社畜 逃げる

四階層、魔物が湧いていた

手を振るい異能の炎を前方に連続で放つ

溜めて放つ余裕は無い

斬撃のような形で様々な角度で放たれる炎に魔物は焼かれていく

今は早く逃げる事が先決

落ちた魔石や素材を無視して走る


「邪魔だ!」


『強ぇ』

『一撃だもんなぁ』

『あの魔物は追いかけては来てなさそう』

『見逃されてる?』

『そもそも2人に気付いてなかったとか?』

『無くはないけど……』

『それは無いだろ。少なくとも異能は使ってた訳だし』

『頑張れー』


次々と現れる魔物を全て炎で焼き払う

天音は時々後ろを見て追いかけてきているか確認するが追いかけて来てはいない

魔物の攻撃を炎で防ぎ一撃で焼き払う


「追ってきてる?」


天音に聞く

振り返らずに聞く、速度も落とさず天音が着いてこれる速度で前方に出現した魔物を薙ぎ払う

もし追いかけてきていたら直ぐに攻撃出来るように炎の一部を待機させておく


「どうでしょう、音も姿も確認できませんので追いかけてきていないかも知れません」

「そうか、追いかけてきていたら不味いからこのまま入口まで行こう」

「はい!」


三階層、二階層とどんどん速度を落とさずに上がって行く

追ってきている様子はなく音もしない

(竜胆さんによると追いかけてきては無いみたいだけど……)

(凄い不気味……なんだろうこれ)

2人は何か違和感を持つ

魔物は追いかけてきていない、なのにべっとりと何か気配のような物がすぐ後ろにある感覚にずっと襲われている

人では無い何かに監視されているような視線も感じる

天音が何度も振り返って確認するが何も居ない

そのまま一階層に着き入口に向かう

薄暗いダンジョンを外の光が照らす

入口は近い

蓮二は魔物を倒し入口の方を見る


「なっ!」


蓮二は走るのを辞める

真後ろを走っていた天音は急に止まった蓮二の背中にぶつかる


「どうしました?」


『何かあったの?』

『なんで止まったんだ?』

『何かあったんじゃね? 驚いてるような声上げてたし』

『まさかあの魔物が待ってた?』

『移動するにしてもこのダンジョンは一本道だ。どうやって先に来るよ』

『空間移動系なら行ける……ドローンが入口見てないから何があるのか分からんな』

『天音ちゃん?』


天音も入口の方を見る


「嘘……」


(考えられるのは空間移動系の異能持ちの魔物か元から2体居た可能性、現れたのがあそこだけとは限らないし)

入口から差し込む光を隠す黒いモヤを纏った魔物がそこには居た

先程中ボスのエリアで見た魔物に類似している

両方とも姿形が見えない為はっきりと同じと断定は出来ない

ただ2人は同一だと理解する


「分身か移動か……どちらにしてもあの魔物は倒さないと行けませんね」

「……そのようだね」


(果たしてあの魔物に勝てるのかな?)

入口の前にいる

左右に人が通れる程度の道はあるが素直に通してくれるとは思えない

ドローンが入口を見る


『あの魔物じゃん!』

『まじかよ』

『怖っ』

『ヤバっ』

『入口で待ち構えてたのか』

『追いかけてきてた?』

『あの位置は戦わないと……』

『元々2体なのか移動してきたか……どちらにしても厄介すぎる』

『これは異能持ちとして考えた方がいいな』

『2人とも頑張れー』

『頑張れー』

『やっちゃえ!』


コメント欄は盛り上がる

先程は逃げたが今度こそ戦いが始まる

周囲の炎を増やして構える

魔物の出方を伺う

天音は隣に行き剣を構える、異能の準備も整えている


「合図さえ貰えれば異能使います」

「分かった。その時になったら合図出すよ」


蓮二は1つ懸念している事がある

それは炎によって視界が遮られる事である

高威力広範囲の炎攻撃、聞こえはいいが炎によって攻撃の瞬間魔物の姿が見えなくなる

その間に魔物が何かをしても見えずその場から移動していても炎が消えるまでは確認が取れない

かと言って範囲の狭い攻撃では心許ない

炎の攻撃の速度は早くない、素早い魔物であれば避けれてしまう

魔物の強さが分からない、思っているより弱い可能性も普通に一撃で倒せる可能性もある

強さは分からないが余りにもこの魔物は不気味過ぎる

(溜めるかそれとも視界を塞がない程度で戦うか……どうすればいいんだよこれ……)

戦闘の経験が少ない蓮二は迷う

例え強くとも経験の少ない蓮二では何が最適で何が悪手なのか分からない

(私が指揮出来れば良いけど……どうすべきなのか分からない。私はほぼ戦力にならないし)

天音もこう言った場面での戦闘の経験は無い為指揮が出来ない


『動かないな』

『様子伺ってるんじゃない?』

『戦えー』

『戦わないのか?』

『言うて戦わないと無理くね? 位置的にも逃げれないし』

『あの広範囲の一撃で倒せるでしょ』


2人は距離を保って様子を伺っている

炎を使った激しい戦闘を楽しみにしていたコメントの一部は不服に感じている


『戦いってただ突っ込めばいい訳じゃねぇんだよ。強けりゃ必ず勝てるなんて簡単な話じゃない』

『そもそもこの戦闘が想定外だしあの魔物不気味だから仕方ない。どう出れば良いか分からないんでしょ』

『スーツの人経験多くないんでしょ?』

『あの時初めてだったとか言ってたから真実なら戦闘の経験は殆どないと思う』

『天音ちゃんもこんな想定外の出来事に対する対応が上手いとは思えないし……』

『あの魔物本当に不気味、なんも見えないし何してるか分からないしずっと動かないし』

『中ボスのエリアに出現した異例、異能持ちなら迂闊には手を出せない。どんな異能か分からないし』

『分身か空間移動じゃねぇの?』

『あくまでそれは予想、分身ではなく2体居る可能性だってあるし別の異能の可能性は全然ある』

『ヤバくね』

『やばい』

『普通に状況不味い。逃げ道を封じられてるしなんの情報も無い魔物との対峙』


動きが無いまま時間だけが過ぎていく

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