから!)
だから化けの皮がはがれる前に、ちゃんと正式に婚約までしちゃってね。
(なーんてね)
ようやくやりたかったことが本当にできるようになったその嬉しさから、冤罪をかけられる理由になった人物に心の中で本気で感謝しつつ。
私はお目当ての一つである服飾系を扱うお店を見つけて、意気揚々と扉をくぐったのだった。
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