第2話少しずつ疲弊していっている

「メンバーシップではどんな事をしているの?」

元カノからの唐突な連絡から数日が経過した頃に再び連絡が届く。

「殆ど歌枠だよ。南は付き合っていた頃に散々聴いたでしょ?あの頃とそんなに歌唱力も変わらないし…入る必要ないよ」

嘘ではないが真実は口にせずに誤魔化すようなチャットを打ち込んだ。

「ふぅ〜ん。入らないけどね。一応気になって聞いただけ。無料で観られる動画のほうが多いし。お金払ってまで観ようと思える人って居ないからね」

南翠は完全に俺や配信業を馬鹿にして下に見ている発言を目にして嫌気が差す。

結局今でも南翠は俺のことを馬鹿にしているのだ。

では俺の何が目当てかと言えば…。

詰まる所お金だと思われた。

そんな好意も何もない相手に良いように扱われるのは懲り懲りだ。

「そうだね。サブスクだし。毎月少しでもお金が引かれるのはきついよね」

「まぁ…私はそんなに高給取りってわけじゃないから」

「そう。お互い頑張ろうね。じゃあこれから配信するから」

「うん。またね」

そうして俺は本日ゲーム実況配信をしながらフリートークを進めていた。

しかしながらメンバーシップではないので南翠のことは話もしなかった。

「じゃあ今日の夜はメンバー配信もあるので…良ければどうぞ。ではさようなら」

配信停止ボタンを押すと俺は直ぐにメンバーシップの枠を作ると小休憩に向かう。

冷蔵庫に入っているエナジードリンクを手にすると口に運んでいった。

眠気を感じている訳ではないのだが糖分で脳内の思考をクリアにしたかったのだ。

スッキリとした気分になったような気がして俺は再び配信部屋に向かうと椅子に腰掛けた。

メンバー限定の配信開始ボタンを押すと既に殆どのメンバーが待機している状態だった。

「はい。今日もメンバー配信にお越し下さりありがとうございます。それで早速進捗なんだけど…」

そうして俺は南翠から再び連絡が来たことと俺の活動を今でも薄っすらと小馬鹿にしている事を話して聞かせる。

「は?前回の配信のときはまだ許すつもりだったけど…」

「普通にキレそう」

「これだけ登録者がいるってことはファンがそれだけいるってことでしょ?それなのに麒麟児の活動を馬鹿にするってことは…私達のことも馬鹿にしているってこと?」

「麒麟児 元カノ で検索してみな。顔写真と名前も晒されているから。そいつがターゲットだよ」

コメント欄は荒れ始めていて俺は宥めるような言葉を口にする。

「俺は気にしてないけどね。これだけファンが居て充実した生活を送れていて。何の文句もない生活をさせてもらっているからね。話した俺も悪いけどさ。ただの世間話のつもりだったんだ」

コメント欄を煽るような先導するような言葉を口にして悪い笑みを浮かべていた。

「麒麟児が気にしなくても…私達の怒りは収まらない」

「謝っても許さない」

「絶対に痛い目見せる」

コメント欄のガチ恋勢は怒りに満ちており俺はそれをほくそ笑むようにして観ていた。

「じゃあ今日の配信はここから本番ね。またいつものように歌枠だから。聴いていってくれたら嬉しいよ」

そうして俺は深夜の防音室でメンバー限定歌枠配信を行うのであった。



「なんか最近…多くの人に監視されていると言うか…怖い視線を感じるんだ」

南翠は俺に相談するようにチャットを送ってきてガチ恋勢は遂に動いたことを理解する。

「そんなことある?男性との間でトラブルとか?ストーカーか何か?」

知らない振りをして返事をすると南翠は否定の言葉を口にした。

「それはないと思う。毎回私が一方的に振るけど…そういうことは一度もなかったから…」

俺の時もそうだった。

南翠は凝りずに俺の時と同じようなことを繰り返していた事を知って再び怒りのようなものが顔を出した。

「毎回あんな別れ方していたら恨まれていても可笑しくないと思うよ。俺は何とも思ってないけど。今後は気を付けて」

「うん。わかったけど…どうすればいいかな?今の監視してくる人達は…」

「直接なにかされたの?」

「うんん。されてない」

「じゃあ気の所為じゃない?警察に行っても被害がないからね。取り合ってもらえないと思うよ」

「だよね…。怖くなったらまた連絡しても良い?」

「ご自由に。配信中じゃなければ対応できると思うから」

「うん。ありがとう」

そこで俺はスタンプを送ると本日も配信の準備に取り掛かるのであった。



南翠は確実に疲弊していっている。

俺のガチ恋勢が動いたかは確信を持って頷けるわけではない。

南翠はきっと他にも恨みを買っている。

誰がどの様にして接近しているのか…。

それの確証を掴むことはまだ出来ない。

しかしながら俺が直接手を汚さずに復讐は少しずつ進んでいるのであった。

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