第2章「スライム相手に、ざまぁ」⑶
「それじゃ、実践してみようか」
そう言うとザマァーリンはパンパン、と手を叩いた。
すると林の中から、手足の生えた人間大のキノコがのっそりと現れた。紫色のカサに黄緑色の斑点があり、いかにも毒キノコっぽい。スライム同様、顔はないが、手足の向きでどちらを向いているのか分かった。
「さぁ、あのキノコ魔人にざまぁしてみたまえ!」
「は、はい。あいつの弱みと〈ザマァ〉を言えばいいんですよね」
ヨシタケは剣を握ると、キノコ魔人をジッと見つめた。そして弱点を見つけると、〈ザマァ〉を唱えた。
「き、キノコのくせに歩いてんじゃねぇ! 〈ザマァ〉!」
しかしキノコ魔人は腰をポリポリかきながら、なんともない様子で言った。
「ア゛? キノコガ歩イテ悪イカヨ。ソレッテ、キノコ差別ジャネ? 〈ザマァ〉」
「キノコが喋った?! しかも毒舌!」
「毒キノコだからね。毒舌に決まってるさ。それより、早く仕留めないと君が倒れてしまうよ?」
「え? なん……」
ヨシタケはザマァーリンに尋ねようとして、「ゴホッ」と咳と共にキノコを吐いた。キノコ魔人と同じ、紫色のカサに黄緑色の斑点がついた毒キノコだった。
「く、口からキノコ?! 何で?! 俺、朝飯にキノコ食ってないのに!」
「あーあー、言わんこっちゃない。それはキノキノの毒だよ。一度かかると、かかった人間の体力が尽きるか、本体のキノコ魔人を倒すまで、キノコを吐き続けるんだ」
「そ、そんなの嫌だ! 早く倒さないと!」
ヨシタケはキノコ魔人と向き直り、再び弱点を探す。毒の効力か、意識がもうろうとし、フラついた。
対して、キノコ魔人は余裕のある様子で、ヨシタケを見下し、毒づいた。
「早ク帰ラセテクンネ? 時間ノ無駄ナンダケド。〈ザマァ〉」
「ぐぅ……ッ!」
「コンナ低レベルシカイナイ森二留マッテルッテ、ドンダケ弱イノ? 〈ザマァ〉」
「かはッ……!」
「テカ、勇者弱スギ。昨日通ッタ連中ノ方ガ強ソウダッタ。〈ザマァ〉」
「ゲボッ! それ、ザマスロット達じゃん……」
息もつかせぬ〈ザマァ〉に、ヨシタケは苦しむ。いつしか彼の足元には、毒キノコの山がこんもりと出来上がっていた。
「ヨシタケ君、諦めるな! そいつもスライムと変わらない、低級モンスターだ! 弱点はすぐ分かる!」
「すぐって、そんな簡単だったら今頃この森で無双してますって……」
ヨシタケは剣を杖代わりに、なんとか持ち堪える。
いつ倒れてもおかしくない彼に、ザマァーリンは必死に呼びかけた。
「君が純粋に思ったことを、奴にぶつけるんだ! 無理に見つけようとしなくていい、感じたままを叫べ!」
「んなこと言ったって、"ずっと片言で分かりづらいわ〈ザマァ〉"としか思えないっすよ」
すると次の瞬間、キノコ魔人が雷に打たれたように発光・痙攣し、こんがり焼き目をつけつつ地面に倒れた。
「キ、気ニシテタノニ……」
「あ、ごめん」
キノコ魔人を倒し、素材を回収し終えると、ザマァーリンは「おめでとう」とヨシタケを褒めた。
「なんとか無事、キノコ魔人を倒せたね」
「はい。でもこの調子じゃ、いつ治療費を完済出来るか分からないですよ」
「そういえば、教会のシスターちゃんから請求されてたんだったね。私も見ていたから知ってるよ。ザマスロットに闇討ちされて、ザマルタに救われるまで全部」
「見てたのなら、助けて下さいよ。おかげで、勇者なのに借金背負わされちゃったじゃないですか」
「ごめん、ごめん。代わりに良いこと教えてあげるから」
ザマァーリンは森のさらに奥深くを指差し、言った。
「この森の奥に、懸賞金百万ザマドルをかけられているヌシがいる。そいつを倒して賞金をもらえば、一気に治療費を返済出来るよ」
「マジっすか?! じゃあ、さっそく……」
「まぁ、待ちたまえ」
「ぐぇっ」
ヨシタケはザマァーリンが指差した方向に向かって歩いて行こうとして、彼女に首根っこをつかまれた。
「今の君の力では、到底ヌシと渡り合えない。他のモンスターと戦い、腕を磨いてから対決するとしよう」
「あ゛、あ゛い。とりあえず、手ぇ離してもらっていいっすか?」
こうしてヨシタケはザマァーリンと共に、森のモンスターと戦いまくった。
スライム、一見可愛らしい小動物、歩く木のモンスター、スライム、噛みついてくるリンゴ、岩で出来た巨人、スライム、宝箱に擬態したモンスター、スライム、ちょっと大きめのスライム、スライム、メタリックなスライム、スライム、キノコ、スライム、スライム、スライム……森にいるあらゆるモンスターとスライムをワンキル出来る頃には、ヨシタケは中級者レベルにまで成長し、〈ザマァ〉の戦法を完璧にマスターしていた。
「スライム多すぎて、もう見飽きたんですけど! 〈ザマァ〉!」
ヨシタケは剣に炎をまとわせ、スライムを両断する。
スライムは体が離散する前に、真っ黒に燃え尽きた。
「はぁ、はぁ……ほんと、この森スライム多くないですか? もはやスライムの森じゃないっすか」
「低級モンスターしかいない、安全な森だからね。他の森じゃ、強いスライムしか生き残れないから、ここに住み着いているんだよ。おかげで、ヨシタケ君の良い鍛錬になった」
ここまでホウキに乗って見守っていたザマァーリンはヨシタケの成長を認め、再び森の奥を指差した。
「今の君なら、きっとヌシも倒せるよ。日が落ちる前に倒しに行こう」
「はい! ……あの、俺もホウキに乗っけてもらっちゃダメですか? ずっと歩いてたんで、足がパンパンで」
「しょうがないなぁ」
ザマァーリンは人差し指をくるっと回すと、ヨシタケの足に向かってビームを放った。
すると足に溜まっていた疲労が、嘘のように消え失せた。
「おぉ! まるでエステに行ったかのようなスッキリ感だ! 行ったことねぇけど!」
「これならまた走れるだろう? それじゃ、行こうか」
「……どうしてもホウキには乗せてくれないんですね。一応、人並みには空を飛ぶことに憧れを持っているんですが」
「このホウキは一人用だからね。乗れるのは、私のお眼鏡にかなった要救助者か、恋人だけさ。乗りたければ、魔王を倒し終わった後に魔法使いにジョブチェンジするか、独学で魔法を学んで、魔導騎士になるといい。君は魔法が使えるみたいだし、素質はあると思うよ」
「魔導騎士かぁ。なんか、かっこいいっすね」
ヨシタケは剣と魔法でモンスター達をバッタバッタと倒していく自分の姿を想像し、ワクワクした。
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