純粋無垢を護らねば!〜リン×ラン×キッチンカー日常〜

折原みみ

第1話 千手観音を護らねば! 私千手観音になりきれてますか?

「好きです付き合ってください!」

「どうぞ~こちら"好きです付き合ってください"ですよ」


 キッチンカーに並ぶ学生の列、いちご大福パンを受け取った男女二人は半分に分け合いながら後を去っていく。


 新メニューのいちご大福パン"好きです付き合ってください"を販売開始してみたら、思いのほか大反響。


 カップルが多そうな高校の食堂前を借りれたのが大きくて、狙い通りカップリングが揃って並んでくるわ。

 このいちご大福パンがきっかけで付き合い始めた子も居るみたいで、嬉しくなっちゃう!


「ねえランちゃん、いちご大福にネコ描くの疲れたでしょ? そろそろ私も手伝うわ」


 器用にチョコペンを走らせる少女ランちゃんはニカッとしたイタズラな笑顔を見せる。


「ダメなの~リンは絵がヘタクソなの。ネコじゃなくて可哀想なネコになるからチョコペンは渡さないなの!」


 ふふ、今日もランちゃんが元気でなりよりね。


 ランちゃんは私の一番の親友。

 私がキッチンカーをしようかなと雑談混じりで話してみたら、私も料理するなの~と言って二人で始めることに。行き当たりばったりだったけど、ランちゃんのアイデアのお陰で"リン×ラン×キッチンカー"の知名度は順調に伸び、今では私たちの天職だと誇れる程になったわ。


 そんなランちゃんは語尾になの~ってつける程に純粋無垢、いや無垢無垢の無垢ね!


 なのなの天使なランちゃんはキッチンカーを通じてきっと色々な経験を積むわ。そしたらいつか大人になって私のことも敬語でリンさんなんて……それだけはダメ!


 ランちゃんの無垢を護らねばならないのだ!!!


「あの、好きです付き合ってください!」

「はいどうぞ~こちら"好きです付き合ってください"ですよ」


 大福パンを受け取った少年は代金を払いながら照れくさそうにモジモジし。


「……あの、その、本当の告白なんです! リンさんの事が好きで」

「あー! リンには彼氏がいるなの! もう次の人に譲るなのー!」

「あれ、私って彼氏いたかしら」

「もう空気読めなの!」


 まさかこの流れで告白されるなんて。

 一日で五回告白された時も驚いたけど、商品名を利用してくるとは……この子、只者ではないわ!


「ごめんなさいね、私付き合っている時間がないの。あなたも学生ちゃんなんだしお勉強応援するわ!」

「そ、そうですよね……ああの、せめてのこれ! 僕からの気持ちです、受け取ってください!」


 これは……プレゼント?

 小さな木箱に入ってるのは何かしら?


「あ、渡してそそくさ帰っちゃったなの」

「まあ開けてみましょ」


 学生ちゃんから貰ったプレゼント、その中身は……


 千手観音菩薩(手のひらサイズ)だった!!!


「……お客さんお客さん、この仏像の名前なんでしょう」

「ぅええ!? な、なんですかそれ」

「ブブーなんですかそれじゃないですよ~千手観音菩薩でした~」

「リンは仏像で遊ばないなの! てか仏像貰って驚くところなのー!」


 私も開けた瞬間は驚いたけど、手のひらに乗せてみると案外可愛く感じるわ。

 そうだわ、この学生ちゃん達のキューピットとして見守ってもらおうかしら。


「胸ポケットに仏像入れないなの! なんか顔が覗いて怖いなの!」

「ここが特等席なのよ? これでカップル成立の成功率が格段に上がったわ」


 学生ちゃん達が私の胸をガン見してくるのは恥ずかしいけど、これでカップル成立は間違い無しよ!


 列の先頭に来たカップルらしき学生ちゃんが不思議そうに千手観音を眺めてると、サイドにいた女の子が顔を真っ赤にし。


「ちょちょっと正樹君! どこ見てんのよ! ……うッ……私、失望したわ! 正樹君が大きい方が好きなんてええええええ!!!」


 泣きながら叫び走り出す女の子を違う誤解だと追う男の子。

 大きい方?

 コーヒーのサイズを間違えたのかしら?


「今カップル成立の成功率が格段に下がったなの! 早く仏像を胸から出すなの!」


 千手観音を抜き取ってお引越しよ。


「胸から出すってこうかしら?」

「谷間に挟むじゃないなの! 仏像が圧で壊れちゃうなの、救出してショーケースの上に置くなのー!」

「良い物件なのにな~」

「仏像はお胸に住まないなの」


 確かにショーケースの上に置くと高みの見物っぽくて千手観音も喜びそうね。

 いや待つのよリン、これで本当に千手観音菩薩は喜ぶのかしら。最適解が出ていないだけでもっと素晴らしき置き場があるはずよ!


「ランちゃん大至急よ、私の後ろに回ってほしいの」

「ラジャなの、これでどうするなの?」

「そのまま両手を上下にぶらぶらさせるのよ」

「ぶ~らぶら~」


 と言いながら私の背でランちゃんは手を羽ばたかせるように上下運動ぶ~らぶら~。私は列に並ぶ学生ちゃんに自信に満ちた笑顔を決め込む。


「お客さん見てください、私千手観音になりきれてますか?」


 お客さんは私に笑顔で応答するわ。


「手が残像になって千の手っぽいです! あと目を瞑って合掌すると完璧です!」

「な~む~……あ! シワを合わせて幸せね! 千手観音は今幸せなんだわ」


 これで千手観音を移動せずに済むわね!

 高みの見物で私達を見護って貰いましょ!


 なむなむする私を、後ろでぶらってるランちゃんがプンプン怒るわ。


「手を合わせてないで早く手を動かすなの!」

「私まで速く手をぶ~らぶら~させたら千手観音じゃなくて二千手観音になるわ! あ、正確には千九百九十」

「もういいなのー!!!」


 千手観音菩薩は新しいキューピットにはならなかったが、新メニューにひっそり千手観音パフェ(棒のお菓子がめちゃ刺さってる)が追加されていた。

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