改造された身体で異世界を生き抜く

@nidegvu

第1話 異世界降臨

 二十歳位の頃だろうか、日々を只何となく過ごしていた俺は実家の墓参りに訪れた際に時空の歪みに巻き込まれてしまった。


 その道中、火の玉の中に身体を閉じ込められてしまった為逃げることも出来ない状態で門番の様な生物の前へ吸い寄せられるとそいつ等はより優れた煌きをもつ個体を取り除き、後は背後に流れる無数のブラックホールへ捨てていた。


 「貴様は....生者の思念が濃く混ざっているな、何故だ?」


 俺を手に取った6本の灰色の腕を持つ生物は俺を選別するか迷っている。


 「ふむ....運が悪かったのか時空の裂け目に巻き込まれてしまったか。これも運命だ、選別する程でも無ければ仕方無いだろう」


 意思が封じ込まれた物体を引き寄せられる間際まで運ぶと宙に遊ばせ、その生物は別の個体の選別に取り掛かった。


 もう逃げることは出来ないのだと絶望し、自分を強く求めようと引き寄せる次元の裂け目に抵抗することも出来ずに消えてしまった。



―――意識が覚醒した時、つまり自分が考えて目に映る光景を認識して行動出来る状態になった時には注射を受けている最中であった。


 頭の中のこの世界での過去の記憶を探り、自身が打たれている薬剤は実験体の副作用を鎮火するための物で、毎日2本打たなければ制御出来ずに身体が焼けただれてしまうのだ。


 「実験体S-4!部屋に戻ったら次の試験まで休んでいて良し!」


 首と両手首に錠が嵌められたままの俺は軍服を着た厳ついおっさんに鎖を引かれ部屋を後にする。


 「さっさと歩け!」


 お前が歩くのが早いんだよ....と、万が一口答えでもすれば懲罰房に入れられ軽い拷問を受ける。


 「16:40分頃に連れて行く!それまで大人しくしているんだ わかったな?」

 

 俺が頷いて返事をすると軍人は鉄扉の前を後にした。


 自分が居る部屋に窓は存在せず、代わりに背後の壁際の中央に配膳される隙間があるのみだ。トイレとシャワーは向かって右側の透明の強化プラスチックのような物の内側についている。


俺がいるこの世界は生まれ落ちてから日の光に当たることは無かった。


 それはこの施設がクローン技術を使って兵力にしている為だ。つまり実験の一つとして計画された対立国の戦士達を駆逐するべく遺伝子レベルで特殊な身体に変化させて人工授精を行う事で俺達を誕生させ商品として売り出すという事。


 試験体には強い催眠術を掛けられ耐久試験に耐えられるよう意識を支配されていたのだが。解けてしまっている今は恐らく地獄を見るであろう。



―――耐久試験は想像を越えた苦痛だった。


 電気を放出できる力を持った俺はまず最初に自身でストックを使い切ると、次は刺突による痛みで放電を繰り返し、完全にダウンすると食事を無理やり取らされてそのエネルギーでストックを貯める。


 実際、痛覚刺激での発電量が非常に優れていたらしく強化ガラス越しに座っていた白衣の人間達は手元に渡された数値に頷いていた。


 試験が終わり部屋に戻されると俺は泥のように横たわり、明日も訪れる恐怖の時間に怯えながら瞼を閉じた。


※※※※


 半年ほど実験に耐え忍んだがいつ終わるのか分からない恐怖に身を震わせるのに疲れてしまい、自殺しようかと考えていた。しかしこの何も無い空間ではそれも出来ず、自身の雷撃は特殊な首輪によって制御されていた為に実行はできなかった。


 次の日に訪れた軍人はいつもと様子が違った。


 「実験体S-4!そこになおれ!」


 背筋を伸ばした俺に横から現れた医者の手が触れ、身体を調べられる。


 心拍を確かめられると、異常なしの査定を受けて何時ものように鎖を引っ張られてどこかへと連れて行かれた。


 他の檻に入れられていた子供たちが居ない事に気がつく。そして過去の記憶にたどり、最初は同じような境遇で前室満員になっていた事。俺の部屋も元々は2人用でもう1人の儚い命は過酷な耐久試験で失われてしまっていたという事。


 「....」


 たった一人になってしまったのが何処か悲しくて立ち止まりそうだったけど前を歩く軍人には逆らえないので仕方無く付いていくしかなかった。


 冷たい廊下の上を裸足で歩き、螺旋階段を登りまた廊下を渡り、迷路のように入り組むバックルームを抜けると赤く警告灯が光る一室....何時もの実験室に到着した。


 「入れ」


 扉の横に付いている電子キーにカードをスキャンさせて扉を開くと血飛沫が染み付く緑に着色された床に俺と同じく鎖に繋がれた女の子がそこに立っていた。


 「おい!」

 「うっ....」


 立ち止まると首輪を引かれ、それに反応する家畜のように歩かされると着々と彼女に近づいて行った。


 部屋の中央に並ぶ白いだけの衣服の男女、そして二名の軍人。


 強化ガラス越しには軍服の胸元にいくつかの勲章を付けた上官らしき人物が、マイクを手に持っていた。


 「まずは総勢1000の識別個体の内耐久試験を見事クリアした二匹及び監査役の君達に賛辞を送ろう」


 マイク越しに拍手が伝わる。


 「時間が無いので簡潔に説明させてもらう。これから生き残った識別番号S-4、そしてD-12。お前達には迷宮へ潜ってもらい、全ての魔物を駆逐する事を命ずる。我々の資金確保に必要なのだ、よろしく頼む。では此れにて失礼する」


