第32話
『パートナーを助けるのに必要なソードの数は一本でして……また、ソードはすべて一回限りの使いきりとなります』
「その言い方だと、ほかにも使い道があるようだな」
『ご明察でいらっしゃいますね。ご自分のパートナー以外のかたでも、ソード二本で救出することができますので……フフフ』
ジーク様と目配せして、私からも念を押しておく。
「例えばの話よ? 私がジーク様ではなくマキューシオを助けた場合……私は本来の主人を、ロベルトはペアを助けなかったことで、リタイア扱いになるのかしら?」
エックスは不思議そうに首を傾げた。
『……はて? 剣をお持ちなら、ご自分のお相手を助けると思いますが……まあ、剣を一本でも刺した時点で、救出側は生存とみなしましょう』
確かに私の質問はルール上『ありえない』こと。にもかかわらず、彼は回答を用意していた――これは何かあるわね。
また、ペア以前に主従関係で運命をともにしてるプレイヤーも多い。私とジーク様はもちろんのこと、クロウ親衛隊とカチュア女史団もリーダーの生存が不可欠。
「カチュア女史の救出に失敗しても、そっちの侍女は全員アウトか」
『ルールはルールでございますので』
侍女たちにとっては重荷が増えた。ペアの相手のみならず、キトリが不測の事態に陥ったら、カチュアも助けなくてはならないもの。
さらにエックスは、昨日はなかったルールを付け加える。
『タイムリミットは三時間と致します。一時間ごとに鐘を鳴らしますので』
「間に合わなかった場合は?」
『もちろんペアは両者とも脱落となります』
表情を曇らせたのはクロウのほか、カチュア婦人だった。
私たちやシモンズ夫妻はどう転んだって『二人一組』だから問題ない。一本でもソードを回収できれば、それで済む。
しかしクロウ親衛隊やカチュア女史団はなまじ人数が多いため、より多くのソードが必要だった。仲間の箱まで開けるには、ソードも二倍の数がいるわ。
『無論のこと、ソードの譲渡は禁止です』
当たり障りのないルールにロベルトが疑惑を投げかける。
「譲渡でなければ、どうなんだ?」
『……はて? ご質問の意味がわかりません。さあ、どちらが箱にお入りに?』
しかしエックスは飄々ととぼけ、先に進めてしまった。
わざとらしく誤魔化してくれちゃって……譲渡は不可でも、強奪は可ってことじゃないの。剣を探すほうのメンバーは敵同士ってこと。
『箱はこちらにございます。どれでも、お好きなものへどうぞ』
エックスの合図とともに、スタッフが映像のものと同じ『箱』を運んできた。一応、どの箱もまったく同じものみたいね。
ほかにちょっとしたルールも追加される。アンティノラ城で見つけたものは好きに使っていいとか、ね。エックスの手で銀色のコインが光る。
『そうそう……このメダルはぜひ集めておいてください。フフッ』
あとあとカジノでゲームもありそうだわ。
ジーク様が箱の蓋に手を掛ける。
「僕が入るよ。オディール、君はソードを探してくれ」
「わかりました」
ご主人様に窮屈な思いはさせたくないけど、私が探すほうが早い……か。
クロウも自ら箱の中に入ってしまった。
「マキューシオ、お前も付き合え」
「……わかったよ。ともに苦しみを分かちあおうじゃないか」
マキューシオまで待機となり、ソード探しは意外な面子となる。
私と、ロベルトと、カチュア女史団のキトリと……あとはシモンズさんなどなど。
『さあ張り切っていきましょう! ドキドキ救出ゲーム、スタートです!』
突然、天井から鋭利な鎌がいくつも降りてきた。ジーク様たちの頭上で振り子のように揺れ、カチュア女史は悲鳴をあげる。
「きゃああっ! わ、私をどうするつもりなの?」
『三時間後にはみなさんの頭に命中するでしょう。器用なかたは一分か二分、持ち堪えられるやもしれませんが……』
タイムオーバーはパートナーの死亡を意味するってわけね。
逆に言えば、三時間は大丈夫ってこと。
「すぐに鍵を持って参りますので」
「ああ。君も気を付けるんだぞ、オディール」
ご主人様に背を向けて、私は一回戦の舞台へ急ぐ。
本戦の火蓋は切って落とされた。
大理石の回廊を抜け、シリウスは大きな書庫に辿り着く。
「こいつは驚いたな……」
壁のすべてが本棚と書物で埋め尽くされていた。軽く図書館の粋にも達している。
だが、いくつかの本には魔物が潜んでいた。開けっ放しの本から怪物が飛び出し、シリウスに襲い掛かる。
「お前らと遊んでる暇はないんでな」
それを一蹴しつつ、シリウスは別の気配に気付いた。
この本も誰かが本棚から抜き取ったものらしい。近くで物音がする。
「……出てこい。おれはお前を殺したりしないさ」
あえてシリウスは構えを解いた。
恐る恐るといった様子で、冴えない貴族の青年が姿を現す。
「あ、あんたは……?」
「通りすがりのもんさ。シリウスってんだが……お前はアンティノラ号の乗客か」
彼は尻餅をつくと、子どものように鼻水を垂れた。
「オ、オレはキーツ……ここまでは逃げてこれ、ひぐっ、たんらけど……」
「落ち着いてからでいい。まずは鼻を拭け」
殺し屋の自分でも肝を冷やすような事態なのだ。泣くのも無理はない。
ひとしきり泣いたあと、彼は恥ずかしそうに顔をあげた。
「すまねえな、オッサン。みっともないとこ見せちまって……助けに来てくれたのか?」
「そういうわけではないんだ。この船には調査で、な」
「調査……ひょっとして美術品とか?」
何のことやらと、シリウスのほうが首を傾げる。
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