第8話握手会当日まで

先日、未来人に連れられて訪れたスタジオでブロマイド撮影会は行われた。

様々なポーズや角度で最適解のブロマイドを取ると未来人はそれを業者に発注して量産した。

現在はブロマイド一枚一枚にサインを書き込んでいる所だった。

ビデオ通話の画面には神内未来の姿もあった。

彼女は俺が寝落ちしないように見張ってくれている。

残り数百枚になっていたが終わりが見えずに絶望感を軽く感じていた。

「これ…本当に終わるかな?」

「終わりますよ。大丈夫。手を動かして」

「………」

そこから俺は手を止めずにノンストップでサインを書き続ける。

「南翠とはその後どうですか?」

「ん?何も無いけど?そう言えば最近は連絡もないし」

「へぇ〜。泣き事言ってこないんですね」

「ん?何か知ってるの?」

「まぁ」

「なに?教えてよ」

「終わったら教えますよ」

「卑怯だな…」

「全然卑怯じゃないです」

そこから俺は数時間を要してサインを書き終えるのであった。



「それで。サインを書き終えたけど?教えてくれるんでしょ?」

疲労感を感じている俺は伸びをすると大きな欠伸をひとつした。

「あぁ〜。なんでも元カレにストーカーのような行為をずっとされ続けているみたいで。精神的に参っているいみたいですよ」

「そうなんだ。俺にはどうしようも出来ないけど…」

「ですね。見守ることしか出来ないんじゃないですか?そもそもただの元カノですから」

「そうだね。最近チャットが届かない理由は、それが原因か」

「だと思いますよ。でも良いじゃないですか。麒麟児が先導したわけじゃないですし」

「そうだね。でも精神攻撃は辛いからなぁ〜」

「南翠の肩を持つんですか?」

「それはないけど」

「ですよね。じゃあ本番当日も控えているので体調管理は怠らないでくださいね」

「分かった。何から何までありがとう。助かるよ」

「いえ。ではまた」

そこでビデオ通話を終えると自宅に戻ることもなく配信部屋のベッドで休むのであった。



本日は握手会本番であった。

幸運なことにチケットは即完売したらしく、本日は選ばれた千人が会場に足を運ぶことになっていた。

千人と握手を交わしブロマイドをサプライズで渡していく。

一人の所要時間は殆ど数秒ほどだった。

それでも彼女らは短い時間で俺に様々なことをアピールしていく。

「大好きです♡」

「一生最推しです♡」

「これからも応援しています♡」

「ずっと観ています♡」

「これからも頑張ってください♡」

「引退しないでくださいね♡」

「生きる生き甲斐です♡」

「尊い♡」

一人一人が様々なアピールを行い千人分の握手が終わると俺は会場の外に出て彼女らを見送ろうと思った。

会場の外に出ると何故か彼女らは俺が来ることを分かっていたようで待ち構えている。

「今日も今日までも本当にありがとう。君たちのお陰で俺は今生きています。本当に感謝します。ありがとう」

深く頭を下げて感謝を告げると割れんばかりの拍手が巻き起こった。

黄色い声援や唸るような轟音が鳴り響くと俺は再び頭を下げて控室に戻っていく。

十分に満足してもらえたと思う。

そんな気持ちに浸りながら控室で着替えを済ませると扉をノックする音が聞こえてくる。

「はい?」

応じると中に入ってきたのは神内未来だった。

「打ち上げ行きましょう。二人きりで」

「それぐらいならお安い御用ですよ。今日までの感謝もありますし。行きましょう」

そうして俺と神内未来は飲食店へと向けて歩き出すのであった。


次話予告。

神内未来との夜。

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