 男はそう言い残して去っていった。


 「大佐から説明があった通り、おまえ達は駐屯地側のグレン迷宮へ潜り、全ての魔物の駆逐と奥深くに存在するボスモンスターを攻略してもらう。二度説明したぞ?これ以上は聞かれても答えんからな」


 再び鎖を引っ張られた俺達は実験室を後にすると、エレベータールームへと進み、そこから数分程かけて地上施設に到着した。


 施設内は外からの猛吹雪に打ち付けられており、それでいて薄明るい光が差し込むものの、地下の冷たさとは違い暖房器具が充実しているのか暖かかった。


 そして施設を進んだ所である一室に到着すると


 「明日出発する。それまで二人共此処で大人しく待機していろ」


 扉が勢いよく閉められ、外から鍵がかけられると足音が遠くへと消えていった。


 暖房が効いた部屋に残された2人。1人は薄汚れた黒髪に少し目つきの悪い少年。もう一人は青白い髪色に赤のシャープ線が入ったのが特徴の少し痩せこけた女の子。


 少女は部屋に入るなり洗面所に行き顔を洗い始めた。


 「あの....」

 「....」

 

 歯を磨いた後の蛇口を閉める音のみが聞こえると、タオルで顔を拭いた少女は積んであった布団から自分の分だけを抜き取り部屋の奥に敷いてその中に丸まった。


 「おやすみ....」

 「....」


 声を掛けるも沈黙のまま少女は布団から起きてくることは無かった。

 

 ガクッと尻もちを地面に付ける。毎日の耐久試験のせいで疲労から抜け出せていない分が降り掛かってきた為だ。


 呼吸を整えて意識が微睡みの中に沈む前に何とか立ち上がり、温水がでる洗面台に向かった。


 そうこうしていると壁際の受け取り口から2人分の食事が流れてきた。


 今日も正方形の食器に入った3食ムースかとうんざりして仕方無く口に運ぶもやはり美味しくなくてがっかりした。


 寝ている少女の前にそっと彼女の分を置くも反応は無く、寝息も聞こえてるのかすら分からない。


 食事を終えると何となく一息が付き、歯磨きを済ませるとそのまま布団の上で横になった。


※※※※


 ドンドンと扉を叩く音がして目が覚めると俺を監視していた軍人が鉄扉の目元にあるスペースの薄い鉄板をずらしてギラつかせていた。


 奥に寝ていた筈の少女は既に起きており、扉の前に立っていた。

 


 「後20分で出発する。10分後には来るからそれまでに食事を済ませておけ、以上」

 

 慌てて起きて整列した俺の前で軍人は特に怒ることも無く必要事項を伝えるのみで、食事が流れてくるといつの間にか居なくなっていた。


 「あの、食事....食べる?」

 

 食器をとって渡すとようやく少女は口を開いた。


 「あのさぁ、食べるのがどうこうとかわざわざ聞く必要ある?勝手でしょそんなの」


 少女は俺から食器を奪うと昨日の残飯の上に無理やり重ねて配膳台へと置いた。


 不味いことを言ってしまったかと焦っている俺を一切気にかけず洗面台で顔を洗い始めた。


 

――10分後、支度を終えたと言っても顔を洗う以外する事が無かった俺達の前に軍人は現れて首輪に鎖をかけると扉の外へ連れ出していった。


 無駄のない構造のエントランスを出ると温まっていた身体に寒風が痛く打ち付ける。


 身体を丸めながら連れて行かれると軍用車両に乗せられ外の景色を見ることも出来ぬまま1時間程揺れる事になった。


 駐屯所に到着した頃だろうか、乗り合わせた職員から厚手のコートと靴を支給されるとそれを着込み、再び寒空に晒される。


 駐屯地から奥の山に隊員たちが作業をしているのを見るに恐らくそこがグレン迷宮の入口だと予想する。


 「早速奥にある山から貫通した地下に潜り、迷宮へと入ってもらう。基礎戦闘については特に教える事はない身体で覚えろ」


 何と薄情な....いや、俺達の身体が普通ではないことを見越して言ってるんだろう。実際訓練といっても時間が掛かるし恐らくモンスターとは実戦でしか戦う機会が無いはずだ。


 それにダンジョンは本当は深い山中に存在しており、ここは無理やり地下の中層辺りまで貫通させたのではないだろうか、だったら只のスライムなんて雑魚は居ないはずだし初っ端から中堅レベルの敵が襲ってくるという訳だ。


 「1日の投薬時間迄に帰ってこい。時計は渡してある」


 以前は2本打たなければ制御出来なかった身体は今では半分で十分になっている。24時間すると耐えられなくなると言われており、自分の体が焼け爛れる感覚は思い出しただけで身震いが起きてしまう。


 自らで打てるように出来ないかと交渉したいのを支配や拘束の摂理から逃れられない現状を突きつけられる気がしたので止めておいた。


 2人は歩幅をバラバラに、迷宮へと探索に入った。


 

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