捧げる者
深香月玲
第1話 始まりは路地裏で
「ねぇお願い、ちょっと来て」
僕の手を引っ張り、路地裏に連れ込もうとする同年代ぐらいの女性。
まただ。よく似た光景が繰り返される。
「あのね、信じられないかもしれないけど…、あなたと目が遭った瞬間にそのぉ…」
自分のことはわかってるつもりだ。容姿が特段整っているわけでもなく、ずば抜けて身長が高いとか、やたら肉付きが良いといった特徴という特徴がないのが僕だ。決して謙遜して控えめに言っているのではない。誰が何と言おうと容姿に関しては「普通」なのが自分の特徴なのだ。
「自分の気持ちが抑えられなくて…」
だがしかし、よくこういう状況に遭遇する。
自分だって不審には思っているので、その度に考えてはみるのだ。もしかして何か怪しい物質でも分泌してるんじゃないか、とか。
「…ねぇ、キスしていい?」
自分も健全な男子ですから、ちょっと可愛い女の子や綺麗なお姉さんに言い寄られて嫌な理由はない。
目の前にいるのは、金髪碧眼の綺麗というよりは可愛い部類に入り、身体も出るところは出てて素敵なお嬢さんです、はい。
そんな彼女が上目遣いで恥じらいながら求めてくるのだ。これを断ることが出来ようか、いや出来るわけがない。
「ん…」
意を決したのか徐に近づいてきて柔らかな唇をそっと重ねてくる。
僕の体を少し強く抱き寄せるので、彼女の体温を豊かな胸の柔らかさと同時に感じる
「君のこと何も知らないのに…、はしたないって思うかしら…」
言ってる間にも舌が絡まってくる。僕は時にやさしく、時に激しくそれを受け止める。
「言っとくけど…私…初めてなんだからね…」
潤んだ瞳で恥じらいながらそう告げる彼女。
初物ありがとうございます。初々しい中にも積極的な攻勢に健全男子の興奮はうなぎ上りです。
「んっ…君に…もっと捧げたい…」
吐息がかかり合う中、更なる熱を以て僕の聴覚をも刺激してくる。
「ダメ、もう我慢できないっ、私の部屋このすぐ近くなのっ、お願いっ、来てっ」
切羽詰まった感じで切り出す彼女が、僕の手首を掴み駆け出す。
それなりに鍛えてますから抗えなくはないが、無粋なので勿論そんなことはせず、彼女についていく。
◇◆◇
コトが落ち着いて寝台の上で微睡む彼女と僕。
さっきも言ったが、こんな僕でも何故かよくこんなことになる。最後までしないまでも抱き付かれたり、キスを迫られたりとかは両手、両足の指の数では足りないぐらいに。
これもさっき言ったが、決して妖しい分泌物など出しているわけもなく、魅了みたいなスキルも所有していない。
言い寄ってくるのは同年代以上で、全員に確認したわけではないが年下からのお誘いはなかったと思う。上は30ぐらいだろうか、素敵なお姉さま方も多くいらっしゃいました。
そして恐ろしいことに自分としてはそのような嗜好は持ち合わせていないのだが、異性だけではなく同性からも必要以上に親愛の情を示されることも…。
「あの…その…、優しくしてくれてありがとう。今、すごく満たされてるわ。」
それは良かった。
こちらも乙女の柔肌を堪能させていただき誠にありがとうございました。なんて直接的な言葉を投げかけることはせず、改めて優しく抱き寄せる。
「でも安心してね。彼女にしてくれとか、ましてや責任取って結婚してなんて言わないから。」
あらら、かなり好みの顔立ちではあったんですけど。こちらとしては渡り歩いている身ではあるが、付いてくることを厭わないのであれば全然やぶさかではなかったのだが。
「君に捧げて安心しちゃったって言うか、繋がって満足したっていうか…あわわ、体がってじゃなくて心が、だからね。」
慌てて説明を付け足しながら恥じらう彼女。
確かに彼女の心に触れたように感じた瞬間、何か力が流れ込んでくるという感覚に襲われた。これも毎度のことだ。実際にレベルが上がっていたこともある。
さっきからレベルだのスキルだのと言ってるが、ここはそういう世界だ。
この世界では生を受けたときに闘士か学士のジョブを授かるのが普通だ。単純に言うと、闘士が体を使うのが得意で、学士が頭を使うのが得意という感じだ。闘士が剣術を研鑽し、ある程度の水準に達すると「剣士」にクラスアップする。槍術だと「槍士」、斧術だと「斧士」とか扱う武器によってクラスアップ先が変わったりする。学士から派生するのは「
闘士から魔術師にクラスアップするのは聞いたことがないが、とは言え闘士が魔法や秘術を全く使えないというわけではない。頑張れば魔法を纏った斬撃をするなんてこともできるらしいが、今のところ「魔剣士」とか「魔法剣士」というジョブを持った人には会ったことがない。
ちなみに僕の現在のジョブは「戦士」だ。このジョブは良く言うと武器を選ばず戦える万能型、悪く言うと器用貧乏ってやつだ。自分の場合は選り好みせずいくつかの武器に精通したらいつの間にかクラスアップしてしまっていたので、後者に近いかもしれない、とほほ。一応、真の万能型を目指してそれなりに精進はしているが、先は長そうだ。
スキルは、攻撃の威力を高めたり、戦闘の動作を補助したりする特殊能力のことだ。例えば「斬撃」というスキルがあるが、このスキルがないと斬る攻撃ができないということはなく、取得することで斬る動作に対して威力や切れ味が上乗せされる。
スキルを取得するにはいくつか方法があり、動作を繰り返すことや、秘伝書を読むことで取得できることがある。また、スキルの練度がある水準に達すると上位スキルに進化したり、派生スキルを取得することもある。
そんなジョブやスキルの状態を把握できるのが、ステータスウィンドウ。どういう仕組みか判らないが、何となく念じると脳裏に浮かぶように見ることができる。
ちなみに今の僕はこんな感じ。
名前:カナタ
生年月日:AS968.9.3(16)
生地:アムラダ
レベル:27
ジョブ:戦士
活力:130/130
気力:118/118
攻撃力:68
防御力:67
魔効力:54
抵抗力:25
機動力:63
スキル:斬撃LV6、打撃LV5、刺突LV4、強撃LV4、連撃LV4、渾身LV3、遠当LV3、守護LV2、魔法LV2、火属性LV2、風属性LV2、
自分で言うのもなんだが、この年齢にしてはまあまあいい方だ。僕は14歳になる前にはクラスアップを果たしたが、同期はまだクラスアップしたばかりというのがほとんどで、未だに闘士のままの者も結構いる。積極的にレベルを上げていない20歳男性で平均が攻撃力30ぐらいなので、それと比較しても十分高い方だ。まぁ、今回のような力の流入が一因であることは間違いないけどね。
ところで、このステータスウィンドウだが、実は他人の情報も見ることができる。とは言っても、見られるのは名前、年齢、生地、レベル、ジョブまでだし、視界内の対象に限定されるし、こっそりと知らない内に見ようとしてもお知らせ機能的なものがついていて、誰それに参照されましたって通知が来るので他人のステータスを興味本位で覗こうとする人はいない。
ただし、身分証明としては十分な情報になるので重要施設の利用時とかには確認される。
「何か君の力になりたいっていうか、それが私の使命みたいに思えるぐらいなんだ。だから、私でできることがあったらまた会いに来てね。」
見送られて彼女の部屋を去る。
んー、今日も元気だ、一狩り行くか。
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