第33話 急に寒くなりました

 闘技場に実況の声が響き渡る。


『さぁ長かった今大会も、ついに佳境! 魔法使いの業火が勇者を追い詰めています!』


「どうしたんですか、勇者様?」魔法使いは炎を操りながら、「世界を救う勇者の力……その程度ではないでしょう?」

「……どうだろうな……」


 この戦いに出場するのは勇者である俺一人で良かったのだ。なのに、魔法使いは出場すると言って聞かなかった。

 

 その理由は……


「勇者様と戦ってみたかった……」魔法使いは一歩踏み出して、「あなたの強さを間近で見ているうちに……その気持ちは強くなっていきました。こうして戦えて、本当に嬉しいです」

「そりゃどうも」

「ですが……あなたならもっと楽しませてくれるはず」


 もうすでに全力だ。


 うちの仲間たちの中でも魔法使いの実力は最高クラスだ。その炎の魔法に、どれだけ助けられただろうか。


 その業火が、今は俺に襲いかかっている。正直、対抗策が見つからない。


 額が焼けるように熱い。季節そのものを変えてしまいそうなレベルの火炎が俺に襲いかかっている。


 だが頑張らなければならない。仲間が期待してくれているのだ。なんとかして……魔法使いを倒さなければ。


「さぁ行きますよ勇者様……!」魔法使いは詠唱を始めて、「甕速日神みかはやひのかみ……!」

「なんだその技……!」

「私のとっておきです。究極奥義と言っても差し支えありませんよ」

「そんなもん、ここで使うなよ……!」


 一応仲間同士の戦いだろうが。


 魔法使いの奥義……甕速日神みかはやひのかみが発動する。


 なんのことはない……炎の渦だ。火災旋風だ。超高温度の炎が超高速で、さらに超広範囲に広がっていく。

 

 ……

  

 えーっと……


 回避方法がないな……


 どうしよう、なんて思っているうちに、俺の体が宙に浮いた。


 ……


 やっぱり……こいつ強いな……竜巻に巻き込まれながら、そんなことを思ったのだった。


 そして気を失う一瞬前に、実況の叫びが聞こえた。


『あーっと……! 魔法使いの奥義炸裂! フトンが吹っ飛んだ!』

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