猫好きの俺が、クラス一の美少女と猫友になった話

白い彗星

第1話 交わることのない二人



「にゃお~」


「お……」


 それは、偶然の出会いか……それとも必然か…



 ……とある週末の昼……立宮 奏たちみや かなでは、近所の公園のベンチに座っていた。

 現在、高校一年生の彼は、休日家にこもっているのも退屈であったため、散歩がてら外に出た。


 しかし外に出た時は晴れていた空は、だんだんと暗くなり……今では、雨が降りしきっている。当初晴れていたので、当然傘も持っていない。

 こんなことなら、退屈でも家にいればよかったなぁ……と後悔するが、もう遅い。


 スマホは、家で充電している。時間をつぶすものもなく、屋根付きのこのベンチに避難したはいいが、途方に暮れているわけだ。


「はぁ、ツイてねぇ」


 スマホの充電が切れて、充電が溜まるまでの間暇だし散歩しよう……たったこれだけのことなのに。外に出た奏は、一人呟いた。

 今更後悔しても、家を出る前の自分には戻れない。もし戻れたら、外に出るのを止めるかせめて傘を持って出ろ、と強く訴えたい。


 ざあざあと降りしきる雨は、一向に止む気配がない。

 もうこのまま、濡れるのは諦めて走って帰ってしまおうか。家は、近所だし。


 ただ、せっかくの休日に外に出て、その結果として雨に濡れて帰ったのでは、あまりにもつまらない一日の記憶しか残らない。

 さて、ならばこのまま、いつやむかわからない雨がやむまで待つしかないか……


 そう、考えていたところだ……どこからともなく、猫の鳴き声が聞こえてきたのは。


「みゃうぅ」


「なんだなんだ、野良猫か? ……あ、いや……」


 自分の足下にいた、白い毛玉……のような生き物、猫を見て奏は、頬を緩める。

 か細い声を漏らし、雨に濡れて汚れてしまった体を震わせ、白猫はそこにいた。


 その姿を見て、奏はなにもせずにはいられなかった。なにを隠そう、立宮 奏という男は、大の猫好きなのだ。

 猫が、身を震わせて困っている。この状況で、手を差し伸べないわけがない。


「ほら、こっちこい」


 奏は、前のめりになり白猫に手を差し伸べる。

 すると、白猫は若干の戸惑いを見せながらも、歩みを進め……奏の手のひらに、頬を擦りつけた。


「やっぱ、人に慣れてるな」


 その様子に、奏は自分の予想が正しかったことを思った。

 いきなり現れた白猫……一瞬野良猫かと思ったが、その首に付いている首輪を見て、誰かの飼い猫だと判断した。


 おかげで、こうして人に慣れているわけだ。野良猫ならば、人におびえてしまうだろう。


「お前、この辺の猫か? 飼い主とはぐれちゃったのか……

 どうしたもんかな」


「みゃぅ」


 白猫に話しかけても、答えが返ってくるわけもない。

 奏は、白猫の頬を……そして顎を撫でたりしながら、どう対処するかを考えていく。


 自分ならば、この雨空の下でも我慢できる。だが、猫はそうもいかないだろう。

 雨空の下に放置する選択肢は、ない。ならば家に連れ帰るか? ……もしも飼い主が探していたら、どうする。


 はぐれた飼い猫を探し、人の家に避難させられたとも知らずに延々と雨空の下を走り回ることになる。

 そんなことになっては、申し訳も立たない。


 ゆえに、簡単なようで難しい選択肢に、どのような答えを用意するか……と考えを巡らせていたところで……


「シロー! シロ、どこなのー?」


 ざあざあと降りしきる雨の中、確かに聞こえたのは人の声。それも、なにかを探しているものだ。

 シロ……そう聞こえた。シロという名前の人か……そうでなければ……


「お前のことか?」


「みゃぅ!」


 この、目の前に現れた白猫。可能性は……なくはないだろう。

 シロとは、猫に付けるならばありがちな名前ではないか。白猫なのも、見たまんまだ。

 極めつけに、こんな雨の中ではぐれた飼い猫と、こんな雨の中でなにかを探している人物……


 無関係とは、思えない。


「ほら、多分飼い主が呼んでるぞ。返事してやれ」


「みゃ、みゃあ〜!」


 飼い主らしき人物を呼び寄せるなら、この白猫に鳴いてもらうのが一番だ。

 そのため奏は、白猫を抱き上げる。それに驚いたのか、はたまた奏の気持ちが通じたのか、白猫は鳴き声を上げた。


「シロ!? そっちにいるの!?」


 その鳴き声を聞いた瞬間、飼い主らしき人物は鳴き声の方向……つまり奏のいる場所へと向かってくる。

 この反応はやはり、飼い主と飼い猫の関係で合っていたようだと、奏は胸を撫で下ろす。


 声を聞くに、飼い主は女性だ。一人かはわからないが、こんな雨の中探し回るのはつらいだろう。

 早く会って、安心してもらいたいものだ。


 飼い主の接近を感じているのか、白猫はみゃあみゃあと鳴き続ける。そして、それが飼い主への道標だ。

 ついに、飼い主が奏の前へと、姿を現した。


「……立宮、くん?」


 ……そこにいたのは、思わず目を奪われるような、美少女だった。


「ね、猫屋敷さん?」


 風に揺れるきらびやかな黒髪が、奏の目を引いた。傘をさしていても所々濡れているのは、白猫を探しているのに夢中だったからだろう。

 猫屋敷 星音ねこやしき しおん……それが、彼女の名前だ。そして奏と星音は、知り合いでもある。


 なにせ同じ学校の、同じ教室で授業を受けるクラスメイトなのだから。


「ぁ……」


 奏は、言葉を失っていた。

 それもそうだろう。猫屋敷 星音と言えば、クラス一の美少女と評される存在だ。


 肩まで伸びた流れるような黒髪は、光沢が見える。目元はぱっちりして、白い肌は異性の目を惹く健康さを醸し出している。

 女子の中では平均的な背丈だが、奏と比べると彼女は奏の肩くらいの身長だ。


 クラス一の美少女、誰も気軽に話しかけない高嶺の花のような存在……対して奏は、クラスの中でも目立たない位置にいる。



 ……これは普段であれば、交わることのない二人……奏と星音が、一匹の白猫をきっかけに、互いに関わりを持つようになっていく物語。

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