第7話 城下町へ入場

 メルメーサ王国の城下町である、パプテトロンに入るには、町出入り口ゲートに居る衛兵のチェックを受けるらしい。

 前世界で言えば検問所だ。ちゃんとその付近には衛兵の詰め所も有る。


 ゲートは幾つか有って今回、俺とリンが入るゲートは、P3と呼ばれるゲートで有った。

 ゲートの広さは、荷馬車が対面通行出来るぐらい広く。ゲートバーも基本は開放状態らしい。


 俺とリンが(P3)ゲートに近付くと、ゲートの両隣に立っていた、右側衛兵が俺とリンに近付き、俺とリンに向けて、澄ました表情で話し掛けてくる。

 衛兵の姿は、金属製兜及び鎧を身につけた衛兵で有り、槍は持っていないが剣を腰に付けている。


「身分証の提示をお願いします!」


「……お願いします!」


『スッ!』


 リンは衛兵の言葉で、微笑みながら身分証を提示する。

 リンはメルメーサ王国の国民で有るから、王国から身分証が発行されている。


 当然。俺は王国民で無いから、王国発行の身分証なんて持っていない。

 そうなると、俺は城下町や城内に入れない訳で有るが、実は秘策が有る。


「……そっちの男性は?」


 右側衛兵は、俺が身分証を提示しないから語気を強めて言ってくる。

 俺は困った微笑み表情で、衛兵に話し始める。


「すいません…。俺は、モノアメット公国から来た難民なんです!」

「そして、その公国から発行された身分証は、魔物と遭遇した時に紛失しまして……」


「ジーー」


 右側衛兵は、目を細めながら俺の話しを聞いている。

 リンからの話に依ると、モノアメット公国は、魔王軍が最初に攻めた公国で有り、ほぼ奇襲状態で攻撃を受けたモノアメット公国は、たった数日で魔王軍に降伏してしまった。


 魔王軍に占領された事に依り、モノアメット公国の行政機能は崩壊して、同時にモノアメット公国民は難民と成る。

 魔王国は魔物が国民で有るため、人間なんかは不要国家だ。


 殆どの国民が難民となり、一部の国民はレジスタンスと成って、魔王軍に決死の戦いを挑んだらしい。

 だが結局、犬死にだったそうだ。


 俺は本来。異世界の人間で有るが、モノアメット公国民の難民を名乗れば、メルメーサ王国の城下町に入場出来るらしい。


「……そうか!」

「貴様は、モノアメット公国の難民か……」


 右側衛兵は、被っている兜を少し下げながら低い口調で言う。

 俺を多分。うやまっているのだろう。


 すると、左側にいた衛兵が俺に近付き、カードサイズの紙を俺に差し向けながら、澄ました表情で言い始める。


「これは、ゲストカードで有るが、同時に難民証明も兼ねている」

「もし、メルメーサ王国の王国民に属したいのなら、城内に入った直後にある、難民申請窓口で申請すると良い!」


 俺は左側衛兵の言葉を聞きながら、カードを受け取る。

 メルメーサ王国はモノアメット公国の難民を、ほぼ無条件で受け入れているので、この裏技を使えば異世界から来た俺でも、メルメーサ王国の王国民に成る事が出来る。


 だが、今回はあくまで、リンから城下町であるパプテトロン案内なので、難民申請は次回で有る。

 俺は感謝する表情で、左側衛兵に話し始める。


「すいません…。本当に、ありがとうございます///」

「王国民の方は、前向きに検討します!///」


「この度は気の毒で有ったな…」

「モノアメット公国の公国民達……」


 右側衛兵が、上から目線で俺に話しているが、俺はそれを気にしない事にする。

 此処で余計な発言や行動をしたら、事が大きく成るだけだからな。


『ぺこ、ぺこ、―――』


 俺は感謝の表情をしながら、二人の衛兵に頭を下げながら、城下町であるパプテトロンに入る。

 これだけ低姿勢を演じれば(?)、衛兵達も俺の嘘を見抜けないだろう!


 リンは俺の後ろに続いて入る。横並びで歩くと衛兵に勘ぐられるからな。

 衛兵から離れた場所で、リンが嬉しそうな表情で俺に話し始める。


「ねっ! 簡単だったでしょ!♪」

「お父さん!!♪」


「ふぅ~~」


 俺は溜め息を吐いた後。

 困った微笑み表情でリンに話し始める。


「流石、リンのお父さんは師団長だけ有ったね」

「この情報って、本来は内々の情報なんでしょ」


 さっきの難民受け入れ情報は、おおやけに発表されている情報では無い。

 実際は難民キャンプで発表されていたが、その難民キャンプは魔王軍の追撃を受けて壊滅している。


 だから、この情報を知っているのはメルメーサ王国の師団長以上、若しくは衛兵などの門番。

 そして、難民キャンプにいた人達か、その人伝聞いた人しか知らない。


 リンは穏やかな表情で、俺に話し始める。


「はい。そうです!」

「けど、こうしないと、お父さんはパプテトロンに入れませんし、王国民にも為れませんからね!!」


 このアイディアは、リンからのアイディアで有る。

 以前、父親が母親に話していたのをリンは聞いていたらしい。


 リンは言うまでも無く、賢い少女だろう。

 俺は穏やかな表情でリンに話し始める。


「でも、これで城下町に入れたし、今後はゲストカードを見せれば、すんなり入れるように成ったから一安心だね」


「でも、お父さん!」

「ゲストカードで何回も出入りすると、衛兵から詰問が有るらしいですから、早めに王国民に成った方が良いですよ!!」


 リンは和やかな表情で俺に話す。

 リンの話に依れば、王国民に成るには、メルメーサ王国内での出生証明や、身辺調査が入るらしいが、難民の場合は特例で名前と性別。年齢だけでメルメーサ王国民に成れるらしい。


(この、スカスカ感も異世界らしいな///)

(だが、前世界の難民達も自治区や国が無くなれば、身分の証明は一気に難しく成るしな……)


 俺はそんな事を思いながら、無事にパプテトロンに入る事が出来た。

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