第29話 ネタバレしないでください

 勇者は魔王に向けて叫ぶ。


「お前はいったい……何者なんだ……!」

「俺の正体か……? そんなもの、自分で考えたらどうだ? 俺は未来のお前だよ」


 魔王の正体など、勇者がどれだけ考えても予想できない。


 唯一わかるのは、魔王が自分の攻撃を完璧に予想してくるということだ。まるで勇者の考えや技をすべて把握しているかのようだった。


 なぜだ。なぜ魔王は俺の動きを見切ることができる? ただの技だけじゃなく、今まで仲間にすら秘密にしていた奥義すらも対応されてしまった。


「俺は未来のお前だ」答えを教えてくれる気はないようだった。「さっさと立ち上がれ。お前は……その程度でやられるやつじゃないだろう?」

「偉そうに……お前が俺の何を知っているっていうんだ……」

「お前のことはよく知っているさ、俺は未来のお前だ」研究されていた、ということだろうか。「青臭く泥臭い。理想ばかりを語って誰も守れない……そんな話にならない青二才だ」

「ふざけるな……!」勇者は魔王に剣を向けて、「みんな、守ってみせる。俺の仲間は傷つけさせない」


 魔王は勇者をにらみつける。憎悪のこもった目だった。


「青二才が……教えてやろう。力がなければ、誰も守れない。全員を助けるなどという甘ったれた理想は、大切な仲間を殺すことになる……!」


 魔王のオーラが激しくなる。部屋が揺れ、明かりが砕け散った。


 魔王は勇者に言う。


「かかってこい勇者よ。お前の甘さ……私が身をもって教えてやろう……! 俺は未来のお前だ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る