銀貨8枚
作家:岩永桂
第01話 立つ鳥跡を濁さず
銀貨8枚
第01話 立つ鳥跡を濁さず
風呂入って来るね。
男はそう言って、六花枠から踵を返した。
イベント最終日に
メーターと呼ばれる盛り上がり指標はMAXを示し、六花自身も色めきだっている。
最高称号を勝ち取り去って行く不良中年。
引導を渡すには充分過ぎる場面設定だった。
男は自著を売るためにこの界隈を徘徊した。
犯罪者扱いされた時もあれば、大口注文を持ち掛けられたこともあった。
購入意思を感じ取った時は「銀貨8枚……」とぶっきらぼうに応対した。
恩師は50人の同志を集うことを説いた。
彼等が派生しながら伝播して行けば、
取り逃したような大口注文の再現になると言う。
銀貨にまみれる生活も夢だが、男は出版の永久循環を果たしたかった。
男は頑なに35行詩にこだわった。
定型に収めたかったので20行辺りでそわそわし出す。
言葉を並べることは尊い儀式のようだった。
男はどんな逸話をこの世界に残そうとしたのだろう?
必要に迫られれば挿絵も描いた。
外見描写を軽視した半生だったが、固定した印象を残そうと尽力する。
男は連載を6回決め打つことにした。
縛ることで、自由を奪うことで、緊張感を得ることを覚えた。
1回目に伝えたかったのは銀貨8枚という価値観。
8カ月掛けて編んだ短編集はそれだけの価値を讃えて店頭に並んでいる。
男は初めての原稿を携帯端末で書き起こし、貼り付けてみたら31行だった。
塩梅としては悪くなかったが、35行ぴったりに収まると
首尾よく次が書けたのだが。感覚的な才能は凡庸である。
連載2回目は直に書いてみよう。書斎に籠り思想を練った。
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